北永劫回帰線

かつて我々は精神であった。ところが、今や我々は欲望である。

「パソ街!」6―10

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(七)

                   (七)
  

 
「ラストオーダーになりますが...、」

例の研修生がやって来て言った。周りを見るとこの離れの奥座敷

に居るのはいつの間にか私達だけだった。バロックはK帯をズボ

ンのポケットから取り出して時間を確かめて、私に、

「もういい?」

と聞いてきた。私が頷くと、同じ言葉を発音を変えて研修生に言

った。

「もういい!」

研修生は、

「かしこまりました。」

と言ってから閉店時間を告げて去った。バロックは彼女が見えな

くなると、慌てて席から立ちバックを背負い相棒のギターケース

を取り、後ろの非常口へ走りノブを下げてドアを開けた。そして

私に目配せをして、

「早くっ!」

と言った。私はすぐに事情が飲み込めたので急いで後に続いた、

「爆れるっんだ!」非常口の向こうは廊下に為っていて右側には

様々な食材が置かれた倉庫になっていた。廊下の奥はまたドアが

有ってバロックはその前に行ってドアを開け向こう側の往来へ逃

げた。もちろん私もその後に続いた。ところがすぐに彼は、

「あっ!」

と叫んだ。私もドアを出るなりいきなり足元に水が掛かってきた

ので驚いたが、それどころかもっと驚いたのはドアの向こう側は

この店の厨房だった。まさに後片付けの最中で調理師やアルバイ

トらしき店員が洗い物や片付けに忙しく働いていた。我々が踏み

込んだ床も白衣を着た兄ちゃんがホースの先を指で潰して逃げ場

を失った水が勢いよく床のゴミを追い遣っているところだった。

バロックと私は足に掛かる水を除けもせずに互いに顔を見合した

。やがて店を取り仕切る風の人がゆっくり遣って来て、我々に、

「何かっ?」

と言った。その落ち着いた態度から何度も同じ場面に遭遇してい

ることが窺えた。しかしバロックと私は大いに慌てて、

「あっ....、まっ、間違いましたっ!」

「えっと...、レッ、レジは何処ですか...?]

やがて奥の方から例の研修生の女性が薄ら笑いを浮かべながら伝

票を持って来た。白衣の兄ちゃんは指先により力を込めているの

か、勢いの強くなった水が止むこと無く我々の足元を濡らしてい

た。            

                                 (つづく)

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