康平さんとまとんさん

ご無沙汰です♪...と、取り敢えず言ってみる...

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類 -31-

「事故の原因は…運転手の服薬による人事不省だと記憶していますが。」

医師の声が重苦しい回想から俺を現実へと引き戻す。

「…そうです。検死の結果…そう判断されました。」

でも、父は。
父さんは…薬なんか飲んでいなかった。
否。
意図的に飲む筈が無かった。

姪に当たる類を目に入れても痛くない程に可愛がっていた父。
厳格で不器用で、愛情表現の下手な人物だったけど。
俺と類を…家族を心の底から愛してくれた。
そんな父が、類の晴れ舞台の日に。
しかも、大切な家族を乗せて運転する事が分かっているのに。
薬を飲むとは考えられなかった。

しかも。
叔父の遺体からも…微量ながらも同じ薬物が検出されたと当時の新聞に書き立てられた。

…どうして…。

「何故、身体的に何ら異常が無いにも関わらず”彼ら"は薬を服用していたのか。それについて貴方は”答え"をお持ちの様だ。」

「......................。」

医者の滑舌が良過ぎるせいか。
遠回しの筈の核心が、まるで皮を剥かれた林檎の様に…目の前に突きつけられた気がした。
…ぞっとしてプツプツと泡立つ肌をシャツの上から強く押さえる。

「事件については多少調べさせて頂きました。昔の事件も。極最近の事件も。」

「世界的な名医だとは伺っていましたが。…探偵の真似事もされるんですね。」

精一杯の嫌みを投げかけると、さも、嬉しそうに医者が手を打ち鳴らす音がだだっ広い駐車場に木霊した。

「残念ながら。1956年以降、国際度量衡委員会により国際単位系に置いては一日とは24時間、1440分、86400秒と定められているそうです。…勿論、
例外は有りません。私にとっても…です。」

だから?
それが何だって言うんだ…。
慇懃無礼な物言いにも、悪意の見えない飄々とした態度にも苛立ちが募った。
俺はアンタの御高説を伺いたくてここに居る訳じゃない…礼儀も常識的振る舞いもかなぐり捨てて、吐き捨てそうになった瞬間。

医師の所有物で有ろうと思われる車の向こう。
常夜灯の明かりを受けてぼんやりと浮かび上がる男の輪郭。
光量が少なすぎるせいだろうか…何の変哲も無い中背の薄い影。

「探偵を雇って俺と類を見張っていたんですか?…それとも…誰かに頼まれた…?例えば…俺と類を始末しろ…とでも。」

怒りと憎しみが織り交ぜられた俺の言葉を意に介した風も無く、もう一人の男は俺に向かって小さく頭を下げ、闇色の医師は…満面の笑みを浮かべてもう一度手を打ち鳴らした。

「私は医者です。探偵でも悪魔でもない。…あちらの彼も、探偵でも殺し屋でもありません。多少風変わりでは有るが…善良な一市民です。貴方や類さんと同じ様に。」

「嘘だ!!」

自分でも制御不可能な強い想いが胸を突き破り、埃っぽいつむじ風が吹き過ぎる駐車場に溢れ出した。

「嘘だ…貴方は…金の為ならどんな違法行為も厭わないと。表の世界では絶対に許されない医療行為に手を染めていると噂されている。そうでしょう?だから、あの時も…自分から交換条件を持ちかけ、病院から俺達を逃がした。違いますか!?」

あの時。
病院で目を醒ました時。

「鹿苑寺さん」と呼びかける白衣の医者だけが視界を締めていて。
俺は、自分がまだ”鹿苑寺 周”として存在している事実に愕然とし、同時に類がどうなったのか…それだけが気になった。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

地質学者や反対住民の声を黙殺し、鹿苑寺建設が強硬に建設を押し進めた高級ホテル。
真新しい大理石が音を立てて捲れ上がり、断裂した水道管から吹き出す水飛沫が麻美の全身をしとどに濡らした。

