Zeiss_Telementor_World

Carl Zeiss社の小型天体望遠鏡の世界を綴っています。

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Schulfernrohr 50/540

つい先月、「ツァイス望遠鏡博物館でもあれば、レストアを施して展示しておきたいほどの貴重な望遠鏡」”Schul-und Amatuerfernrohr 63/840”を取り上げたばかりですが、それからひと月も経たないうちに、またもやアメリカのポータルサイトAstromartに、東独ツァイス草創期の小型望遠鏡が売りに出されました。1955年にリリースされたツァイス史上もっとも小さい望遠鏡"Schulfernrohr 50/540"です。

●Astromart Classifieds
※リンクが切れる場合があります。

イメージ 1

セラーはドイツのBochum在住のKai Patrick Raemmeleさんという方です。"Bochum"は「ボッホム」とか「ボーフム」と表記されますが、発音としては「ボッフム」に近い感じです。ルール州立Bochum大学を抱える学園都市で、日本の大学と交換留学や交換教員を積極的に行っているので、市内では日本人もよく見かけます。地理的にはドルトムント"Dortmunt"とエッセン"Essen"の中間にあり、BW-Opitk社があったゲルゼンキルヒェン"Gelsenkirchen"もすぐ近く(※)です。
※現在はブレーメン"Bremen"の西方100kmにあるアッシェンドルフ"Aschendorf"に移転しています。

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古い話で恐縮ですが、私がドイツに在住していた当時、Optik Kochというメガネ屋さんがBochum市内にあり、何度か訪れたことがあります。ツァイスの望遠鏡を展示していた数少ないお店だったからです。(ドイツの小売店は展示品でも原則買取なのでツァイスの望遠鏡の実機を展示しているお店は極端に少ないのです)

Astromartの売り出しタイトルに、"Antique Zeiss Jena School/University Telescope"とあるのも学園都市の影響かもしれません。

5cmの卓上望遠鏡というと現在ではオブジェのように思われるかも知れませんが、Schulfernrohr 50/540は総重量18.3kgもある立派な屈折赤道儀です。たかが5cm、されど5cm。ツァイスが5cm屈折赤道儀を造るとこうなるという見本のような望遠鏡です。

また、50/540といえば後年、自作用のセル入り対物レンズが大量に出回りましたが、このように専用の鏡筒と赤道儀に仕立てられたモデルはなかなかお目にかかれません。画像でもめったに実機を崇めない激レアモデルです。

ところで、第2次世界大戦後のカールツァイス・イエナ社がリリースした学習及びアマチュア用小型望遠鏡の歴史については、6.3cmのTelementorの視点からはこれまで何度も紹介したことがありますが、その他の口径については取り上げたことがありません。そこで、これを機に過去の資料から少し整理してみたいと思います。

1949年: Schul- und Amateurfernrohr 63/840 (※1・※2)  
      [6.3cmAS型・1型赤道儀(1954年に電動化)]
1954年: Schulfernrohr 63/840 (※2)      
      [6.3cmAS型・簡易赤道儀]
               Amateurfernrohr 80/1200  
      [8cmAS型・1型赤道儀]
               Amateur-Astro-Kamera 71/250
      [250mmF3.5テッサー型・9cmx12cm版アストロカメラ]
               Amateur-Spiegelteleskop 110/1100 
      [11cmニュートン反射・1a型赤道儀]
               Amateur-Spiegelteleskop 150/900/2250 (※3) 
      [15cmカセグレン反射・1型赤道儀]
1955年: Schulfernrohr 50/540
      [5cmアクロマート・簡易赤道儀]

(※1) Schul-und Amatuerfernrohr 63/840

(※2) 珠玉の天体望遠鏡Telementorの歴史

(※3) カセグレン150/2250(ツアイス望遠鏡の展示室:鈴木隆さんのサイトより)

1949年に東ドイツが建国され、ツァイスも国営企業VEB Carl Zeiss Jena社として再出発しましたが、ラインナップはまだ乏しく、1954年にようやく小型天体望遠鏡の生産・販売体制が整ったのかも知れません。当時の資料を見ると、1949年の1号機投入直後から、「より大口径を求める声があったためAmateurfernrohr 80/1200を追加した」とありますので、8cmモデルだけは他より早く(つまり1954年より以前に)リリースされていた可能性があります。

"Schulfernrohr 50/540"については、さらに1年遅れて1955年にラインナップに加わったことが分かります。同社の最小モデルとして当時のツァイス社のカタログには下記のように掲載されています。

