※フォトは咲耶子
――「暗殺」とて人間のやることであり、実際は映画や小説通りにはいかない――
「暗殺」とはひそかに要人を狙うことで、実行犯及び命令元が、表沙汰になることはマレであるはずだ。
だが現実の暗殺がこのようにおもてに出てしまうのは、映画や小説のように理想通りには人間が立ち振る舞わないことにつきる。
現実は高度に訓練された暗殺実行犯が、良心の呵責から標的の家にたずねてきて、その場で自首したり
(ソ連が出した要人暗殺計画では、二度も同じターゲットで起きている)
または、誰かの暗殺をを打ち合わせる会議で、議事録や手書きのメモをうっかり残したり、暗殺犯が、サイレンサーが手を火傷するからという理由で、捨ててきてしまったり、爆弾の点火装置を忘れたり、スキューバダイビングのタンクを残してきたり、毒物の精製がお粗末で相手が死ななかったり、こうした珍失敗は枚挙にいとまがなく、ゆえに、わたしたちの知るところとなる。
――安価な暗殺は、国にとっては、お手軽と言っても過言ではない――
現代において最も一般的な暗殺は、国家が行なっていることをご存じだろうか?
その数は各国政府が公式に認めているよりも、実はずっと多い。
何故なら暗殺は通常の外交過程の延長上であり、戦争よりもずっと安上がりなのだ。
たとえばサダム・フセインの暗殺は、弾丸一発の値段をとって「八セントのオプション(選択肢」と呼ばれていた。
つまりイラク問題の解決策として最も安上がりな手段ということだ。
――首相が暗殺犯である国家すらある――
イスラエルは、ミュンヘンオリンピック選手テロ事件の報復を「神の怒り」作戦と名付け、暗殺を公にしてはばからなかった。
それだけではない。
首相が暗殺部隊の実行犯だったのだ。
このときエフド・バラク首相は、近年最も大胆な殺人計画の指揮官だった。
1973年4月6日のことである。
黒いかつらをかぶり、濃い化粧を施し、ブラジャーの中には手榴弾という女装姿のバラク率いる暗殺部隊がベイルートに侵入、PLOの幹部3人を射殺した。
――暗殺の成功には、各国の諜報、公安機構が何らかの形で関わっている――
つまりかれら自身が実行する。
もしくは黙認する。もしくは準備を手伝う。
もしくは被害者をしっかりと護衛していなかったせいで、暗殺が成功してしまう。
このように、ほとんどの暗殺事件はここに入っている。
※フォトは咲耶子
――フランス政府の「虹の戦士」号、暗殺事件が知られることとなったお粗末な展開とは――
フランスの諜報機関DGSEは、ニュージーランドのグリーンピースへの暗殺を企てた。
当時、フランスの核実験に対する抗議で、やすやすと国際マスコミの注目を集めていたからである。
だがこの暗殺計画は、コメディ映画ばりの馬鹿らしさを呈した。
作戦はフランス人ダイバー二人が、グリンピースの船「虹の戦士」号に機雷をすえつけるというもの。
実際、爆発によって一人が命を落とした。
そして爆発の30分後に工作員たちは道具一式を取りに戻ったのだが、このとき夜警に目撃されてしまう。
おまけにレンタカーのナンバープレートの番号まで書き止められてしまうのだ。
かくて工作員たちは、車を返却する際にニュージーランド警察に逮捕される。
そしてフランスがやったという犯行の手がかりが、次から次へと出てきてしまう。
港に置き去りにした酸素ボンベにはフランス語が書き付けてあり、持っていたノートには電話番号が記され、なんと、フランス国防省につながってしまうという有様であった。
――フランスは恥も外聞もかなぐり捨てて、暗殺をなかったことにしようとした――
その後、必死の隠蔽工作が行なわれるが、事態はさらに目を覆いたくなるような方向へむかった。
諜報機関は事実の真相を隠すため、ジャーナリストたちにニセ情報を流した。
その情報とは「虹の戦士」号はソ連の工作船であるという嘘だ。
しかしこれはうまくいかず、今度はMI6とCIAの「アングロサクソン陰謀団」が主犯に仕立て上げられた。
さらにフランスは、ニュージーランドに対して経済制裁を発動、輸入を締め出し、バターの関税を高くすると脅した。
このなりふり構わないフランスの非常識は功をそうする。
背に腹は代えられないとニュージーランド政府はフランス政府に屈服したのだ。
晴れて、実行犯らは腹痛治療、女性工作員は妊娠と、あっさりと本国帰還、無罪放免となる。
当時、フランス政府はジャーナリストに「虹の戦士」号沈没させる正当な権利があり、問題は逮捕されたことのほうだと発言している。
――CIAのカストロ暗殺のための大まじめなアラカルト――
これはジョークではない。
大真面目に見当されていた暗殺計画の一部だ。
このような珍作戦はタイプライターのインクリボンの文字跡から再現された報告書に書かれていた。
○ボールペンそっくりの毒入り注射器
○毒を染み込ませたダイビング・スーツ
○爆弾を仕掛けた大型の貝
○ラジオ局にLSDガスを噴霧
○幻覚剤入りの葉巻
○カストロの顎ヒゲに脱毛剤
○毒剤の錠剤
○爆薬
○30口径ライフル
○45口径ピストル
○高性能ライフル
○暗視メガネ
○サイレンサー