北永劫回帰線

かつて我々は精神であった。ところが、今や我々は欲望である。

「パソ街!」101―105

[ リスト ]

(百二)

                   (百二)



 私は、彼らが独立宣言した限界集落への亡命を打診しようと思

って、放っておいたバロックのメールへ返事した。

「あんた達の独立宣言を心から応援する。東京はと言えば、誰も

が手垢の付いた暮らしに飽き飽きして、新しい変化を望んでいる

のだ。しかし、進化することで夢を与えてきた都市は、閉塞した

時代の壁を越えられずに、まるで文明の終焉を迎えたかのようだ

。そんな飽食の果てに注文されたのがオリンピックだ。もう我々

は食い飽きた。世界一高い高層ビルも、世界一のグルメ都市も、

世界一の最先端技術さえも、格差に怯える都民にはもはや連帯感

など生まれない。そんな時にオリンピックを誘致しても、昔流行

ったドラマの再放送を見るようでトキメく訳が無い。ただ、オリ

ンピックから始まった成長がオリンピックで幕を引くというのは

、何時かあんたが言った、万博から始まった繁栄が花博で終わっ

た大阪の凋落にダブって映る。更に誘致に失敗でもすればそれこ

そ大阪の二の舞になるかもしれない。つまり、柳の下に二匹目の

ドジョウは居ないってことだ。案外、大阪は時代の先頭を走って

いたのかもしれないね。私は、今の官僚支配を耳にする度に、か

つてのソビエト連邦を崩壊へと導いたノーメンクラツーラ(特権

官僚)を思い浮かべずには居れない。かつてソ連のゴルバチョフ

大統領は『日本は世界で最も成功した社会主義国家だ』と揶揄し

たが、そこで暮らす中流社会はすでに底が抜け落ちて崩壊してい

るのに、この国のノーメンクラツーラ達は責任を問われることも無く

、のうのうと破綻した社会主義体制にしがみついているではないか

。彼らにとって国民とは体制を維持する為の手段でしか無いのだ。

いずれ地方分権の声が大きくなって、ソ連崩壊の時の様に地方の

叛乱が独立宣言にまで及ぶとすれば、あんた等の独立宣言こそが

その先駆けだったと証言してもいいと思っている。

 去年の今頃は、メディアも社会も連日のように地球温暖化の問

題を取り上げて、あんたが言う様に破壊された上空のオゾン層が

今にも落ちてくると言わんばかりに悲痛な想いで語っていたが、

高速料金が値下げされた途端、そんなことは杞憂だとばかりに、

ハイウェイをブッ飛ばして行楽地でハシャぐ客の姿をテレビニュ

ースで見ていると、確かに『朝四暮三』を喜ぶサルのように見え

てくる。メディアは去年の経緯から、せめて『車で出掛けるのは

成る丈控えましょう』くらいは言ってもいい筈なのに、逆に煽っ

てるよね。全く『喉もと過ぎれば・・・』だよね。

 それから累積債務の問題は、会計のことは全く知らないけど、

驚いたことに、国会議員の口から『実は金は有るんですよ』と平

然と語られ、『財務省が消費税を上げる為に借金を水増ししてい

る』などと言うのを聞いて唖然とした。そもそも、金の有る無し

に関わらず、そんな事って認められるの?それって二重帳簿じゃ

ん。しかも、国会議員が知っていて何もしないってどういうこと

。埋蔵金だって有ること自体おかしくない?何だかこの国の民主

政治が済(な)し崩しに崩壊し始めてるよね。『朝四暮三』を喜

ぶ国民を尻目に、官僚たちが政党の対立を利用して、無知な政治

家を操って自分達の立場を守ろうとしている。彼らは何れこの国

を旧ソ連のように崩壊へと導くだろう。それでも、彼らには責任

は無くて、操られてる政治家の責任で、元を辿ればそんな政治家

を選んだ、『朝四暮三』を喜んでいる国民に還って来るんだよね

。つまり、この国の政治というのはちゃんと民意を反映している

ってことなんだよね。」                      

『朝四暮三』・・・中国、宋の狙公(そこう)が、飼っている猿に
(朝三暮四)   トチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つ
         やると言うと猿が少ないと怒った為、
         朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう
         喜んだという「荘子」斉物論などに見える故事
         から。
         目先の違いに気をとられて、実際は同じである
         のに気がつかないこと。
         また、うまい言葉や方法で人をだますこと。
                        ( 大辞泉)

