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■学問に限定した活動報告―美学・藝術学・能楽理論・演劇学・解釈学・哲学・仏教学・神学・宗教哲学・日本思想・精神医学・・・晁衡■

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 京極夏彦『姑獲鳥の夏』(うぶめのなつ)には、いろんなヴァージョンがあります。

ゝ極夏彦『姑獲鳥の夏』講談社ノベルス、1994年。
京極夏彦『文庫版 姑獲鳥の夏』講談社文庫、1998年。
5極夏彦『ハードカバー版 姑獲鳥の夏』講談社、2003年。
さ極夏彦『分冊文庫版 姑獲鳥の夏(上)』および『分冊文庫版 姑獲鳥の夏(下)』講談社、2005年。
サ極夏彦『姑獲鳥の夏』講談社ノベルス、2005年;非売品。
Ρ撚茵惴罰幼擦硫董拇豕泪譽リエーション、2005年;京極夏彦原作、実相寺昭雄監督、池辺晋一郎音楽。


 イ痢崗型まめ本」版は、おもしろいアイデアだと思います。縦横8cm×5cmの小さな本です; 『姑獲鳥の夏』講談社ノベルス、2005年。非売品です。映画の前売り券を買った人に先着限定で配布されたものです。

 それに、「豪華単行本」版(ハードカバー版)も、凝っています。背表紙以外の紙面のふちは「墨染め」で、「うぶめの姿が白抜きで印刷」されています; 『ハードカバー版 姑獲鳥の夏』講談社、2003年。

 京極さんの独自のセンスが発揮されています。

 小説の内容も、興味深い。民俗学や心理学や物理学などの学問の知識がふんだんに盛り込まれています。しかも専門家が講義するよりも正確で、わかりやすい説明の仕方をしていて、その語り口には圧倒されました。京極さんの文章表現の底力を見せつけられ、ほんとうに脱帽しました。

 「新たな認識」と「価値の発見」;いままでふつうにながめていたことでも、見方を変えると新しいものとして見えてくる。古い時代の迷信であっても、それなりの意味があって、社会を維持していくための仕組みとして有効である場合もある。

 おもしろい見解だと感じた箇所を、以下に引用しておこう;


 下巻;29ページ;
 「『君はさきおととい、うぶめは幽霊じゃなくて、お産で死んだ妊婦の無念という概念だ、といっていたじゃないか』 

 『そうだ。しかし考えてもみたまえ。死んだ人間自体に無念なんてないんだぜ。無念というのは残された、生きている人間の方にあるのだ』。

 『念を残して死ぬから無念なんじゃないのか?』

 『違うよ。死人がものを考えられる訳がないだろう。死ねばそれまでさ。生きている人の方が、無念だったろうなと考えるのだ。凡そ怪異は遍く生者が確認するんだ。つまりね、怪異の形を決定する要因は、生きている人、つまり怪異を見る方にあるということだ』。

 『どういうことだ?』

 『つまりね、男が見るウブメは女、女が見るウブメは赤ん坊、そして音だけのウブメは鳥なんだよ。そしてこれらは皆、同じものとして認識されていたのだ。当然、ウブメは今どきの人が謂う幽霊とはイクォールじゃない。お産で死んだ女の無念というよりも、もっと広い範囲で捕えなければ理解出来ないものなんだ』。」

 下巻;122ページ;
 「『呪いはあるぜ。しかも効く。呪いは祝いと同じことでもある。何の意味もない存在自体に意味を持たせ、価値を見出す言葉こそ呪術だ。プラスにする場合は祝うといい、マイナスにする場合は呪うという。呪いは言葉だ。文化だ』。」

 下巻;252ページ;
 「『地域の民俗社会にはルールがある。呪いが成立するにも法則というものがある。無意味な誹謗中傷では成立しません。民俗社会では呪う方と呪われる方に、暗黙のうちに一種の契約が交わされている。呪術はその契約の上に成り立っているコミュニケーションの手段です。しかし現代社会では、その契約の約款が失われてしまった。更に共同体の内部では、呪いに対する救済措置もきちんと用意されている。努力した結果の成功も憑物の所為にされる代わりに、自分の失敗で破産しても座敷童子の所為に出来る。都市にそんな救済措置はありません。あるのは自由、平等、民主主義の仮面を被った陰湿な差別主義だけです。現代の都市に持ち込まれた呪いは、単に悪口雑言罵詈讒謗、誹謗中傷の類と何ら変わらぬき能しか持たないのです。…』」

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この前お話していた記事ですね。京極さんには高校生の時に出会ったのですが、読んで直ぐに京極中毒に。その後京極禁断症状。あの頃は民俗学者に憧れていました。京極にエーコ、そして聖書。振り返ると稔りの多い高校時代だったようです。

2005/10/20(木) 午前 0:26 [ - ] 返信する

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