北永劫回帰線

かつて我々は精神であった。ところが、今や我々は欲望である。

バロックの「パソ街!」16―20

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                (十九)




 おれの「反儒教革命」は、卒業と共に終わろうとしていた。出来

ることなら革命を成し遂げるまで学校に留まって居たかったが、学

校の方がそれを嫌がった。あのビラ事件の後、教育指導の教師たち

に呼び出され、歴代の校長の写真がズラーっと掲げられた部屋で、

おれ達はその部屋を「北朝鮮の間」と呼んでいた、もちろん将軍様

の「御真影」は無かったけれど、その部屋で「教育」の社会的意義

のようなものを懇々と説かれて、要するに大人しく卵を産まなけれ

ばその内バラされるぞと嚇された。おれは、ドアの壁際から窓際ま

で並べられた歴代の校長の醜悪な写真に威圧されて、抗弁できずに

黙っていた。そもそも亡者たちの列に老醜を曝すことに何の恥らい

も持たない彼等の神経が痛ましく思えた。そして最後に教師のひと

りが、

「確か、君は留年したんだよね。だから登校しなくても『卒業させ

てやる』から、もう学校へは来なくていいよ」

そう言った。そこでおれは、

「それじゃあ、さっき「仰った」社会的意義に反するんやないです

か?」

そう言うと、それには答えず、別の教師が、

「おまえが来ると他の生徒の迷惑になるからな」

おれは目上の者や教師に憂ざったいと思われても、決して学生の迷

惑になるような主張をしたつもりはなかった。

「迷惑をしているのは生徒ではなく、あなた達やないんですか?」

「ああ、実際に先生方も迷惑してる」

「それでも、憲法ではそれぞれの思想信条の自由は認められている

やん?」

「そうかもしれん、しかし敬語や礼儀作法というのは長い間培って

きたこの国の文化なんや」

「文化って憲法よりも優先すんの?」

「まあせやな、憲法なんかよりずーっと前からそうしてきたんやか

ら」

 旧き良き時代に戻ろう言うのは現在を見失った者の戯言に過ぎな

い。人生であれ社会であれもう一度後戻りすることなどできないの

だ。過ぎ去った感情は取り戻すことなどできない。それはすでに我

々があの頃の自分にはもう戻れないからだ。尊敬や愛情といった感

情は押し付けたからといって生まれるものではない。この国の原理

主義者たちはその肝心なことがまるで解かっていない。「国を愛そ

う」だとか「親を尊敬しよう」などといくら叫んだところでそうな

るものではない。感情は理性の及ばないところで働く。すでに個人

にとっては、国家や会社や、家族でさえも方便に過ぎないのだ。我

々は「アイデンティティー」を本来の意味する自己自身に求めるし

かないないだろう。ところが、自己を見失っってしまった人々はそ

れを他者に求めようとする。チョンマゲを結った大人たちは全く何

も解かっていない。おれ達は表象だけの愛情や尊敬を「強いられる」

くらいなら、もちろん報われないことは覚悟の上で、むしろ「孤独」

でいる方が「アイデンティティー」を失すことなく自分に素直に生

きられるのだ。おれ達の嗅覚はすでに「道徳」の作為的な疚しさや

偽善的な青臭さに耐えられないのだ。おれ達は世代間の馬鹿げた序

列道徳に幻なりして、社会について話すことにも関わることにさえ

も虚しさを覚える「ロストコミュニティー」世代なのだ。

                                (つづく)


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