 すぐにバロックからメールが返って来た。

 「この国の三流政治は、かねてより文化人達がノンポリを助長さ

せたツケが廻って来たんや。若者に影響を与えたタレントや文化人

達は、決まって政治的な発言を避けてきた。奴等はセックスと嘘と

金儲けのことしか語って来なかった。しかし、そんな中で唯一権力

に対して『アンガージュマン』したミュージシャンがおととい死ん

でしまった。ごめん、もう考えが浮かばへん。」

 かつてミュージシャンを志したバロックの短いメールだった。

『アンガージュマン』・・・知識人や芸術家が現実の問題に
             取り組み、社会運動などに参加
             すること。(大辞泉) 
         
 
 バロックは、路上で彼の歌を自分からパフォーマンスすることは

無かったが、リクエストされた時にスコアも見ずに持ち歌のように

歌っていたことを思い出した。私は、恐らくバロックも、清志郎が

還暦祝いの赤いチャンチャンコを着て、「ロックンロール最高!」

なんて叫んでいる姿は絶対に見たく無かった。さらば!青春の光だ。

 バロックから再びメールが来た。

 「春になって農繁期に入り、冬の間に身体を怠ける訳が理解でき

る程、一転して慌しくなった。それでも、自然の中で働くことは、

考えるより先に身体が動くので全くストレスやなかった。まるで全

ての生き物が待ち焦がれたように楽しそうに働き始めた。枯れ草の

上を急ぐトカゲも、目が合うと足を止めて怪訝そうに首を傾げてか

ら、嬉しそうにウィンクした。凍てついた景色も日毎に緩み、小鳥

の覚束ないさえずりに急かされる様に残雪も姿を消し、雪解け水と

なって川に集い、名残を惜しむかのように山裾を巡って、水嵩を増

しながら軽やかに流れた。ところが、我等が水流発電機は、休んで

いる間に本来の仕事を忘れたのか、水の流れを遣り過ごしたまま微

動だしない。そこで発電機を引っ張り上げゴミを取り除いて目覚め

させ、再び川へ放り込むと思い出したように水流を電流に転換した

。今はまだ開発段階なので、我々はこの発電機を貸し出す事に決め

た。電力会社の電気代の半値程度の単価で、消費分を徴収すること

にした。すると、問い合わせが殺到して、上手く行けば初めて利益

が生まれるかもしれない。ただ、そうなれば三人ではとても間に合

わないかもしれんけどね。」

 私にとって、バロックの懸念はまるで話の水を向けられている様

に思えたので、直ぐにメールを返した。

「もし邪魔じゃなかったら、そっちへ行ってもいいかい?」

「えっ!何かあったん?」

私は、今の自分の画を変えようと思っていること、それには自然を

描きたいと思っていることを伝えて、

「ただ、邪魔になったら悪いけど?」

「何言うてんの!邪魔な訳ないやん。空き家いっぱい有るから心配

いらんって。来いっ来い!」

「友達と一緒でもいいかな?」

私は敢てサッチャンの名前を出さなかった。

「ああ、十人でも二十人でもOKや!来いっ来い!」

そんな訳で、あっさりと話しは決まった。私はバロックに会いに行

くことになった。

                         (つづく)

.
ケケロ脱走兵
ケケロ脱走兵
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
友だち(2)
  • Yuka Shibayama
  • toshimi
友だち一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事