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『ASTRO-GERAEDE fuer Amateure』(1955年:独文)

標準付属のアイピースはハイゲンスの25-Hのみで22倍、オプションのオルソスコピックはまだ6-O、10-O、16-O、25-Oの4種類しかラインナップされていません。画像にあるダイヤゴナルは天頂ミラーで、この望遠鏡用に開発したと考えられる普及モデルです。何故かこの天頂ミラーだけは拙宅にあり、下記の記事で紹介しました。(下記)

●ZeissのZenitprisma(天頂プリズム)とZenitspiegel(天頂ミラー)[その2]

しかし、こうしたカタログの情報だけでは不明な点も多くありました。Astromartに今回、実機の詳細な画像が載ったことで、カタログでは分からない構造や塗装の質感、そこから機構や材質までも推察できます。非常に貴重な情報だと思います。

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赤道儀は典型的なフリーストップのドイツ式ですが、卓上タイプであることから、画像にもあるように地上観察もできるよう極軸体を立てて経緯台としても使うことができるようになっています。

鏡筒の固定は上位モデルのようにアリミゾ・アリガタではなく、ビニールホースを蛇口等に固定する仕組みと同じホースバンド式です。したがって鏡筒の脱着はクランプを緩めて対物側に抜き差しして行います。また、そのため鏡筒にはフードの段差がありません。

また、画像からクランプノブの形状は、その後の1b型やT型赤道儀と共通のものであることが分かります。この手のパーツは顕微鏡や測距儀などの他のツァイス製品と共用されていることが多いのです。

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不思議なのはブランドマークであるCarl Zeiss Jenaのレンズロゴの表示が無いことです。"JENA"のみのプレート表示は西独ツァイスとのブランド係争を伺わせますが、リリース当初はまだこの問題が表面化していませんでした。したがって、人民公社化(国営化)により何らかの問題を抱えていたのかも知れません。ちなみに、このモデルは1961年のカタログからは落ちていますので、生産はわずか5年間ほどでした。

この望遠鏡でもっとも注目すべき点は、対物レンズを鏡筒内部で前後させて合焦するインナーフォーカスを採用しているように見えることです。フォーカスノブが鏡筒横にあり直接鏡筒に接続されていますから、どのような仕組みで合焦しているのかたいへん興味深いところです。

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当時、このモデル以外の屈折望遠鏡はラック&ピニオン式合焦装置を採用しており、やがて1961年からヘリコイド式合焦装置に変更されます。このインナーフォーカス合焦装置は当時、Schulfernrohr 50/540だけに採用されていました。それもわずか5,6年でディスコンとなるわけですが、1977年にTelementor 2で採用されたインナーフォーカス機構の源流がここにあったのかも知れません。

Astromartでの今回の販売価格は約3,999ドル。円高の現在であってもなかなか手が出せる価格ではありませんが、博物館級の望遠鏡であることに違いありません。

戦後のツァイス社にとって、5cmの完成望遠鏡は後にも先にもこれが最後です。ディスコン後は前出の通り、50/540の対物レンズが自作教材として、アイピースやアイピースホルダーとセットで供給されました。

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厳密にはこの自作教材で供給された50/540の対物レンズは2枚貼合のアクロマートであることが多く、Schulfernrohr 50/540に搭載された2枚分離式のフラウンホーファー型アクロマートとは別のものです。どちらも同じ50/540と表記されていますが、硝材も異なります。

後者はしばしばドイツ国内でE50/540と紹介されていますが、ツァイスがあえて上位機種のようにC63/840やAS80/1200とレンズタイプを付記していないのは、それなりのルールがあるのでしょう。したがって、ここでもそれに従ってレンズタイプのない50/540とだけ記しています。

さて、たかが5cmアクロマートですがなかなか侮れません。一例としてベルリンの南約20kmに位置するミッテンバルデ在住のアマチュア天文家、Michael Schmiedecke氏が、50/540の自作鏡筒とCCDカメラで撮影した土星を以下に紹介します。氏は、いろいろなタイプの望遠鏡で天体写真を撮影し、ホームページで公開しています。

●Astronomie in Mittenwalde(Herr Michael Schmiedecke)


画像はドイツの著名な天文ポータルサイトDer AstroTreffにリンクを貼ったもので、この他にも50/540で撮影した月面や木星の画像も紹介されています。(下記URL)

●Der AstroTreff

相変わらずドイツにはどのような機材も徹底して使い込む天文ファンが多く、国民性もあるのでしょうがいつも感心させられます。

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