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先週まで、日経新聞の「やさしい経済学――名著と現代」という連載コラムに、マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』について連載されていました。
『プロテスタンティズムの・・・』といえば、誰もが知っている(読んでなくても・・笑)古典の一つですよね。私も大学入った時に岩波文庫を買って読んだなぁ、と懐かしく思い出しました。
内容は皆さんご存じかとは思いますが、念のため簡単に説明しますと(もう記憶が定かではないですが)、蓄財を救いの妨げと考えたカトリックに対し、プロテスタントは職業を神聖視し、頑張って働いた結果金持ちになることを良しとした。特にカルバン派はある人が救われるか地獄に落ちるか予定されているという独特の教義から、仕事で成功することは、その人が救われる側にいることの証拠だと考えた。このような倫理観の相違から、プロテスタント国家で近代資本主義が隆盛したことを説明できる、というお話でした。
ここで余談なんですけど、よくプロテスタントは「聖書のみ」で聖書に基づいているけれども、カトリックはそうじゃない、とプロテスタントの人も言うし世間でも言われていますよね。
しかし、それは本当でしょうか?
確かに正統キリスト教にとって大事なのはキリストが設立した教会を通して常に導いている神のみ旨に従うことであって、神のみ旨の現れは聖書だけとは限りません。
主は使徒(教会の指導者)に「真理の霊である聖霊を遣わす」と仰せになり、また「世の終わりまであなたがた(使徒)とともにいる」と仰せになりました。「世々に生きておられる」神のみ旨は「死んだ文字」に限られるのではありません。いや、むしろこう言うべきでしょう、そういった神の導きのうち明文化され教会が聖典と定めたものが「聖書」なのです。
聖書には、「使徒の伝える教えに従え」とは書いてありますが(マタイ28・20参照)、「聖書のみを信仰の基準とせよ」とはどこにも書いてありません。
それはともかく。この件に関して言えば、カトリックの方が聖書の記述に忠実なのに対し、プロテスタントの方は聖書と違った考え方をしているようです。
たとえば聖書には、「金持が天の国に入るのは、むずかしいことである。重ねて、あなたたちに言っておく。金持が神の国に入るよりは、らくだが針の穴を通るほうがもっとやさしい」(マタイ19・23−24)と記されています。
真福八端には「貧しき者は幸い」とありますし、「神とマンモン(富)とに兼ね使える事はできない」(マタイ6・24)という言葉もあります。
カトリックはこれらの聖書の言葉を真面目に受け止めています。富を持つこと、富を求めることは、救いの妨げになると考えています。
これに対して、プロテスタントではそうでもないようです。
ここで、どちらの宗教が正しいとか言うのではありません。ウェーバー自身が指摘しているように、少なくとも最初期のプロテスタント資本主義は、拝金主義や享楽主義とは無縁で(むしろそれらを敵視していた)、労働の結果として富ができてしまったのです。(この点、禁欲的であるがゆえに尊敬されて寄進を受け富裕になって困ってしまったベネディクト会やフランシスコ会などのカトリック修道会を連想しますね。)
ここではただ、「カトリックは聖書に反している」などという陳腐な言説は当たらないと言いたかったのです。
閑話休題。
日経のコラムでは、現代の高度に発達した統計学の手法をもって宗教が経済活動に与える影響を追試した研究を紹介していました。
それによると、なんと、「プロテスタント比率が、カトリック比率と比べて、国の経済成長率を高める効果が相対的に小さい」という傾向が発見されたのだそうです。カトリックの多い方が、経済成長率が高くなる傾向があるということです。1965年〜75年、75年〜85年の期間では、有意差も出ているとのこと。
ひょえ〜〜、ですね。
日経の言葉を借りれば、「この結果は、ウェーバーが研究の出発点とした統計的観察に疑問の余地があることを示している」わけです。
今まで私たちが常識だと思っていたことが、覆される可能性が出てきたわけです。
この調査を行った、ロバート・バローとラシェル・マクレアリーの今後の研究に期待、ですね(私は経済学も統計学もよう分からんけど)。
最後に、日経コラムでの用語法について苦言をひとつ。
カトリックとプロテスタントの信者を対比させる時、コラムではプロテスタントの信者に対しては単に「プロテスタント」、カトリックの信者に対しては「カトリック教徒」という呼び方をしています。
これは、キリスト教とは別に「カトリック教」なるものがあるかのように誤解させる誤った用語法です。
カトリックはキリスト自身の設立になる正統キリスト教会であり、実際、キリスト教と呼ばれる中で過半数を占めています(さらに言えば、プロテスタントは個々の小さな宗派に分かれているため、カトリックは一宗派としては圧倒的規模である)。
一方プロテスタントはキリストの教会設立後1500年も経ってから宗教改革者たちがそれぞれ作った教団の総称です。彼らもキリスト教には違いありませんが、宗教学的見地からはプロテスタンティズムはまったく別の宗教類型になりますので、「プロテスタント教」と呼ぶ方がふさわしいのです。
まぁ英語ではCatholicism(=カトリック教?)、Protestantism(=プロテスタント教?)という具合に同じ語尾ですから、余り気にすることもないかもしれませんね。
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