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腐敗のダイナミズム

コーポレートがらみの汚職腐敗というのは、グローバル化によってますます増え、わたくしもかつて5年前にもJMMでコーポレート・クライムについて書いたことがありましたが(46回目)、あれから世の中はすこしも良くなっておらず、それどころか腐敗の手口はますます巧妙になってきているらしい。私企業だけでなく公共機関もふくめ、汚職を通じて闇に消える金額は毎年100万兆ドルになるのだといいます。

はやい話が、今回のサウジの兵器購入(*1)でも売買価格の一割がワイロで消滅しているのです。つまり世界の市民はワイロの横行によって定価より高い買い物を強いられているわけで、そういうことから、OECDはここ10年あまり汚職とか腐敗防止に積極的に取り組んでおり、「外国公務員贈賄防止条約」という条約を起草し、「公務員倫理向上のためのガイドライン」みたいな指針をつくり、加盟国の実施状況を監視したりもしておりました。

 (*1)BAEシステムという会社とサウジアラビアの王室とのワイロ疑惑があります。BAEはイギリスの兵器産業で、サウジアラビアへ戦闘機を売りつけるために、防衛大臣をしていたサウジの王子とその取り巻きたちに多大のワイロをばらまいたとされる一件である。

このガイドラインはなかなかよくできたペーパーで、わたくしも弊機関の Code of Conduct を書くにあたり、この指針を参考にしたことがありましたが、「外国公務員贈賄防止条約」は1997年に制定され、イギリスも加盟しているが、先進国の中で立件がひとつもないのはイギリスだけらしい。イギリスだけ贈賄の起訴がないのはおかしいと不思議に思ったOECDが目を光らせていたというわけである。つまり、今回のようなケースでもブレア政権は「国益」という蓑に隠れて外国相手の贈収賄をもみ消してきたわけであるな。

腐敗による経済損失は先進国だけでなく、途上国もおかげでいつまでも貧困から脱出できないのだとして、国連開発計画が中心になって、昨年、研究会がひらかれました。先日、わたくしはこの研究会の議事録を読んでおりましたが、実定法の執行制度が確立されていなければならないと論じた参加者がおりました。

だが、どうして役人というのは、わたくしもそのひとりであるが、わかりきったことを得々と述べるのだろう。問題は執行の制度化ではなく(ま、これがなければ話は始まりませんけど)、制度を実行する意思(やる気)の有無なのではないのか。上に述べたように、BAEのワイロが通用するのはブレア氏に立件する意志がないから、という話なのであります。

国連のアナン政権末期に、oil-for-food スキャンダルというのが起きたことを読者は覚えておられようか。120億ドルという国連史上かつてなかった規模の詐欺が摘発され、国連はおおきく信用を失なっただけでなく、アナン事務総長も家族がらみで関わっていたとの疑いをもたれ、当時彼が進めていた機構改革もこのスキャンダルに足をとられて空転するという事態が生じたのでありました。

国際機関というところは外見を気にするところでもありますから、ひとつスキャンダルが起きると、振り子は大きく反対に振れる。事務局内にはEthics Office 倫理局というオフィスがあたらしく開設され、物資調達の手続きは徹底的に細部まで条項化された。調達を担当するオフィサーは自らの銀行口座を開示する、おなじポストに5年以上いてはいけない・・・などと、わたくしなんかからみると、どうにも熱ものに懲りて膾(なます)を吹いているのではないかと思うほど、ネジはキュウキュウに締められたのであります。「ここまで締めつける必要はあるのかなあ」とわたくしの同僚は呆れていたが、これが国連というものである。

刑法では罪刑法定主義といって、犯罪は法律ですべて規定することになっている。逆に言うならば、法律の規定にない行為は犯罪とはみなされず、セーフである。だが、「法さえ守っていれば事足れリ」だけでは腐敗は根絶できないのでありまして、さきほどのOECDのガイドラインは「法令遵守(コンプライアンス)は、法律さえ守っていればいいのだということだけに終わらない。法律さえ守っていればいいという考えは、逆に言うと法すれすれの綱渡りを奨励することであり、組織の倫理を傷つける。雇用者は組織の追求する価値を職員に叩き込み、カラダに染込ませておく必要があるのだ」と提言しております。

さらに、職員には不法行為に直面した時、彼らには組織からどのような保護と援助が与えられるか、はっきりと理解させる。そして、職員に倫理的な行動を求めるなら、見返りとして雇用条件(例えば公平な昇進、向上の機会,充分な給与)などの保障を整備・確保しておかなければならないのだ、とガイドラインは言っております。
つまり、話は国際公務員制度全体のあり方に及んでくるのですね、ほんとうは。規則を部分的にいじくるだけでは腐敗防止の解決にはならないのですよ、ほんとうは。

また、汚職や腐敗というのは、スキャンダルというおどろおどろしい側面を持つ。汚職やワイロは刑事罰の対象となるが、スキャンダルは社会の制裁という別個の圧力の対象であります。汚職というのは発覚すると世間にとってスキャンダルとなり、法制度とは別のメカニズムで回転することがおこります。醜聞は当事者を抹殺しようとする別のモメンタムを引き起こす、法的議論とは別個の興味深いテーマであります。

