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ほうほう。

注目の「ユーロ圏の日本化」を元祖が徹底解説

ISバランスなどマクロ経済の構造が重要

ユーロ圏は日本化し、ユーロは円化し、ECBは日銀化する――。ドラギ総裁の任期は今年10月まで(写真:ロイター/Francois Lenoir)
にわかにユーロ圏の日本化を懸念する報道や論調が目立つ。実は、ユーロ圏が日本化していくリスクをいち早く指摘し、2014年7月に『欧州リスク:日本化・円化・日銀化』(英題'Ready for the Japanization of Eurozone, Euro and ECB')を小社から上梓したのが唐鎌大輔氏だ。データ分析に基づく骨太なコラムで東洋経済オンラインでも人気の筆者だ。そこで、あらためて、この問題について執筆してもらった。
 
3月11日付のブルームバーグは『ユーロ圏は「失われた10年」に向かっている―日本化を懸念する大合唱』と題し、大手外資系金融機関がこぞって「ユーロ圏の日本化」傾向を指摘し始めたと報じている。記事の中では、ユーロ債市場のボラティリティが停滞し、ベンチマークとなるドイツ債利回りがゼロに接近していることなどが紹介されている。だが、これはユーロ圏の経済・金融構造が日本化する中で発生した現象でしかない。そうした現象だけならば、ユーロ圏以外の主要国でも起きており、残念ながら「場況解説」の域を出ない。
筆者は「なぜそのような相場になっているのか」、その背景にある具体的なマクロ経済構造の変化、つまり事の本質を考察することが重要であると考えている。