突然の天変地異に驚いた類は。
固く繋がれていた麻美の手を振りほどいて駆け出し、俺と麻美はそれぞれの思惑を込めて叫んだ。

類 -30-

「......................。」

「いつから貴方は彼女を自分と入れ替えようと考え始めたのですか?」

職業柄だろうか。
それとも、この医者個人の持って産まれた性格か。
沈黙も…質問を無視して遣り過ごす事も許さない鋼の意志が…その静かな口調に込められていた。

「俺は。…類に全てを譲ってやりたい。名前も過去も未来も…人生の全てを。何もかもを…自分自身さえも無くしてしまった類に俺が全てを与えてやりたい。そう望む様になったのは…あの事故の後、類の症状が発覚した頃からです。」

「26年前の交通事故。貴方の両親、そして鹿苑寺 類さんの両親…多くの人が命を落とした首都高速の事故ですね。」

「......................。」

頷きながら。
俺の脳裏にあの日の惨劇が蘇った。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

ハンドルを握っていた父に何か…異変が起きた。

その時、後部座席に並んで座っていた俺と類。
あの日は。
類のピアノ発表会。
大人の女みたいに肩を出した青いドレスを纏って。
スポットライトの中、瞳をキラキラさせて俺達に笑いかける類を見た最後の日。

まだ、小学生だった俺は…母親に無理矢理着せられた窮屈すぎるシャツのボタンを外そうと躍起になっていて。
左隣の類が「ヤメなさいよ。周。家につくまではきちんとした格好をしてないと。私や伯父さま達が恥ずかしい思いをするんだから。」と年上ぶって。
実際は一年早く産まれただけの癖に姉貴風を吹かせて、いつもの様に俺を叱った。
助手席から母が振り返り「周。類ちゃんの言う事を聞いて大人しくしてて頂戴。…もう、本当に落ち着きの無い子なんだから…。」と類に加勢する。

いつもの。
普段通りの我が家の光景。

なのに。
その直後。
世界が裏返った様な衝撃で何もかもが…全てが滅茶苦茶になってしまった。

前を走っていた筈の叔父の…類の父親の車がフロントガラスに大写しになり。
粉々に砕け落ちるガラスの破片とアスファルトに削り取られるタイヤの軋みの中、甲高い類の悲鳴だけがやけにはっきりと聞こえていた。

今となっては。
事故についての情報は散々調べて、原因も結果も分かっているけれど。
あの時、俺は何も考える事なんか出来ずただ、母の声に従っただけだった。

運転席の父は即死で、横転した前の車に乗っていた類の両親はかろうじて生きていた。
母は…。
俺の母さんは…。
吹き飛んでしまったドアの向こう。
雨に濡れた道路を指差して…叫んだ。

「周!!類ちゃんを連れて行きなさい!!」

ガソリンと血の匂いが満ち溢れる車内から毅然と指差す先。
料金所の明かりが…まるで唯一の救いの様に瞬いていた。


「…類。」
俺は泣きながら車から這い出し、表から類の手を引いた。
瞬く間に全身を濡らす雨の中、二台の車が吹き出す煙がモノクロに染め変えて行く世界。

「…いや…。」
悲鳴を飲み込んだ類は、歯をカチカチ鳴らしながら…首を横に振った。

「周!!」
 俺を呼ぶ母の声。
そして「類」と…呻く様に叫ぶ様に。
高く低く漏れ聞こえて来る叔父と叔母の声。

「ここに居て…。」
恐怖で血の気を失った頬に涙を滴らせながら…類が俺の手を引き戻した。
それでも。

「走れ!!」
そう、叫んだ自分の声に弾かれる様に。
俺は力ずくで類を車から引きずり出し、死に物狂いで駆け出した。

頼りない蛍光灯が瞬く、小さな料金所を目指して。

直後に。
背中から襲った爆風と熱気で路上になぎ倒され、降りしきる雨に全てを押し流されても。
俺は類の手を離さなかった。

類 -29-

真っ直ぐに見つめる視線を受けて。
街路樹に肩を預けていたアマネが小さくため息をついた。
そのまま、ゆっくりと歩きだしたかと思うと、俺にギリギリ手が届かない範囲で脚を止める。

