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(三十二)
サッチャンとバロックの路上ライブは、サッチャンのファンが
勢いよく増殖して、人盛りがまた人を呼んだ。そしてその人盛りが
今度は他のミュージシャンを呼び込んで駅前の広場は彼等だけの
ステージでは無くなり、何時しか2,3組のミュージシャンが現
れて、サッチャンとバロックの幕間を繋いだ。私もその喧騒に紛
れて画架を2つ離して置いて間を紐で繋ぎ、サッチャンの熱唱す
る姿をロットリングで輪郭を取りアクリル絵の具で彩色した絵に
彼女のサインを書かせて紐に吊るした。ただ私の絵は本人ほど
の人気には為らなかったが、彼女のファンには結構売れた。
バロックはサッチャンが唄うオリジナルを創るのに苦労してい
た。それは、まるで倖田來未の歌をボブ・ディランが創るくらい
無理があった。(ボブ・ディランに代る日本人がいないことが哀
しい)
「あかん、判らへん!」
私が聞いた、
「曲?」
するとバロックは、
「いいや、何で知可子が『チカコ』と言うと気になるのか判らへ
ん。」
「えっ、まだそれ?」
「色々想像したんやけど、やっぱり『チカコ』やないとあかんね
ん。」
「どう言うこと?」
「たとえば、『ヨシコ』でも『サチコ』でもそうはならんのや。
なんでやろ?」
「知るかっ!」
「判らんやろなあ。」
バロックはサッチャンのオリジナル曲を創ることを諦めたのか
もしれない。それはサッチャンの歌に業界の者が目を付けて、彼
女の入った箱のフタだけが開かれようとしていた。
(つづく)
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「パソ街!」31―35
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