|
合格発表があって、何日か落ち着かない日々が続いた。
「お付き合いは、高校生になってから・・・」の言葉が、この後どのような形で展開されていくのか、勝手に気にしていたのだ。
卒業するまでは、用事があろうとなかろうと、学校に行けば彼女の姿を見ることができた。
しかし、卒業してしまったあとはそうもいかない。
僕のうちに電話はない。電話なら、僕が電話するしかない。
郵便という手段なら、どちらかがアクションを起こせばいい。
彼女の方から、何のアクションもないだろうという予感がしながらも、
自分から何らの行動も起こせないまま1週間ほどが過ぎた。
意を決した。「彼女に、会いに行こう!」「彼女に、『合格おめでとう』を言いに行こう!」と。
自転車で渡船場に行き、渡し船に乗った。自転車まで乗せても、10円という渡し賃。
夕方の曇った日だったことが、今も鮮明に思い出せる。
住所を手掛かりに、彼女の家を探した。思いのほかすぐに見つかった。
「彼女がいるのだろうか。」「他の人が出てきたらどうしよう。」
ドキドキしながら、引き違い戸の外から「こんにちはぁ」と、声をかけた。
すぐに彼女が出てきた。私服だった。白のとっくりのセーターとミニのタイトスカートだった。
彼女は、非常に大人びて見え、中学の制服を着ている自分が、とても子どもに思えた。
彼女はびっくりした表情を見せたが、他人の目がないせいか笑顔で迎えてくれた。
彼女は、「ちょっと待ってて。」と言って、家の中に一度引っ込んだ。
すぐ、戻ってくるや、家の人と何やら話をしてきたようで、「上がって行く?」と、尋ねられた。
今思えば「かまへんの?」と言って上がればよかったとも思う。
しかし、彼女の前に立っているだけで精いっぱいの僕は、
「い、いや、時間がないから・・。」と言ったかどうかは覚えていないが、上がることはできなかった。
彼女の家から渡船所まで、二人で歩いて行った。彼女と僕が二人っきりで道を歩いたことは2回ある。
この時が初めてであり、その次は8年後になる。
何を話したかはよく覚えていないが、例の話は彼女の方から切り出されてきた。
「『お付き合いは高校生になってから』という約束したの覚えてる?」と言ってきたのである。
びっくりした。そして、彼女がずっと覚えてくれていたことをうれしく思った。
「覚えてるで。」と答えながらどぎまぎしていると、彼女は言葉を続けた。
「お互い、高校遠いし、文通してもあんまり会われへんと思うんよ。
お付き合いはせん方がええと思うんよ。」と。
頭の中が真っ白になるということを、生まれて初めて実感した瞬間だ。
どんどん耳が遠くなっていくような気がした。
「そうやなぁ。高校生活に慣れるのも大変やろうしなぁ・・・」と、
精一杯強がって、彼女に話を合うわせた。
二人とも同じ方を向いていたからよかったものの、
僕はきっと泣きそうな情けない顔をしていたに違いない。どんな挨拶をしたかは覚えていない。
15歳の僕は、半年近く彼女の言葉を信じていたことをどう受け止めていいのかわからなかった。
埋めようのない喪失感に戸惑った。失恋である。振られたのである。
これまでのすべてが滑稽に思えた。自分のすべてが否定された気になった。
誰もいない海辺の道を、何やら叫びながらペダルを踏んで帰った。
今でも、「陸上競技」と聞いただけで思い出すという強烈な1年間は、終わってしまった。
(マラソンのおかげで、心筋梗塞にならなかったことを考えると、
中学3年生の一所懸命が自分の命を救ったのかな・・・笑・・・)
|