「俺の事はいい。…俺の望みはたった一つ。…一つだけだ。」

それは何?
アマネが望む未来が一体なんなのか…俺はどうしても知りたかった。
知る必要が有った。

なのに。
答えを聞いてしまえばこの関係が終わってしまう気がして。
近くの歩行者信号が赤になって青になって…また、赤になっても。
固く引き結んだ唇を噛み締めたままのアマネを急かして、答えを引き出す事は出来なかった。

そのまま。
再び歩き出したアマネを追って、時間は進み始めた。

…終わりに向かって。





俺達は大都市の人混みの中を歩き回り、人目につかない街角から鹿苑寺建設の社屋を見上げ、白亜の総合病院や有名進学校や国立大学、閑静な住宅街をただ、黙って通り過ぎた。
その行為に何の意味が有るのか。
俺には分からなかったし、アマネも何も語ろうとしなかった。

俺に取っては懐かしく当たり前の光景。
職場や、かつて通った学び舎、生まれ育った家。
それらを遠くから眺めるだけで鹿苑寺 周だった頃の自分に戻りたいと願いを新たにした。
…なのに。
常に俺の視界に…鹿苑寺 周の顔と身体と声を持った男が存在する現実に違和感を感じなくなる自分を…受け入れ始めていた。

その夜。
散々、歩き回ってクタクタになった俺は。
白く無機質な部屋に帰って、アマネが支度した夕食を食べた。

缶詰のスープとフランスパン、そして、血の様に紅い葡萄酒。
小さなテーブルで向き合って、言葉少なに夕食を終えると、俺は早々にシャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。

何だかとても疲れていて。
頭の芯が痺れた様に霞んでいた。
あっという間に、吸い込まれる様に眠りに落ちて行くのに。
頭の中で誰かの声が聞こえた気がした。

「ハシレ」

それは少年の声。

「ココニイテ」
それは…少女の…。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

薄明かりに包まれたベッドの上。
白いシーツが穏やかに上下している事を確認して、俺は部屋を出た。

出来るだけ音を立てない様に玄関扉を施錠し、そのまま非常階段を駐車場まで降りる。

途中、どうしても気になって。
胸ポケットからiPhoneを取り出すと着信履歴がぎっしりと画面を埋めていた。

…分かっている。
彼らが俺達を探している事実。
その理由も理解している。
でも、今は…。

ゆっくりと首を横に振り、雑念を振り払いながら電源を切った。

駐車場に降りると既に俺を待っている長く伸びた人影。

…暗闇でも、見間違える筈が無い程に背の高い医師の影がアスファルトを闇色に染める。

「薬は指示通り服用させています。本人は何も気づいてはいない。」

挨拶を省いて、俺は事実のみを彼に伝える。

今は白衣を脱ぎ、日中とは真逆の漆黒の衣類に身を包んだ医者。
高すぎる身長、癖の強過ぎる黒い髪、そして、俺と同じく"珍しい苗字"を持つ男。

「夢を見ている様子は?」

事務的な質問に返す答えはNO

「彼女は今現在”自分を誰だ"と主張していますか?」

その質問に答えを返すのは、正直、難解だった。

「最初は”アサミ”だと思ったのかも知れませんが。俺に遭ってからは…”鹿苑寺 周”だと。事故で身体が入れ替わってしまったんだと信じています。」

自分でも。
常識的に理解しがたい会話だと思ったが、目の前の医者は動じる風も無くただ静かに頷いてみせた。

「それは、貴方がそう信じる様に仕組んだ結果…ですね。いつからです?…鹿苑寺さん。」

類 -28-

「......................。」
折り畳まれた内側は見えなくても、そこに何が書かれているか、俺には分かる。

でも。

掴んでいたアマネのシャツをようやく離し、少し呼吸を整えながら、ゆっくりと屈んで紙片を拾う。
周囲を探る視界の片隅に引っかかった…古ぼけた鉄製の屑篭。
広げた手の上をコロコロと転がって…白い紙切れが、暗い縦穴の奥に消えて行くのを見届ける間、二人とも沈黙を守り続けた。

