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(六十)
路上で人の往来を眺めながら、行きずりの人々の関心を引き止
めて、ポケットの隅の小金を目当てにパフォーマンスをする者に
とって、世間の景気がどうかというのは、行き交う人の様子で大
体の事は解る。かつては、立ち止まって関心を寄せた人々も、今
では脇目を振らずに足早に立ち去り、その硬い表情からも世間の
厳しさが伝わってきた。路上ミュージシャン達も以前の様には人
気を集められず、やがて一人二人と減って行き、駅前の広場には
ホームレスばかりが目立ち始めた。多くのミュージシャンは初志
を棄てて、仕方なくまた蟹工船へと戻って行った。私は画商の女
主人との約束で、彼女を通さずに絵の売買を止められているので
、早々と青空画廊を店仕舞して憂き目を見ずに済んだが、かとい
って、闇の中で足元を確かめながら歩を進めることに変わりが無
かった。夢を見ていれば足を踏み外して、またホームレスへ逆戻
りする人生ゲームだ。バロックが言ったように、我々は奴隷にな
るか、ホームレスに甘んじるか、それとも芸人にでもなって一発
当てるか、或いは、「間違って生まれて来ました。」と遺して、
生まれる前に引き返すしかないのだ。
路上にいた頃、暇を持て余した女子高生が遅くまで屯していた
。彼女等は気さくに話しかけて来てはよくタバコの無心をした。
もちろん断ったが、すぐにどこかで手に入れて、陰で吸っている
のを目にした。そんな彼女たちは、K帯を使って平気で援交で体
を売っていた。彼女等には、将来の夢などすでに無かった。
「お金無かったら、何も出来ないじゃん。」
彼女たちの言うように、東京では子供が立って歩けるようになっ
たら、空いた手はお金を握る為に使われる。友だちと話しをする
にも通話料がかかる。お金など要らない山川の自然は、高層ビ
ルの峰々やクルマの流れに変わってしまった。見方によれば、
豊かな自然の中で、お金など使わずに暮らす最貧国の子供た
ちより貧しいのかもしれない。目の前に欲しい物を散々並べら
れて、お金が無いなら諦めなさいと言われては、何としても思
いを遂げようとして我が身を捨てるのは日本人の得意とするこ
とだ。
「勉強せんか!」
「無理、無理!ウチラ、もう見捨てられてるもん。」
「じゃあ、小遣いが要るならちゃんとバイトをしろよ。」
「タルい。」
数時間、目をつぶって我慢して寝てるだけで、数週間のバイト
代になるらしい。彼女たちは、私よりもはるかに稼ぐことが出来
た。もし、私が女で、かつてのホームレスの時に、空腹に耐えら
れなくなって、どんな仕事であれ数時間で大金が手に入るとなれ
ば、おそらく喜んで俎上に寝たに違いない。私は彼女たちに意見
など出来なかった。恥ずかしい話しだが、彼女たちこそが私の絵
の唯一の理解者だった。私は彼女たちの新鮮な感性に励まされて
絵を続けることが出来たのだ。ただ、彼女たち自身は十八に成る
までに、すでに「将来の夢」などという自分が主人公のお伽話は
捨ててしまった。否、それよりも、「将来の不安」を棄てようと
して、現在の自分を捨ていた。大人が語る「青少年の健全な育成」
などというスズメの囁きは、カラスの下品な一鳴きで鎮まること
を残念ながら知っていた。確かに、彼女たちは、家庭の中でイタ
タマレナイ微妙な問題を抱えていたが、その問題の源を遡れば、
その多くは上流社会の自分勝手な収奪によって、その犠牲を強い
られていることは明らかだった。それは正に現代の「女高哀史」
ではないか。社会は共生によって成り立っているとすれば、すで
に、我々の社会は二つの階級に分かれて、崩壊しているのでは
ないか?
「ねえ、Hしたいんでしょ?」
「えっ!」
私は「足元」を見られていた。そして、女子高生がタバコを燻らせ
ながらポツンと言葉が気に為った。
「他にすること無いもんね。」
(つづく)
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「パソ街!」56―60
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