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博物館訪問家・ひでのブログ
最近は謎解きイベントにはまっています。

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前回の記事『「藤井四段が間違えた三手詰」を解説する』は、「藤井四段」というキーワードが入っていたためか、結構読まれたようだ。

しかしその割にコメント欄にも何ら反応がなかったのは、あるいは内容が難しすぎて、よくわかんなかったのかもしんない。

当方は、元詰将棋作家といっても、作図力がほとんどない底辺の作家だったので、詰将棋弱者の気持ちがよく分かる。

そこで、藤井四段のブームに乗って詰将棋を始めてみようかという方に、難解な詰将棋の世界を、分かりやすく解説してみたいと思う。(そのために新たに「将棋・詰将棋」という書庫も作った)


実は前回の記事で、さりげなくある文章を書いた。
こんな文章だ。↓

※この局面では、25香や43歩といった玉方に着手可能な手があり、将棋における「詰み」の局面とは言えない。しかし、詰将棋の世界では、これらの合駒は、ただ取られるだけで本質的な意味のない「無駄合」とみなされ、こうした局面を「詰め上がり」としているのである。


実はこの文章、結構面倒なテーマをはらんでいるのである。

大袈裟に言えば、自分が生まれる以前から、50年以上も未解決の問題を、詰将棋界は抱えている。

それがこの「無駄合(むだあい)」という概念だ。

例を挙げて説明しよう。


イメージ 1


部分図で申し訳ないが、左側が問題図の初形。右がその詰め上がり図である。

正解は、「23金まで1手詰」である。
14の金を23に動かして、19の香で空き王手をしたところである)


ところで詰将棋とは、相手の王将を詰ます手順を見つけるパズルのことだ。
つまり本来なら、敵玉は最後に詰みの状態にしなければならない。


ところで、「詰み」とは何だろう?

wikipediaの「詰み」の項目を見ると、日本将棋連盟は「詰み」を以下のように定義している。

一方の側が玉以外の駒の利きを敵玉の存在するマス目に合わせるような指し手、つまり玉に取りをかけることを“王手”といい、かけた側から見れば“王手をかける”という。王手をかけられた側が、その王手を次の一手で解除することが不可能になった状態、つまり次にどのように応接しても玉を取られてしまうことが防げない状態を“詰み”といい、玉側からみれば“詰まされた”という。

長いので縮めて言うと、「玉に対して王手がかかっており、その王手を解除できない状態」のことだ。

そしてこのwikipediaには、チェスにおける詰みには触れていても、詰将棋における詰みには特に触れていない。(このことは結構重要である。)

以上のことを踏まえて、さっきの詰め上がり図を見ていただこう。

実は、盤面には特に明記していないが、玉方には、盤面と攻め方の持ち駒を除くすべての駒(王を除く)が持ち駒として使える、ということになっている。

したがってここでは、1筋に合駒を打って王手を解除することが可能である。

ここで、遅まきながら詰将棋のルールを振り返ってみよう。

全日本詰将棋連盟が機関誌として認める「詰将棋パラダイス」という雑誌があるが、ここのHPに詰将棋の基本ルールに関する記述がある。
転記してみよう。

1)先手(以下、攻方)、後手(以下、玉方)が交互に指します。
2)攻方は玉方の玉を詰ませることが目的です。
3)攻方は必ず相手の玉に王手をかけなければなりません。
4)また、玉方は必ず王手をはずさなければなりません。
5)玉方は盤上と攻方の持駒以外のすべての駒(ただし王は除く)を合駒として使用できます。
6)玉方は最も長く手数がかかるように逃げなければなりません。
7)無駄合いはしないようにします。

上記6)に則って考えるならば、玉方は最も長く手数がかかるように応接しなければいけないので、本来の正解手順は次のようになるはずである。

23金、18歩、同香、17歩、同香、16歩、同香、15歩、同香、14歩、同香、13歩、同香、12歩、同香(金)まで15手詰(歩7枚余り)
なお、途中の歩合は桂や角合でもかまわない。同じことである。(金とか香だと12に打って早く詰む)

しかし、これらは上記7)のルールに反している。
すなわち「無駄合いはしないようにします」

無駄合とは何だろうか?

