北永劫回帰線

かつて我々は精神であった。ところが、今や我々は欲望である。

「パソ街!」66―70

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(六十八)

               (六十八)



 バロックはその男に従って工場に入った。そこは、昼間だとい

うのに蛍光灯が眩しいほど点いていた。

「あれ、電気来てるの?」

部屋の明かりは全てその男が作った発電機によって賄われていた

。電気代が掛からないので消す必要がなかった。

「すごいじゃん!」

そう言いながら中へ進むと、奥に若い女性が居た。バロックはそ

んな所に若い女性が居るとは思ってもいなかったので立ち竦んで

居ると、すぐにその男が間に割って入って、「私の娘です。」と

言った。そう言われて見ると、確かにその男に良く似ていた。二十

歳前後だと思ったが、何れにせよこんな所で暮らして居ては、学

校にせよ仕事にせよ通える訳がなかった。

「ちょっと、身体が弱くてね。」

彼女は「化学物質過敏症」という、最近に為って判明した原因の

判然としない疾病で、文字通り化学物質に過敏に反応して、様々

な症状を引き起こすらしい。文明社会で暮らす患者にとっては実

に切実な問題で、彼等は都会では、極端な話しでは無く、空気も

吸えないし水も飲めない、何故なら大気は化学物質で汚染され、

水道の水は塩素消毒されているから、つまり生きることが出来な

いのだ。

 余談では有るが、と前置きしてバロックが言うには、水の都の

大阪は、淀川から水道水を取水しているが、その取水口の直ぐ上

流に(多分200mくらい先に)京都の下水処理場の排出口があ

って、大阪の者は京都人のションベンを飲んでいるって有名だっ

たという。事実、夏場などはカルキ臭くてとても飲めなかったら

しい。

 彼女の父親が言った、

「実は、ここに越して来たんはこの娘の為でもあるんや。」

バロックは、それを聞いて、こんな山の中へ来るに至った理

由の中で、最も先行させた理由に違いないと思った。私はと

言えば、バロックが私に説明する為に「シックハウス」と言っ

た時、「ホームシックのこと?」と聞き返したくらい何も知らな

かった。

「へえー、深刻だね。」

それでもその男は「私は娘に救われた。」と言った。もし、その

まま大阪に居てバブルに浮かれていたら、恐らく何もかも失って

いただろう。生まれたばかりの児が全身を覆うアトピー性皮膚炎

に蝕まれ、赤く腫れた身体で母親に泣き叫び、母親も涙を流して

訴えった時、彼は狼狽えながらも仕事を辞めて大阪を出ようと決

心したらしい。

 バロックは、その娘が見せる訝し気な表情が、症状がもたらす

過敏な神経によるものなのか、それとも、来る者などある筈の無

い山の中に、突然侵入して来た者に驚いたのか解らなかったが、

彼女のよそよそしさも仕方がないと思った。

                                 (つづく)

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