北永劫回帰線

かつて我々は精神であった。ところが、今や我々は欲望である。

ゆーさんの「パソ街!」31―32

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(三十二)

                  

                 (三十二)


 実りの秋は多忙の秋である、と記してからあっという間に一年が

過ぎ去った。もしかしたら地球は太陽の周りを何時もより早く回っ

てしまったんじゃないだろうか。それにしても我々は何だってその

度に齢をとるのだろうか。太陽を公転する地球の自転軸が何らかの

偶然で傾き、それが四季(変化)を生み年を刻むとすれば、生命の誕

生は地球の公転運動とその中での変化によってもたらされたことに

なる。恒星を公転運動する惑星は数多あれど、自転軸が傾いた地球

だけが生命を育んだ。つまり、運動と変化こそが生命の起源ではない

のか。我々が生きることの意義を見失ってしまったのは、もしかすれ

ば動くことと変えることを忘れてしまったからではないだろうか?

「そうだっ!考えは後回しだっ、まず動いて変えることだっ!」

と思っていると、ドタドタと荒っぽく階段を駆け上がってくる音がし

て、勢いよくドアが開け放たれ、

「お父ちゃん!いつまで寝てんのん!」

と、ミコがいつものように叫んだ。わたしは昨日話しをしたあの先

生の「わ」言葉をベットの中で懐かしく思い出した。しかし、そん

なことなどお構いなしにミコは、

「早よう!みんな表で待ってはるで!」

「おお、そうやっ!」今日はガカが中心になって始まった「猫背山

を(再び)愛する会」、略して「NFA」のはじめての活動の日だっ

た。わたしはミコが入れてくれたコーヒーを飲み残して慌てて玄関

を飛び出した。すると、ガカを始めバロックやサッチャンに恵木さ

ん夫妻、体験生活に来ていた家族までもわたしが起きるのを車の中

で待っていてくれた。散々詫びを言ってバロックが運転するワゴン

車に飛び乗った。

 猫背山の頂上に到る登山道に通じるお寺の参道には住職の呼び掛

けに応じて集まってくれた檀家の男衆が八人ほど集まっていた。そ

の中には同じ集落の爺いたちも交じっていた。住職は、

「もっと声を掛けたんだが、空いてる者が少なくて」

「仕方ないですよ、この時期は誰も忙しいから」

とは言っても雪が降り始めると作業はできなくなるのでこの時期し

かなかった。わたしが話を持ち掛けたとき、住職は以前から心懸か

りだったと打ち明けて何度も感謝を口にした。しかし、これは何も

お寺のためだけではないですからと、わたしは礼には及ばないと言

った。さっそく、登山道へ入ってゴミ拾いや草刈り、倒木の切り出

し、灌木を使って横木を修復したりと、八人の男衆は慣れた手つき

で段取りよく動いた。ガカは感心して彼らの仕事を眺めていた。そ

れでも長い間放っていた藪の中は日も届かぬほどに鬱蒼としていて

思いのほか手間取って予定していたところまでは行き着かなかった。

 仕事が一区切りついたところで切り上げて、みんなでなじみのあ

の温泉に浸かって疲れを落とした。わたしはみんなに、

「これからはあまり考え過ぎずにまずは動いてみよう」

と、今朝考えたことを裸で開陳した。

  夜の冷え込みが川面から立つ水蒸気を抑え込んで霧に覆われる朝

が多くなり、山々の頂から徐々に木々が緑一色から各々の色を主張し

始めて賑やかだった。子どもたちはそれらが残していった木の実を拾

い集めることに忙しかった。木の実はお婆あたちのところへ集められ

て、お婆あたちは目を細めて受け取り食べられるように調えた。そし

て、その素朴な味わいを子供たちも親しんだ。

 集落に人が集い始めるとどうしても経済のことが問題になる。もちろ

ん、農業で賄うにしてもそれだけでは山間地での収穫は多寡が知れて

いる上に、我々はCSという症状を抱えていて近代化を図るわけにはい

かない。そのことはみんな納得して移住してきているが、かと言って近

代社会を否定して暮らそうとは誰も思っていない。そんな中で恵木さん

が水流発電機の可能性に期待が持てると言ってくれた。

「もっと普及させましょうよ」

彼は勤めていた自動車会社で電気自動車(EV)の蓄電装置の開発に

携わっていた。だから、

「蓄電装置が改善できますね」

わたしは心強く思って彼に任せることにした。

 ガカは朝のうちは例の登山道を一人で修繕してから温泉の営業が

始まるとカウンターに入って客の相手をした。

「やっと草刈り機が思い通りに使えるようになったわ」

まだまだ登山道の頂まで到るには時間が掛かることだろう。彼が温

泉で働くようになって、虫食い農園で出来た無農薬野菜を直売する

ことができるようになった。さらに、温泉に再び客足が戻ってくれ

ば、あやちゃんのお父さんにも呼び寄せて、その食材を使って調理

の腕を振るってもらえるようにでもなれば、6次産業化も夢ではな

いかもしれない。ガカは、逗留して湯治するための階上の部屋を改

修して「読書温泉」にするのはどうだろうかと言った。

「なに、それ?」

「逗留して温泉に入りながら読書ができるようにするんだ」

「本は?」

「前もって予約して貰えればインターネットで電子図書をダウンロ

ードするんだ」

「まあ、確かにここなら読書するにはもってこいかもしれんな」

「でしょ」

すると、恵木さんが、

「改修する時は是非私にやらせて下さい、ガカさん」

「あっ、オーナーの許可が出たら是非お願いします」

「読書温泉か、それ、案外ええかもしれんな」

わたしは近代物質文明の終焉は、新しい文化の始まりだと思ってい

た。これまでのような軽薄な消費文化ではなく、本来の文学や音楽

が再び見直されるに違いないと信じていた。

 ミコとわたしは「虫食い農園」の収穫に毎日追われていた。バロ

ックは専らそれらを詰め込んで配送所に届けて、午後からはひたす

らストーブの薪割にあせを流した。子どもたちは鶏や乳牛にも慣れ

て、いや、鶏や牛たちが子どもたちにも慣れて、毎朝ミコがやって

いた作業を交替でやってくれるまでになった。そんな時でもあやち

ゃんはユキちゃんを連れて行った。

 われわれの集落はこうして近代社会の中で暮らせなかった者たち

によって、都会のような賑やかさはないが、それぞれが力を合わせ

て新しい社会、一言で言えばゴミを生まない「世界内存在」として

地球環境に則した暮らしを目指そうとしていた。

 地球の地軸の傾きによって日差しが遠くなると、かつて限界集落

と呼ばれた村の山々にも初雪の便りが届き始めた。新しい季節を生

むために厳しい季節が訪れようとしていた。ただ、山間のこの新し

い村をもはや限界集落と呼ぶものは誰もいなかった。

                                             (おわり)

 (お詫び)・・・化学物質過敏症を発症されているみなさんには
         まことに失礼な扱いをしたことを心より謝罪い
         たします。浅薄な知識で話を騙ったことをお許
         しください。ただ、そういう症状で苦しんで居
         られる方々がいることをみんなに知って貰いた
         い一心で取り上げました。そして、これからも
         CSについては関心を持ち続けて、皆さんが、
         被曝から解放されて安心して暮らせる社会が一
         日も早く訪れることを祈ってます。
                  

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