北永劫回帰線

かつて我々は精神であった。ところが、今や我々は欲望である。

「パソ街!」91―95

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(九十二)

                  (九十二)




 私は、自分の部屋に戻って、彼女の肌触りや匂いの余韻に浸り

ながら夢に堕ちた。目が覚めた時はもう夜だった。眠りから覚め

ても、彼女のことが思考の全てだった。彼女が居ないことに今ま

でに無い寂しさを感じて、直ぐにK帯を取って彼女からのメール

を確かめたが、何も無かった。私は我慢でき無くなって彼女に電

話した。

「あらっ、どうしたの?」

「きのうは嬉しかった。また会いたい。」

「ちょっと!こんなの困る。メールにしてくれない。」

「・・・。」

「忙しいんだから、切るわよ。」

彼女は忙しい女社長に戻っていた。私は余りにも冷めた対応に

唖然として私との温度差を直感した。しばらくベットに横たわって

赤茶けた天井の斬新な美しさに気を取られて、しかしすぐに飽い

て、また女社長との追憶に浸ったが、今度は彼女の身にも為って

考える余裕も生まれて、自分の独り善がりな昂ぶりを反省した。

そして、かつてバロックが男と女の距離について言っていた事を

思い出した。

「近づき過ぎてはいけない。」

それでも一人で居ることに耐えられなくて、バロックに相談しよ

うと思いPCを開いた。すると、バロックからメールが届いてい

た。私はメールを読んでいるうちにすっかり彼女のことを忘れ、

バロックのメールに返信した。

「地下10000メートルに発電機なんて置けないよ、圧力で潰され

てしまうんじゃない?きっと。だけど、どの位までの深さならそうい

う事が出来るのかな?例えば、中継をしてギリギリの所で発電機

を置くって出来ないのかな?要は効率を高める微妙な技術力だよ

ね。」

すると、すぐにバロックから返事が返ってきた。

「わっ!ビックリした、居ったんか!」

向こう側にもバロックが居た。そして、

「うん、俺もそう思う。今までの産業革命以降の技術産業は、ア

ングロサクソンの『ALL 【OR】 NOTHING』という絶

対主義から生まれたが、それらは規模の拡大によって循環性を欠い

た不完全さが露になった。巨大化した人間は生態系の大気を吸い尽

くし炭素を撒き散らして窒息しかけてる。これからは日本人の『A

LL 【NOR】 NOTHING』という相対主義こそ意味を持

つかもしれん。ハイブリッド車なんかはその典型や。自然との妥協

や微妙な調節といった小さな力こそが循環を取り戻す可能性がある

のかもしれんね。決定を拙速に求めない事、つまり『ぶれる』事っ

て案外大事かもしれん。」

「あっ、そう。」

 私は返信した。

 「ところで、『ALL 【NOR】 NOTHING』って、ど

ういう意味?」

 バロックの返信。

「ごめん、間違うてるかもしれん。つまり、全てでは無いが、か

といって全く無いって訳でもないってこと。人間が自然環境に寄

生して生存している限り、思い通りには行かないこともある。我

々は自然環境を超えてまでも発展することなど出来ないんや。世

界中が東京やニューヨークの様に都市化された地球を、残念なが

ら、我々は目にする前に窒息してしまうやろう。」

 私のメール。

「会社員の頃、新潟の豪雪地帯に仲間とスキーに行った。吹雪の

為に早く宿に戻って来たので、晩飯までの間、皆でかまくらを作

るろうという事になった。新潟の豪雪地帯で6メートルを越える

積雪があった。出来上がったかまくらに皆が腰を下ろして、それ

から誰もが一斉に一服し始めた。当然かまくらの中は吐き出され

た煙が充満して息も出来い程になった。そこで天井に穴を開けて

換気を図ることにした。ところが、小さな穴では役に立たなくて

、下から棒で穴を広げている内に、遂に天井が抜けて皆がかまく

らの下敷きに為ってしまった。二酸化炭素によるオゾン層の破壊

の話しを聞く度に、何故かその時の事を思い出す。」

 バロックから。

「それは面白いメタファーや。俺考えるんやけど、人間は動物

だということを忘れていると思う。動物というのは動けるんや。

それは自然や樹木などの動けない物からすると凄いことやと思う

。つまり、動けるから考えることが出来るんや。動けない樹木は

我々の様に考える意味が無い。目も耳も必要ない、だって動けな

いんやから。自然や植物からすれば動物は信じられない速さで動

いているに違いない。それはあたかも光の帯の様に感じているん

じゃないのかな。自然にとって動物とは、時間を越えて、動かな

い世界の未来を変える存在なんや。ところが今や人間は動くこと

に厭き、出来るだけ動かずに済むように、ただそれだけの為に、

動かない植物の未来をも奪い取ろうとしている。やがて、我々は

思考と身体の繋がりが失われ、退化した身体を補助装置に支え

られて、それでも進化した頭脳で、人類の滅亡を確信する日が来

るのかもしれん。最も人間以外の世界はその日が来るのを待ち倦

ねているんやろうけど。」

                        (つづく)

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