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(八十三)
バロックのメール。
「あんたは、今の東京の状況を二度目の戦後のようだと言った
が、俺は戦争前だと思っている。つまり紛争はこれから起こる。
世界経済の失速は、単純に軌道を逸れただけなら修正も出来るが
、もはや我々を乗せた車両の軌道は自然破壊によって崖っぷちで
断裂され、奈落の底へと垂れ下がっているのだ。快適な旅を満喫
していた人々を列車から降ろして、座席で揺られて来た道を今度
は歩いて引き返えさせなければならない。果たして、我々は快適
な旅を諦めて『争わずに』後戻りすることなど出来るのだろうか
?つまり、これまでは消費が美徳だったが、これからは節約こそ
が美徳となる。我々の経済成長は地球温暖化によって光を遮られ
、成長を止められた根はこれまでの様に水を吸い上げることが出
来なくなったのだ。
もちろんイデオロギーの対立で赤組と白組に分かれて戦うこと
は無いだろうが、恐らく争いも多極化するんやろうけど、俺は、
争わずに後戻り出来ないと思っている。それは、ウォシュレット
でしか用を足せなくなった者が、今日から新聞紙で始末しろと言
われても従えないように、豊かさに慣れた人々が貧しさを共有し
合えるとは思えないからだ。グローバル経済の萎縮は、どの国も
失業者を増加させ貧困層はさらに増え、人は不安に怯えて身構え
利己的に為り秩序が乱れて社会に不穏な空気が流れる。そんな時
なんや!争いが起こるのは。原因なんか何でもええ、『俺の前で
屁をこきやがった!』、それだけで『侮辱した!』と罵って殺し
合うのが戦争や。戦争の大儀は些細な事でも、戦争は人を殺し合
う。そしてそれが報復の大儀となる。秩序の崩壊は些細な諍いを
冷静に判断する余裕を失わせ、為政者は社会の閉塞感に引き摺ら
れて鬱屈した国民の不満を戦争によって外へ向けようとする。豊
かさが失われていく事に耐えられなくなった国民は、生きる意味
を身捨つるほどの祖国の大儀に委ねる。こうして国民の支持を得
た国家は憂さ晴らしの戦争で社会の混乱を治めようとするのや。
もちろん、そうならなければいいけどね・・・。」
(つづく)
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「パソ街!」81―85
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