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(四十八)
土曜の夜は、バロックがストーンズの「Let’s Spend The
Night Together」を歌って、何時終わるとも知れない路上ライ
ブが始まった。終わる頃にはギャラリーが差し入れた酒で酩酊し
ながらも唾を飛ばして歌った。興にのって辺りが白けてきても、
その場でギターを抱えたまま酔眠することが何度もあった。まさに
泥酔いライブだった。私は牛乳配達の仕事が日曜は休みだったの
で、売れない絵画店は閉めて、声を潰した彼に代ってボーカルをと
った。やがて気が付くと二人は、タイムアップの笛と同時にピッチに
倒れこむサッカー選手のように、大の字になったまま寝ていた。空
が白み、スズメたちの交わす朝の挨拶で目が醒めて、手術を受け
た病人が麻酔から醒めて意識を取り戻すまでの様な白けた感覚の
まま仰向けに為っていると、バロックが、
「アート、俺、旅に出るわ。」
「たったったっ旅!?」
私はワザと大袈裟にそう言って自分を取り戻そうとした。
「何で?」
「何時までも此処で出来んみたいや。」
彼が言うにはJASRACがやって来て「人の歌で稼ぐなら著作
権料を払え!」と言われたらしい。どうもカラオケ店から抗議を
受けた様で、確かに彼のライブは目立ち過ぎたかもしれないが、
その世知辛さに私は呆然とした。
「払えばいいじゃん。」
「否、どうもそれだけじゃ済まんみたいや。」
「カラオケ店?」
「それもある。」
「他にも?」
「面白ない者が居るんやろ、この頃はマッポもうるさいし。」
確かに深夜になるとお巡りがしつこく注意をしに来た。
「何処へ行くの?」
「分からん。」
「・・・。」
「アパートそのままにしとくから住んでくれへんか?」
「ああ、いいけど。」
「まっ、此処もそろそろ飽きて来たし、丁度ええ潮時
やわ。」
バロックはその日の晩から駅前広場に出るのを止めた。彼はギタ
ーとバックパックだけを持って、東京へ来た時と同じ様に東京を
出て行った。私は他のパフォーマーやファンたちに彼が居なくな
った経緯を、バロックが私にこう言ってくれと言った通りに皆な
に説明した。
「あぁーん、どうせまたすぐに戻って来るって。」
バロックが居なくなった広場には、スピーカーからサッチャンの
「エコロジーラブ」がエンドレスに流されていた。
(つづく)
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「パソ街!」46―50
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