「…いいのか?」

走ったせいで乱れた前髪を大きく?き上げアマネが訊く。

「何が?」
空っトボけて空を仰ぐ俺。

「何が…って。連絡先なんだろ…"あの人"なら助けてくれると…そう、直感したから声をかけたんじゃないのか?」

アマネの疑惑は図星だったし。
情けない事に…さっきの俺は本気で誰かに縋ろうとしていた。
自分でもアマネでもない”第三者"に。

「いいんだ。彼は関係ない。これは俺とアマネとアサミの問題だから。」
「急に強気だな。エリート弁護士で…ちょっと男前だからって初対面の男に泣きつこうとした癖に。」

…やっぱり。
予測通り、腕を組んで街路樹に寄りかかるアマネの声は隠しきれない苛立ちを含んでいて。
その子供っぽい拗ねた口調は、何故か大学時代の自分を連想させた。

鹿苑寺建設を継ぐ為、会社に入るか。
大学で学んだ"知識"を活かす為、院に進むべきか。
…割り切れない悩みを抱えて行き詰まり、自分の殻に閉じ篭っていた未熟な自分を。

「泣きついてなんか無い。相談しようと思ったんだ。それに…アマネは初対面だろうけど、俺は彼をよく知ってる。彼がどれだけ頼りになる人間かを。…彼は乾先生っていって…鹿苑寺建設の法務顧問を担当して下さっている弁護士なんだ。人間的にもとても優れた信頼に値する人で…アマネだって…あんな態度を取らないできちんと話していれば、彼の人柄がよく分かった筈だ。」

俺としては。
アマネと喧嘩をする気なんか更々無くて。
今は運命共同体だから。
アマネだけが俺の”類”だから。
たった二人きりだからこそ。

…伝えたかっただけなんだ。

俺の知り得た世界を。
俺が関わった人々の事を。

俺の全てを。

「…じゃあ。今からでも遅くない。連絡すればいい。…そして、助けてくれって頼めばいい。…彼ならきっとなんとかしてくれる。お前はそう信じてるんだろ?」

「......................。」

多分。
アマネは嫉妬してるんだ…と思った。
俺があの弁護士を頼って、自分から離れて行く。
そんな風に感じて…裏切られた様な…置いて行かれた様な切なさを感じている。
俺がアマネにそんな想いをさせる訳が無いのに。
俺がアマネにそんな想いをさせる訳が無い事を…アマネ自身が一番よく分かっている筈なのに。

「約束しただろ。」

弁護士へと繋がる確かな希望を飲み込んだ屑篭に背を向け、アマネを見上げる。

「俺達は協力して二人ともが納得のいく結末を手に入れる。」

十時間程前。
自分の意志でアマネと交わした約束。
俺達は…二人で解決策を探し。
そして、受け入れる。
例えどんな結末であろうとも。

俺だけが助かろうなんて思わない。
俺が自分の躯に戻って元通りの生活を取り戻すなら、アマネも相当の…いや…俺以上に納得の出来る未来を手に入れて欲しい。
もし、アマネの望む結末がどこにも無いというなら。
俺はこのまま…この身体のまま、アマネと生きて行く。

「どちらか片方じゃ駄目なんだ。俺も…アンタも幸せじゃなきゃ…二人一緒じゃなきゃ意味が無い。」

キッパリと言い切ってしまうと、何故だか気持ちが落ち着いた。

周囲を見渡せば。
セカセカと足早に歩き去る人々や額に汗して働く人々の居る日常。
当たり前の暮らし。
きっとそれは、俺にもアマネにも有った筈。
俺は元の暮らしがどうだったのか思い出せない。
でも、アマネは。

「アマネは…元の暮らしに戻りたいんだろ?」

出会ってから、お互いを知らなさ過ぎて衝突を繰り返したけど。
今更ながらに確認しておきたかった。

「アマネが本当はどこで何をしていたのか、俺は知らない。幸せだったのか、そうじゃなかったのか。何も分からない。だから。教えて欲しいんだ。」

台湾行って来ました♪

でもね。
こっちのブログが久しぶり過ぎてUP出来ないんですよね…。

なので。
お暇ならアメブロ見て下さいませ♪

凄く良い旅だったんですが…。

流石に夜勤明け出発の夜勤入り帰宅はキツかったです…。

http://ameblo.jp/abiwo-u/entry-11703391914.html

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