マネージャーや政治家はじぶんのビジョンを売り込み、賛同を求め、賛否の協和音・不協和音をまとめながら、事業を進めていく。「Strategy Alignment の三角形」というモデルがあります。人事を組織の戦略にどのように組み込むかというモデルですが、モデルは3つの三角形の図式でできていて、最初の三角形は組織の構造を表す。
トップが細く、下に行くほどスタッフの数は増え、図形は太くなる。次の三角形は逆三角形であります。戦略とかビジョンを考えるのはトップマネージャーたちの仕事ですから、トップは戦略の細部まで熟知している(はずである)。その情報量は下に行くほど少なくなり、平社員になれば組織の戦略など知らない(ことが多い)。逆三角形なのです。ところが、戦略を実行するのはトップではない。彼ら平社員たちなのであります。彼らに組織のビジョンがきちんと伝わらなければ戦略はただしく遂行されることはないのであります。そういうことで、理想的なマネジメントとは、二番目の逆三角形が筒型になっていることが望ましい。トップの意図が同じ分量、部下に伝わっていることが望ましいというのです。コミュニケーションの大切さを論じたモデルで あります。

情報を完全な円筒形的に共有しろというのは、組織として非現実的だとは思いますが、このモデルは情報の流通を重視しているところに意味があります。情報の流通(すなわち対話)のないマネジメントでは、戦略が末端に理解されることはない。

だが、ウォルフォウィッツ氏(*2)は反対派に耳を傾けなかっただけでなく、賛同していたスタッフも無視し、みずから国防省から連れてきた子分たちでまわりをかため、ちいさい政策決定サークルを作ってしまった。情報は流通することはなく、彼の真意(というものがあったとして)は正しく伝わらず、ために、本来なら彼の味方になったであろうスタッフも無視されたとの思いを抱き、敵方へまわってしまった。だから恋人の給与を6万ドルほどかさ上げしたとき、ひとびとはこれをスキャンダルととらえ、世銀全体が非難の声を上げて辞任を要求するにいたったのであります。本来なら味方だったスタッフまで敵にまわしてしまったわけだが、そのことだけをとってもウォルフォウィッツ氏はマネージャーとして失格であったな、とわたくしは思う。
 
(*2)前世界銀行総裁。 女性スキャンダルで辞任。

対して、アナン氏は oil-for-food という国連史上にもかつてなかった規模のスキャンダルに関わったとの疑惑を受けながらも、辞任しろという声が(若干のネオコンを除いて)まったく起きなかった。それはアナン氏が常々反対の声にも耳を傾けるコンセンサス・ビルダーだったからだと思うのです。批判者たちにも「自分たちは無視されているわけではない。リスペクトされているのだ」という意識があったために、話は辞任話に膨らまず、彼は生き延びた。

ジョン・スチュワート・ミルは『自由論』のなかで「民主主義というのは、多数決でことを決めることではない。少数者の意見がどのように反映されるかということなのだ」と書きましたが、ふたりの明暗を分けたのは、ひとの意見(反対意見も含む)を尊重するかしないかという、デモクラシーの初歩的な認識の違いだったのであります。威張られて無視されるとひとは反発するのでありまして、反発するひとはあらゆる事象を捉えて、反撃を計る。スキャンダルは、敵にまわった勢力が相手を抹消するかっこうの口実なのであります。結果的に、ウォルフォウィッツ氏はたった6万ドルで職を失い,アナン氏は120億ドルの疑惑でも生き延びることができた。東京証券取引所において、日興コーディアルが生き残り、ライブドアが上場を廃止されたのも、その公平さは別にして、おなじ原則が働いたのだと言えるのではないか、とわたくしは思う。

ところで、先月の「母の日」。わたくしと娘は、女房に香水を贈りましてね。香水はジェーン・バーキンの「 L'air de rien なんにもない感じ」といいますが、オランダでは売っていないので、わたくしがこのあいだロンドンに行った時に買った。 思い出す香りは、兄の髪の匂い、父の煙草の匂い、書斎の大きな机に置かれた革のマットの匂い、引き出しの木の匂い、書架に積まれていた古い書籍の匂い・・・。それらのイメージをリン・ハリスという調香師がつくりあげ、Miller Harris という、リンさんの祖父の名前をつけたブランドで出したのです。

というわけで、わたくしは女房にひさしぶりにプレゼントを張り込んだのでありますが、わたくしの行為は、いうまでもなくもうじきやってくる「父の日」を念頭においている。その日への先行投資として、わたくしはジェーン・バーキンを購入したのであります。考えてみればこれは、見返りを念頭に饗応を奉じるBAEとなんら変わらないではないか。腐敗退治云々と偉そうなことを書きながら、わたくしもやっていることは完璧なワイロではないか。こういう矛盾を抱えたままJMMを書き続けるわたくしは、いったい食わせ者なのだろうか。考えてみればちょっと恐ろしいことであります。 と。

上記は、村上春樹氏が主幹するJMM[JapanMailMedia]に掲載(2007.5.2.)された、国連の化学兵器禁止機関(OPCW)の訓練人材開発部長を務める、春(はる)具(えれ)氏の記事の引用です。  
残念ながら、だから、「この世に腐敗は永遠になくならないよ」と、どこからか聞こえてきました。 だが、だから、「ときには許される」とは、聞こえてきませんでした。 例えば、天下りの官製談合における「Strategy Alignment の三角形」の逆三角形は、筒型となって理想的なマネジメント(官製談合)が行われているということでしょうか。 「give&take」、take前提のgiveはワイロ、だが、takeを前提としないgiveも一度ならず期待していないtakeがあると、いつのまにか、take期待のgiveに変わる、そのようにして、「give&take」は増長する厄介なウィルスである。

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