北永劫回帰線

かつて我々は精神であった。ところが、今や我々は欲望である。

カーター・ピーナッツ・ラーメン

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      「カーター・ピーナッツ・ラーメン」

             (3)

 そのあと再び彼と会うこともなく年が変わった。今年の冬はいつま

でも寒気が居座って幾日も鼠色の雲が日射を遮り寒い日が続いた。そ

して、寒さにうんざりした時分に大雪が降った。地球温暖化なんてフ

ェイクだと叫ぶ何処かの大統領の肩を持ちたくなるほど寒い冬だった

。関東以北の者は、広島にはスキー場が10以上あることなど誰も信

じないかもしれないが、冬の中国地方の山間地で暮らすには四駆車と

冬タイヤは必需である。深夜になって降り始めた雪は朝には止んで、

雲一つない空には久しぶりの朝日が白銀の世界を煌めかせていた。職

場へ向かうために車に積もった雪を適当に払い除けて、早朝の凍結し

た農道を避けて、広い道をゆっくり走らせていると、前方の工事現場

の門の前に一人のガードマンが、通り過ぎる車両には目もくれずに、

紅白の旗を両手から垂らしたまま肩をすぼめて立っていた。私も彼に

は気にも掛けずに運転に集中しながら通り過ぎようとした時、俯いた

まま立っている彼の顔を一瞬覗いた。その男はあの時に言葉を交わし

た就農者だった。私は彼の前に車を止めて、助手席側のパワーウィン

ドウを少しだけ下ろして、「ようっ!」と声をかけた。彼はすぐには

気付かなかったが、窓に残った雪のせいで薄暗い車内の中を覗き込む

ようにして私と視線を合わせた。そして彼は、

「あっ、どうも、久し振りですね」

私は身体を助手席に投げ出すようにして、

「何で、農業、やめちゃったの?」

「いやいや、ほら今は農閑期だから」

「ああ、そうか」

そうなんだ農業はこれがあるんだよな。冬の間はいくらハウス栽培と

いっても収穫がない、つまり収入がない。同情はするが、それも彼が

選んだ仕事だらか仕方ない。

「っまあ、風邪ひかないで、ガンバんなよ」

と言って、アクセルを踏もうとしたら、彼が、

「あのう、ちょっとまたお話聞いてもらっていいですか?」

「ああ、別にいいけど、今は無理だけど」

そこで、ラインを交換して別れた。

                       (つづく)

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