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「生活知と科学知」という言葉がある。

生活知(生活のなかに埋め込まれてきた経験的な知)
科学知(科学的手法によって獲得される客観的な知)

奈良 由美子 (放送大学准教授)
伊勢田 哲治 (京都大学大学院准教授)
http://www.u-air.ac.jp/hp/kamoku/H21/kyouyou/A/seikatu/s_1510118.html

生活知は科学知の基礎になるエピソード・経験・体感などに繋がるレディネスとなる。

例えば理科の水蒸気の授業をしたとき、
・冬に窓ガラスについた水滴を見た経験
・洗濯物を干した経験
などが基礎になり、科学知である「水蒸気」を受け入れることができる。

生活知なくして科学知を注入しても、ただの「文章の暗記」であり、
子どもにとっては点数を取るための呪文のようになってしまい、
豊かな学力とはなり得ない。

つまり、科学知の土台に生活知がある。

一方、科学知によって解明・応用される生活知もある。

例えば、
・沸騰した鍋の火を消すと湯気が出る理由
・水蒸気爆発の危険性
などである。

これらは、科学知である水蒸気の振舞を学ぶことで、生活の中の現象を深く探ることのできる例である。
このような応用を科学リテラシー(活用能力)と呼ぶ。
いわば、科学の生活への利用である。

総合すると、

生活体験→科学知の形成→生活場面への応用

となる。


さて、
2010/4/20に全国学力テストが行われた。
内容は「新聞記事など、日常生活をモチーフにした出題が目立ち、知識活用を目指す来年実施の新指導要領を先取りした内容となった。」
とある。

生活知を扱った出題になっているのだ。
特に[1],[5]
http://www.47news.jp/47topics/pdf/jsugakub-q.pdf


これに対するコメントが、
==
国語作文教育研究所の宮川俊彦所長は「工夫は見られるが、日常生活を意識し過ぎると、逆に、理論的な思考が低下することもある」と指摘。算数・数学教育に詳しい坪田耕三・筑波大教授は「数学では日常的な体験が必要な出題もあり、全体的に洗練された出題」と話した。
==
とのことであるが、私は前者を支持する。

学力の目指すところは、様々な問題解決である。
科学知そのものを吸収してテストで点が取れたら「はい、おしまい」ではなかろう。
しかし、科学知の応用は決して日常生活の場面には留まらない。
むしろ、非日常であったり、形式陶冶になる場合もある。

水蒸気の例でいえば、その利用は蒸気機関や蒸気タービンなどで、どちらかといえば非日常である。
こういう問題で「蒸気タービンのエネルギー効率について論じなさい」というのも奇妙なもので、むしろ科学リテラシーへのこじつけのような気がする。

また、水蒸気の学習を通して、見えないものを考察しようとしたり、エセ科学にだまされない態度が育つことも形式的ではあるが人格形成の上で重要である。

新指導要領ではゆとり教育のみなおしが盛り込まれてはいるが、その先が活用能力に寄りすぎた場合、淘汰される科学知が出てくることになる。
つまり、「生活に役に立たないからいらない」という。

かといって、冒頭に述べたように生活の体験なくして科学知の獲得はあり得ない。

繰りかえしていうが、生活知は、単に科学の目的ではなく、科学知を支えるレディネスなのだ。
先のコメントの後者も否定できないが、それはレディネスとして必要であるといえよう。


科学知を日常に見える生活知に返すことに気持ちが向きすぎると、科学そのものが水準の低いものになる。
与党は事業仕分けで「日本科学未来館」を「赤字」を理由に切り捨てようとした。

文部科学省がそこらへんを取り違えなければいいのだが。

現在、ゆとり教育の影響で日本の理系は減少傾向である。
日本の教育を進展させる人々が、科学知を有用に利用してくれたらいいのだが。


以下は引用。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100420-00000631-san-soci
新聞記事や割引券…実用的学力重視 学力テスト
4月21日0時0分配信 産経新聞


拡大写真
テスト開始を待つ児童ら=20日午前8時44分、大阪府大阪狭山市大野台の大阪狭山市立南第二小学校(写真:産経新聞)
 20日の全国学力テストでは、新聞記事など、日常生活をモチーフにした出題が目立ち、知識活用を目指す来年実施の新指導要領を先取りした内容となった。また、平成19年度に小6としてテストを経験した子供たちが今回、中3としてテストを受けていることを意識し、3年前と共通する問題も多く出題された。

  [表でチェック] 3割切る地域も…全国学力テスト参加状況

 文部科学省によると、問題の難易度は、小6と中3ともにほぼ前年度と同じ。ただ、小6国語は、前年度に「問題数が多い」という指摘もあったことから、基礎力を問う「A問題」を18問から15問にするなど、軽減化が図られた。

