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「事故の原因は…運転手の服薬による人事不省だと記憶していますが。」
医師の声が重苦しい回想から俺を現実へと引き戻す。
「…そうです。検死の結果…そう判断されました。」
でも、父は。
父さんは…薬なんか飲んでいなかった。
否。
意図的に飲む筈が無かった。
姪に当たる類を目に入れても痛くない程に可愛がっていた父。
厳格で不器用で、愛情表現の下手な人物だったけど。
俺と類を…家族を心の底から愛してくれた。
そんな父が、類の晴れ舞台の日に。
しかも、大切な家族を乗せて運転する事が分かっているのに。
薬を飲むとは考えられなかった。
しかも。
叔父の遺体からも…微量ながらも同じ薬物が検出されたと当時の新聞に書き立てられた。
…どうして…。
「何故、身体的に何ら異常が無いにも関わらず”彼ら"は薬を服用していたのか。それについて貴方は”答え"をお持ちの様だ。」
「......................。」
医者の滑舌が良過ぎるせいか。
遠回しの筈の核心が、まるで皮を剥かれた林檎の様に…目の前に突きつけられた気がした。
…ぞっとしてプツプツと泡立つ肌をシャツの上から強く押さえる。
「事件については多少調べさせて頂きました。昔の事件も。極最近の事件も。」
「世界的な名医だとは伺っていましたが。…探偵の真似事もされるんですね。」
精一杯の嫌みを投げかけると、さも、嬉しそうに医者が手を打ち鳴らす音がだだっ広い駐車場に木霊した。
「残念ながら。1956年以降、国際度量衡委員会により国際単位系に置いては一日とは24時間、1440分、86400秒と定められているそうです。…勿論、
例外は有りません。私にとっても…です。」
だから?
それが何だって言うんだ…。
慇懃無礼な物言いにも、悪意の見えない飄々とした態度にも苛立ちが募った。
俺はアンタの御高説を伺いたくてここに居る訳じゃない…礼儀も常識的振る舞いもかなぐり捨てて、吐き捨てそうになった瞬間。
医師の所有物で有ろうと思われる車の向こう。
常夜灯の明かりを受けてぼんやりと浮かび上がる男の輪郭。
光量が少なすぎるせいだろうか…何の変哲も無い中背の薄い影。
「探偵を雇って俺と類を見張っていたんですか?…それとも…誰かに頼まれた…?例えば…俺と類を始末しろ…とでも。」
怒りと憎しみが織り交ぜられた俺の言葉を意に介した風も無く、もう一人の男は俺に向かって小さく頭を下げ、闇色の医師は…満面の笑みを浮かべてもう一度手を打ち鳴らした。
「私は医者です。探偵でも悪魔でもない。…あちらの彼も、探偵でも殺し屋でもありません。多少風変わりでは有るが…善良な一市民です。貴方や類さんと同じ様に。」
「嘘だ!!」
自分でも制御不可能な強い想いが胸を突き破り、埃っぽいつむじ風が吹き過ぎる駐車場に溢れ出した。
「嘘だ…貴方は…金の為ならどんな違法行為も厭わないと。表の世界では絶対に許されない医療行為に手を染めていると噂されている。そうでしょう?だから、あの時も…自分から交換条件を持ちかけ、病院から俺達を逃がした。違いますか!?」
あの時。
病院で目を醒ました時。
「鹿苑寺さん」と呼びかける白衣の医者だけが視界を締めていて。
俺は、自分がまだ”鹿苑寺 周”として存在している事実に愕然とし、同時に類がどうなったのか…それだけが気になった。
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地質学者や反対住民の声を黙殺し、鹿苑寺建設が強硬に建設を押し進めた高級ホテル。
真新しい大理石が音を立てて捲れ上がり、断裂した水道管から吹き出す水飛沫が麻美の全身をしとどに濡らした。
突然の天変地異に驚いた類は。
固く繋がれていた麻美の手を振りほどいて駆け出し、俺と麻美はそれぞれの思惑を込めて叫んだ。
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