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僕が挨拶をすると、彼は嬉しそうな顔をした。
僕はそれが嬉しくて、思わず幸せな幻想に取り憑かれてしまう。
僕らは雑談に興じ、触れ合うほど近くに座り、コーヒーを啜り、声に出して笑う。時間は直ぐに無くなり、別れを惜しむのも程々に、互いに見送り、別れる。それはしんみりとした感傷を伴うことも有るけれど、それで傷つくには僕らは大抵の場合強すぎる。切ないじゃないか。
そうした時蝉の歌は奇妙に物悲しく遠く、影は淡く長い。
彼が離れていくと、僕は自分の価値が減じて行くのを感じる
彼に大切に思ってもらえなければ、僕は大切な存在で有り続けることが出来ない。
彼というベールを取り払うと、虚しさは露出する。
僕は思う。
帰りたければ帰ればいい。帰り先も好きに選べばいい。
愛してる人を置いては、どうせどこにもいけない。彼は戻ってくるだろう。
でも、僕はどこへ行けばいいのだろう、だって僕は自由だ。
愛なんて、知らない。
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