先のHPでは次のように説明している。

右の図で1八歩と持駒を使って合駒をしても、1八同香で再び合駒以外に王手を防ぐことができなくなります。このような合駒を「無駄合い」といい、してはなりません。
右の図はこの局面で詰みとなります。
(上記「右の図」とは図1の詰め上がり図を指す)


上記ではやや言葉不足だと正直思う。
敢えて補完するならば、
1)すぐに取られてしまい
2)2手手数を伸ばすだけで
3)その後の手順に何ら影響を及ぼさない
4)本質的に意味のない合駒
とでも言おうか……。

いずれにしても、上記のような局面を詰将棋の世界では「詰め上がり」として、厳密にいうと詰みではないが、詰みに準じる形として認めている、ということなのである。

したがってこの図は、「15手詰駒余り」などではなく、「1手詰」が正解となる。

ここまで、お分かりいただけたであろうか?

分かりやすく書くと次のようになる。

将棋の詰み ≒ 詰将棋の詰め上がり

異なる部分は、飛や角、香など、遠駒を使ったときの無駄合に関する部分であり、上記のような詰め上がりを、詰将棋用語で「透かし詰め」(「詰将棋用語集ーさ行」)と呼ぶ。


類似の詰め上がりを二つ紹介しよう。

イメージ 2

今度は部分図ではなく、全体図である。

いま、37にいる歩を36に動かした局面である。
ここで玉方が王手を解除する手段として、各筋に合駒を打つことが考えられる。
しかしこれは、すべて角で取られるだけで、手数を1枚の合駒につき2手伸ばす効果しかない、本質的に無意味な合駒なので、無駄合ということになるのだ。
ただし、この時、最初の合駒を同角成と取らなければならない。
成らずだと、最後28歩、同角、29玉として詰まなくなってしまうのだ。
ここ、「角を成り忘れるかもしれない。だから有効な合駒だ」という理屈は成り立たない。
攻め方の誤った応手を期待してはいけないのだ。攻め方も受け方も最善を尽くす、という前提で、正解手順は決められるのである。


イメージ 3

問題3は問題2とよく似てるが、飛車と角の位置がそれぞれ若干違っている。
ここでも、55歩、46歩、37歩などの合駒が無駄合になるのは同じ理屈である。
注意してほしいのは28歩に対する応手で、ここ同角だと29玉で詰まなくなる。
問題2の角は敵陣である三段目にいたから、成って馬になることができたが、こちらは四段目なので生角のままである。
その代り飛車が三段目にいるので、最後28飛成として詰みあがるのだ。
この場合の28歩合も同じ理屈から無駄合となる。

ここで注目してほしいのは、問題2では王手をした駒(王手駒と呼ぶ)で合駒を取っているのに対し、問題3では、必ずしも王手駒で取ってはいない、ということだ。

無題合の定義で「王手をした駒で取る」という条件が必要と思っている人がいるが、それは間違いである。
もしそんな条件が加わったら、問題3は1手詰ではなく、3手詰駒余りとなってしまう。
すると、こうした詰め上がりを擁する作品は、すべて「駒余り作品」となり、キズモノとみなされ、紙面に完全作として発表できなくなってしまうのだ。
詰将棋界にとって、それは大打撃である。

無駄合とはいわば、詰将棋の繁栄のために、便宜上考えだされた概念と言っていい。
だから指し将棋の世界では、存在しない言葉なのである。

最後にもう一つ、透かし詰めの例を挙げよう。

イメージ 4

今、持駒の香を25に打ったところである。
これで1手詰なのだ。
24合は、同香と取れば14玉と逃げられて詰まなくなってしまう。飛車の利きを自らの駒で遮断してしまうのだ。

しかし、24飛と取れば、もはや玉方は王手を解除することができない。詰みである。

王手駒以外の駒で取ってすぐ詰む、という点を見れば、問題3と全く同じ構造だということが分かるだろう。
すなわち、問題3における28歩合が無駄合なら、問題4における24歩合も無駄合ということができるのだ。


以上、簡単な無駄合の例を見ていただいた。

何だ。こんなの簡単だ。よく分かるよ。
そういう声も聞こえてきそうだが、実は無駄合の複雑さはこの後の稿に控えているのである。

先ほど自分は、詰将棋パラダイスにおける無駄合の記述が説明不足と書いたが、あれはわざとそうしているのである。
細かく書くと、いろいろ突っ込まれ藪蛇となるので、もっとも単純な無駄合の例を引用して、説明したポーズを取っているに過ぎない。
いわば政治家の答弁のようなものである。

次稿から、もっと複雑な、これって本当に無駄合なの?ーーというグレーゾーンの世界を解説していきたい。

<続く>









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    問題4で「24歩合」は二歩なのでできませんね。

    「24合」に修正しました。

    [ みんけんひで ]

    2017/7/31(月) 午後 10:49

    返信する

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