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大都会、新宿西口の高層ビル街に続く地下道には、かつて段ボールハウスが連なっていた。
そのハウスには、アーティストたちにより、ギョッとするような、禍々しく美しい色彩の絵が描かれていた。 剥き出しの、吹きっさらしの美術展。 毎週末、私はそのエキセントリックロードを通るのを秘かに楽しみにしていた。 唯一無二のハウスに住むのは、路上生活者の方々。その絵にはきっと魔除けの効果もあったに違いない。 ふと足を止めた理由は、 そのハウスの一つで何やら絵や書のフリーマーケットが行われていたから。 出展者はハウスのおじさんらしい。 年の頃は60代位。 黒い紙に、白いインクでしたためられた書。 習字のお手本みたいに上手い。 「これ、おじさんが書いたんですか?」 思わず訊ねた。 「そーだよ。ぜーんぶ、俺が書いたんだヨ。この絵なんかイイだろう!色合いがサ。」見返り美人を模していた。 線はたどたどしかったが、緻密で、色使いはおじさんのセンスでアレンジされていた。 私は子どもの頃から、絵を描いて独りの時間を過ごしていた。 このおじさんは路上生活者になってから描き始めたに違いないと、その線から見てとれた。 サラリーマンやOLが早足で通り過ぎる中、私はしゃがみこんで、長い間おじさんと話した。 おじさんは大阪の大手企業の重役だったらしい。やんごとなき事情で借金を抱え、家族に見放され、 「今に至る。」上品な雰囲気はそういう訳だったのか。 「今はいいよー。何もかも手放して、もう何にも怖いものない。不思議とこうなってからは病気しないんだよ。住めば都っていってね。今が人生で一番幸せ。気楽で。」達観していた。 何もかも手放したら、私もこんなふうに笑えるようになるんだろうか。 おじさんの作品を一つ購入したいと申し出た。 「同情で買ってくれるなら、買って欲しくない。決して。」おじさんは毅然として言った。 一つでも売れたら助かるはずなのに。 「同情じゃありません。私が買いたいと思ったんです。」 私も毅然と言い返した。 おじさんの人生と私の人生が今日ここでクロスした、証拠の一点を残したかった。 おじさんは嬉しそうに一枚の画用紙を手に取った。 「アナタには、コレ!コレが一番いーねー!」黒い四つ切り画用紙に、白いインクの楷書体で【笑顔】と書かれてあった。 颯爽とした筆運びに惚れ惚れする。 重役時代のおじさんを垣間見た気がした。 【笑顔に勝る平和はなし】 文字の隣に小筆の行書。 くるくると丁寧に画用紙を丸めて、私に渡してくれた。 「100円。」家に帰り、端っこから反り返ってくる画用紙に裏から当て布をしてアイロンをかけた。 私はそれをワードローブの内側に貼り、出掛ける前に必ず見るようにした。 白く浮かび上がった誇り高き【笑顔】の文字からは、暫くの間し尿の匂いがしていた。 段ボールハウスが強制撤去されると報道されたのは、それから間もなくのことだった。 行政の用意した仮設住宅に移り住んだ人は少なかったという。 屋根も壁も窓もあるのに。 暖も取れるし夜露もしのげるのに。 違うんだ。 そういうことじゃないんだ。 人間ってそんな簡単なことじゃないんだ。 あの時のおじさんを思った。 |

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「そーだよ。ぜーんぶ、俺が書いたんだヨ。この絵なんかイイだろう!色合いがサ。」




寿銀子さん、新年おめでとうございます。
まとめと御礼
エッセイ拝読させて頂きました。人間逃避したいということは誰しもございます。然らば、自分もこうした路上生活に興味がないわけでございません。言い換えれば「何かの逃げ口上が欲しい」ということになります。
自分がこのかたのような立場となったなら、人様に夢を与え続けられるのか、全く自信はございません。このかたはエスプリ漂うおかたと拝察しました。
但し、それだけではない。仮設住宅の入居を蹴ったこのかたには「武士は喰わねど高楊枝」を重ねました。
例え路上生活者になっても気高く生きる。これは自分の考えと同じくするところにございます。
寿銀子さんのおはからいにより、本日も素晴らしいエッセイに触れさせて頂きました。寿銀子さん、今年も宜しくお願い致します。
2019/1/1(火) 午前 3:54
> 横町利郎さん




