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(三十五)
私は絵のテーマを見つける為にスケッチとデジカメを持って都
内を歩き廻った。しかし、習性とは恐ろしいもので、かつてホー
ムレスだった頃、後ろめたさを隠すために人込みに紛れ込もうと
したが、こうして絵になる風景を捜していても、自然と足がビ
ルの立ち並ぶ繁華街に向くのには辟易した。目ぼしい景色に
もちろん出会すことも無く、昔のようにひたすらビルの谷間を
彷徨う破目になった。目的を持たずに彷徨う東京は限りなく広い
。ホームレスの頃、家並みが続く道をすこしでも休める公園でも
あればと思い、当ても無く歩いたが、行けども行けども家並みは
途切れることが無くて、危うく都心の住宅街で遭難するかと思っ
たほどだった。かつてデカルトは「方法序説」の中で「森で迷った
ら真直ぐに進め!何故なら永遠に続く森は無いから。」みたいな
事を言ったが、私は「東京で迷ったら引き返せ!」と言う、何故なら
東京の家並みは永遠に続くからだ。幹線道路に面した高層ビルの
、防災の為に仕方なく造られた素気ない広場のベンチで休みなが
ら、地震の多い日本で、何故こんなビルを建てるのかと雲に霞ん
だ最上階を眺めた。ただ他人事として、東海大地震で倒壊する
高層ビルを見てみたい気もする。高層ビルを好んで建てようとす
る都市は、アメリカに始まって日本、中国や東南アジア、ドバイ
などの中東産油国と、何れも新興国の成金の示威の象徴ではな
いのだろうか?ヨーロッパではあまり聞かないよね。その時、この
高層ビル群を水墨で描けないだろうかと閃いた。もしかすると趣き
の新しい絵になるのじゃないか?私は早速その高層ビルを見上げ
ながらスケッチしようとしたが、首が痛くなってカメラで撮るだけ
にした。
(つづく)
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「パソ街!」31―35
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