 具体的には、実生活に生かせる学力を重視。中3国語には、架空の新聞記事や生徒会役員選挙の演説を読ませるなどして、読解力を試す出題があった。小6算数でも「定価の20%引き」と書かれた割引券を使うと商品の金額がどう変わるかを問う問題があったほか、折りたたみ式のバスのドアを題材にして三角形の性質を問うなど、ユニークな出題が目立った。

 小6のときにも全国学力テストを受けた中3には、3年前と同一問題を出したり、3年前の解答知識を利用した応用問題を出題するなどして、学力の伸長をテストした。「ゆとり教育」から転換を進める新学習指導要領の趣旨に基づき、小6の算数では、前年までと比べてレベルアップした問題もあった。

 国語作文教育研究所の宮川俊彦所長は「工夫は見られるが、日常生活を意識し過ぎると、逆に、理論的な思考が低下することもある」と指摘。算数・数学教育に詳しい坪田耕三・筑波大教授は「数学では日常的な体験が必要な出題もあり、全体的に洗練された出題」と話した。
「教科教育は人格形成に役に立たない。」

私の知る限りそう思う人は多いようだ。
ところが、指導要領では教科教育はその目標を人格形成に置いている。

<国語>
国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力を養い言語感覚を豊かにし,国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる。

<数学>
数量,図形などに関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め,数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察する能力を高めるとともに,数学的活動の楽しさ,数学的な見方や考え方のよさを知り,それらを進んで活用する態度を育てる。

<英語>
外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。

以上は新指導要領の教科目標だが、旧指導要領であっても同様に人格形成を目標としている。
それなのに、「人格形成」を実感できないようなのだ。
理由の一つに、教師が教科教育と人格形成を結びつけて指導していないことがあるように思う。

例えば、英語で新しい表現を覚えることで「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」を形成させようというのだが、「教科教育は人格形成に役に立たない」と発する人たちは英語を通じてむしろ積極性を潰されたというようなのだ。

学校の研究授業などでは実にすばらしい授業が展開されている。
まさにコミュニケーション能力を身につけさせようというものだ。
実に人格形成を目指した教育活動である。

しかし、塾から見るとこの裏側が見えてくる。
それは「ペーパーテスト」の存在である。

どんなにコミュニケーションに積極的であろうとも、英語の初心者である中学1年生の子どもが冠詞の「a」を一つ落としただけで、教師からは×バツ=できない者として扱われ、その親は点数だけを見て子どもを批判する。
解答用紙に書かれた意欲あふれた表現に冷たく×の印が叩きつけられる。

英文にしなさい。「ケイコは毎日走っています。」

× Keiko is runing every day.
○ Keiko runs every day.

現在進行形で「○○している」という表現を学習し生徒が早速使ってみたのだが、現在進行形は瞬間の動作を表現するだけで、現在周辺の習慣を表すものではない。
ところが日本語では「○○している」という表現で、進行形も習慣も意味することが可能で、その区別は文脈で判断するしかない。

こうした誤答にどう向かうか。

「現在進行形につく副詞はnowだけだから×。」

とバッサリ切り捨てると生徒は萎縮し、コミュニケーション意欲は失われ、「英語は怖い」「英語は難しい」「英語は間違えると恥ずかしい」という負の人格が形成されていくだろう。
冒頭の人たちはそういう経験をしてきているのではないだろうか。

私は、そういう生徒の誤答は否定しない。
むしろ日本語と英語の構造やその発想を背景にある文化の比較の題材としてとりあげる。
そのうえで、日本語と英語の異文化としての境界線の違いや、同じ人間としての発想の類似点などをあげ、「面白い」「興味深い」「もっと知りたい」と生徒に感じさせることは可能であると思う。

誤答には、論理性や指導の不備や教科内容の深みが隠されている。

誤答を「劣った回答」として扱い、教師が自らの指導を顧みることなくバッサリと×をつける傲慢ぶりを見せつけると、もともとは人格形成を目標とした教育活動は一変する。
人格を育てるどころか、自信を喪失させ、生きる意欲を減退させる。
塾にはこのように傷つき、勉強がキライになった子どもが来ることがある。
心を病んでくる。
こうした子どもの心や、まだ少しだけ残っている意欲をこぼさずすくいあげ、育ててあげられたらと思う。

塾は英語でcram school(詰め込み学校)という訳がある。
塾では学校より辛辣に○×の批判を受けると思われているのであろう。
そういう教育方針の塾も少なからずあるだろう。
しかし、塾教育には子どもの心を回復させる可能性が大いに残っている。
少なくとも私はそういう塾作りのアドバイスをしていきたい。

                      文責 松居稔


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