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(四)
「ぽちゃっ。」
水面を跳ねる魚の音で目が覚めた。気付かない間に眠ってた。
やはりネットカフェのリクライニングシートでは睡眠は満たされ
ない。手足を伸ばして寝ることがそれほど大事だとはこんな暮ら
しになるまで分からなかった。いつも頭の中は「どこで寝るか」
が占めている。「何の為に生きている?」と聞かれると間違いな
く「寝る為に生きている。」と答えるだろう。街を彷徨っていて
も人を気にせずに眠れる「夢の楽園」ばかり捜している。棲家を
無くす事は睡眠を無くす事だった。アウシュビッツでは不定期な
水滴の音で眠らせない拷問があったらしいが、自分の身に何時何
事が起こるか分からない状況では、水滴が落ちてこない静寂こそ
が最も神経を消耗させ疲労困憊の末に、ついには死を覚悟しなが
ら眠るのだろ。次の憲法には是非「如何なる睡眠も、これを犯し
ては成らない。」と云う「睡眠の自由」を保障して欲しい。夜中
にホームレスのテントに押し入って眠っている人間を殴り殺すの
はいかに残酷なことか知るべきだ。
「ぽちゃっ。」
魚は良いよなあ、泳いでいるだけでいつも目の前に食べるものが
やって来るもんな。人の世界では、ただ歩いてるだけで目の前に
納豆定食やカレーライスが浮いて来ること無いもんな。次に生ま
れて来る時は絶対に植物性プランクトンを餌にする魚に成りたい
。でも、自分も大きな魚の餌になるんだろうけど。
お腹が空いたので何か食べなくちゃ。万引き、物乞い、情けを
乞う事、これを私は強く自分に禁じていた。それはきっと楽な方
法だろうが、手を染めると抜けられなくなるのが嫌だった。もち
ろん一生こんなことはしてないぞ、と思っていた。いちど三日間
食えない事があった。仕事が続いて週末には五万円程のお金があ
ったが久々の大金に目が眩み、大盛り牛丼たまご付き、サウナに
入って小奇麗になって、カプセルホテルで手足を伸ばし、缶ビー
ル飲んでエッチビデオに興奮し、人並みの暮らしを味わうと、こ
んな暮らしにケリ着けて、たったひと間の部屋でいい、楽な暮ら
しがしたくなり、一攫千金夢に見て、開店前のパチンコ屋、並ん
だ甲斐が報われて、早速もらった玉手箱、ここで止めるか思案橋
、うまくいったら仕事をせずに、ひと月遊んで暮らせると、よく
よく欲に勝てなくて、取れぬ魚群の海算用、夢を見たのは一瞬で、
濡れ手に泡の玉手箱、空けてびっくり空手箱、呼び戻そうと追い
銭を、有り金叩いて投げたけど、「海」の藻屑と為りにけり。
有り金を摩ってしまった。
落ち込んだ、本当に落ち込んだ。それ以来、私はすこしずつ金
を残そうと思った。一日二食にして、昼はスーパーで2本100
円の袋入りのフランスパンと100円の砂糖を買い、砂糖を水で
溶かしてパンにつけて食べている。
(つづく)
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「パソ街!」1−5
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