新年❗おめでとうございますっ❗
2019初めてのコメントありがとうございます!
日本中が祝賀ムード、
シンとした故郷の山奥でゆく年くる年に侘びしさを覚えるのは子どもの頃からで、こんな時こそ路上生活のおじさんを考えようコーナー、でしたがしかし、
路上生活のおじさん達の方が、手放しで「おめでとーー!HEY HEY!」と言っているかもしれません。
そうですね、
私の足をとどまらせたのは、ホームレスのイメージとは対極的な、おじさんの溢れるエスプリだったのですね。
刹那的な生活者らしく、その出会いも刹那的でした。
毎週末おじさんを探したのですが、再び会うことはありませんでした。
でも、それこそがおじさんの選んだ道なのだと思います。
いち早くコメントをくださり、ありがとうございます
おかげさまで清々しい年明けを迎えています。
横町様にとって平和で健やかな2019になりますよう心よりお祈り申し上げます。
2019/1/1(火) 午前 8:22 [ 寿銀子 ]
俺もいつなるかわからないな

寿銀子さん、あけおめ
今年もよろしくね
2019/1/1(火) 午前 11:09 [ 桑の実 ]
> 桑の実さん
開けお目っっ!





HEY HEY
良い新年を迎えてますかっ
もう今や誰がいつどうなってもおかしくない時代ですね
雨降らばふれ風吹かばふけ
2019/1/1(火) 午後 1:33 [ 寿銀子 ]
> 杉野さん
しんどいですね、
イキテユクノハ
2019/1/2(水) 午前 2:23 [ 寿銀子 ]
明けましておめでとうございます。
新宿の段ボールハウス、僕も以前見たことがあります。
彼らはいったい何処に行ったのか気になるところです。
本年もよろしくお願い致します。
2019/1/2(水) 午前 7:15
> ☆アツ☆さん

明けましておめでとうございます
罪と罰またぎの新年、素晴らしいデスね
今年も執筆に勤しんで下さい❗
応援しています
2019/1/2(水) 午後 4:59 [ 寿銀子 ]
> 柴山さん

どんな状態になろうとも、その姿が他人の目にどう映ろうとも、憐れみを持たれたくない、同情されたくない、それは人としての尊厳
幼い子どもも、お年寄りも、ホームレスも、障害者と呼ばれている方々も。
2019/1/2(水) 午後 6:57 [ 寿銀子 ]
人はその生活をしてみないと分からない、何一つ。
愛隣地区にはよく行く。炊き出しの現場を見ている。
いつもはあの三角地帯にいて仕事を待っている。
炊き出しの人々も来る。
天王寺の駅の屋根の下にいる。
古着を売るものもいる。買うと喜んでくれる。
いろいろ話をする。
しかし、その数は減った。
そこで日舞を踊る女性がいる、和服姿で。
彼らの目を楽しませている。
しかし 仕事がないのは困る。
私も建設屋だが、なかなか仕事が回せない。
そこには、筋道がある。大阪も難しいところだ。
2019/1/3(木) 午後 0:20 [ 姿 ]
> 残菊さん
そうですね、そこにはそこのコミュニティがあって、約束事があって、外から見ているだけじゃ解らない。
まわりの人がよかれと思って操作しようとしても余計なお世話なのかもしれません。
新宿にも名物おばさんがいて、女性は珍しいということでTV取材を受けてました。
和服姿で日舞を踊る女性は素敵ですね、その人の歴史の中に舞踊があるのでしょうか。
私なら何をするかな、と考えたことがあります。
読んで下さってありがとうございます。
2019/1/3(木) 午後 5:43 [ 寿銀子 ]
謹賀新年
お健やかに初春をお迎えのことと存じます
旧年中はtabiブログにご訪問頂きまして誠にありがとうございました
本年も何卒よろしくお願い申し上げます。へのご訪問とナイスやコメントを有り難う御座いました。
2019/1/4(金) 午後 1:53 [ tabi ]
> tabiさん
謹賀新年
今年も楽しく健やかなる旅を
2019/1/4(金) 午後 4:45 [ 寿銀子 ]
ムムムムムム これはママの名作のうちに入るかもしれませんね。
そのおじさんは,すごい男なんだと,私は,思いますよ。心がね。
100円と言い切ったところに,破産した紀伊国屋文左衛門が裏長屋
で目指しなんか焼いている姿と重なりました。(史実としてそんな
ことが,あったかどうかは別として)
100円じゃ焼酎買えませんもんね。
たぶん,おじさんも買い物したと思うのです。それはママの心意気
と出会いです。いい話だなあ。よし,もっと飲もう。この店はいい
店だ。
2019/3/10(日) 午後 5:31 [ toudou455 ]
ありがとうございます
もっと飲んでって〜〜〜〜〜
あのおじさんはイイ人だった。
イイ男だった!
百円、
は感動しました、ワタシも
2019/3/10(日) 午後 10:01 [ 寿銀子 ]
笑顔「100円」ワンダホー
2019/7/24(水) 午後 9:27 [ キヨモジ ]
> キヨモジさん
スマイル0円ではないのだ(笑)(笑)
2019/7/24(水) 午後 10:59 [ 寿銀子 ]