ユーロ圏と日本、7つの共有体験

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ユーロ圏の日本化やユーロの円化そしてECB(欧州中央銀行)の日銀化が進展しているとするならば、両者の経済・金融情勢にいくつかの共通体験があるはずだ。筆者は本の中で7つの共通体験を指摘した。
「1.不況下の通貨高」「2.貸出鈍化」「3.民間部門の貯蓄過剰」「4.蓄積する経常黒字」「5.金融政策の通貨政策化」「6.人口減少」を取り上げたうえで、その総合的な結果としての「7.上がらない物価」について考察した。
このうち、2については予想に反してそうなっていないものの、3・4・7は進行し、1・5・6もおおむね当てはまっていると考えている。予想がはずれにくい人口動態(6)について「おおむね」としたのはドイツの状況を意識したためだ。
周知の通り、ドイツは移民の大量受け入れによって数字の上では人口減を緩和しているのが実情だ。メルケル首相による無制限の難民受け入れは筆者の書籍発刊から1年後に突如決断された。だが、その決断が盤石だったメルケル政権を崩壊させ、域内における反EU機運を高めてしまった。日本化とは別の問題としてまったく喜ばしいことではない。
日本化の象徴として注目されやすいのはディスインフレ(ないしデフレ)の様相が強まっていること(7)だろう。インフレ期待までもが地盤沈下していることは重視すべき事実である。インフレ期待の回復は難しいからだ。だが、筆者がとりわけ重視するのは、「3.民間部門の貯蓄過剰」やその裏返しである「4.蓄積する経常黒字」といったマクロ経済の構造変化である。以下、これを中心に「日本化」を議論したい(太字は書籍からの引用)。
不況下の通貨高:「下がらないユーロ」
まず、「1.不況下の通貨高」について書籍では「経常黒字の蓄積や物価の停滞も続くのであれば、円と同様に為替市場において『リスク回避通貨としてのユーロ』が認知される日も遠くない」と述べていた。「リスク回避のユーロ買い」というフレーズが定着するほどではないが、「悲惨な政治・経済情勢の割にユーロが売られない」と実感している為替市場参加者は多いだろう。
今は、ブレグジットをめぐる混乱や域内センチメントの急悪化、イタリア経済のリセッション入り、ドイツ経済の急失速、加えて政治面ではフランスのデモ激化、フランスとイタリアの外交関係悪化など、ユーロ売り材料に事欠かない。
国際機関によるユーロ圏経済見通しの引き下げが頻発、ECBもハト派に傾斜したのは最近3カ月の話だが、同期間(2018年12月18日〜2019年3月18日)のユーロの対ドル下落率は0.3%でしかなく、ほぼ横ばい。世界最大の経常黒字が寄与しているうえ、ディスインフレ状況が続いていることが、購買力平価上の通貨価値を高めているのだろう。円がリスク回避通貨とされるのと同じ条件をユーロは明らかに備えている。
資本フローの面からもユーロは増価しやすい。近年のユーロ圏の証券投資動向を見ると対内証券投資が細る一方、対外証券投資の売り越し(≒レパトリ、資金回収)が増えることでむしろ域内への資本流入がネットで確保されている。世界最大の経常黒字を抱えながら、域外へのリスクテイクが抑えられれば実需の資本フローはユーロ買いに傾斜してしまう。内需や金融活動が弱くとも、頑強な対外経済部門に裏打ちされた資本フローが通貨の底堅さを演出してしまう。われわれ日本人が経験上よく知る状況だ。
筆者が重視する「3.民間部門の貯蓄過剰」と「4.蓄積する経常黒字」は表裏一体の関係にある。まず後者から見ていきたい。
蓄積する経常黒字:5年で1.5倍に
2013年(書籍執筆時)にもユーロ圏の経常黒字額は約2900億ドルと当時としては過去最大であった。だが、2018年には約4200億ドルと約1.5倍に膨らんだ。いうまでもなく世界最大で、中国(2018年で約975億ドル)の約4倍の規模だ。ちなみにより重要な指標である対GDP(国内総生産)比で見ると、2.2%だったものが3.0%まで拡大している。同期間に中国の経常黒字が対GDP比で1.5%から0.7%に縮小したのと対照的である。
ユーロ圏の経常黒字をけん引してきたのはもちろんドイツ。同国の経常黒字・対GDP比は2013年の6.7%から2018年の8.1%へ拡大した。今やグローバルインバランスの主因はユーロ圏、とりわけドイツといって過言ではない。
ちなみに、本の中では「巨大な経常黒字を抱えながら、金融緩和により通貨安を志向していくような政策運営を米国が見過ごすとは思えない。本稿執筆時点(2014年7月)ではそこまでの緊張状態には至っていないものの、ドイツそしてユーロ圏の出方次第では欧米貿易摩擦というのは重要なトピックに成り得る」と述べていた。
アメリカ-EUの通商交渉はまだ本格的に始まっていないが、欧米の通商関係が一触即発の状況であることは周知のとおりだ。今後、経常黒字や為替といったテーマにトランプ米大統領の関心が及ぶことは不可避で、市場の注目も集まるだろう。トランプ政権発足直後からドイツがユーロ安にタダ乗りしていることへの不満を漏らしている。
民間部門の貯蓄過剰
理論上、経常黒字は貯蓄投資バランス(以下ISバランス)の結果である。ISバランスは当該国・地域のマクロ経済構造を端的に映す計数だ。筆者は本の中で「民間部門の貯蓄過剰はデフレのサイン」として、相応の紙幅を割いて日欧の比較を行った。とりわけ以下の内容を今一度、ご紹介したい。7つの共有体験の中で筆者が最も構造的かつ重要な事実だと考えているので、長くなるが、引用しておきたい。
日本における民間部門の貯蓄過剰はバブル崩壊直後の1990年代初頭から始まった。より正確には、1980年代から家計部門は常に貯蓄過剰であったが、1990年以降は家計部門に加え、それまで貯蓄不足だった企業部門まで貯蓄過剰に転じたという経緯がある。
これはバブルが崩壊するまでの企業部門は、家計部門の貯蓄を(銀行などを通して)借入れることで旺盛な消費・投資行動に充てていたが、バブル崩壊後は傷ついたバランスシートを復元するために、とにかく借金返済や手元資金確保に奔走するようになった様子を表している。<中略>
解消されない民間部門の貯蓄過剰はひとえに活力に乏しい実体経済の反映であり、物価下落や円高と並んで、デフレ経済の象徴と言っても過言ではない。
 
2007〜08年のバブル崩壊及び金融危機を経て、民間部門の貯蓄過剰現象はユーロ圏でも見られ始めている。ユーロが導入された99年以降、家計部門と企業部門が同時に貯蓄余剰方向に振れるような事態は経験がなかった。
ユーロ圏の問題が深刻なのは、民間部門が貯蓄余剰になっている分、政府部門がその資金を借り入れて消費・投資しなければならないところ、政府部門まで一緒になって消費・投資を控え、貯蓄過剰方向へ舵を切ったことである。2009年以降、政府部門の貯蓄不足が急速に縮小へ向かっていることがそれを表している。家計も企業も政府も積極的に消費・投資をしなければ当然ユーロ圏経済全体としては貯蓄過剰になり、海外部門が貯蓄不足(経常黒字)となる以外にない。<中略>
1989年のバブル崩壊そして1990年代の金融危機を経て、日本企業は借金をして消費・投資することを忌避するようになったと言われるが(今も見られている企業部門の貯蓄過剰はその証左である)、金融危機後のユーロ圏のISバランスを見ている限り、同様の状況に陥るサインが点灯しているように思える。
 

さらに貯蓄過剰はひどくなっている

2013年当時と比べてユーロ圏全体のISバランスはさらに貯蓄の過剰が増している。財政緊縮の結果、政府部門の貯蓄不足幅が急速に縮まったことが目につく。先に述べた経常黒字はバランスシート調整の結果、ユーロ圏の民間部門が貯蓄過剰となっているということを海外部門の側から見たものなのである。民間部門の消費・投資意欲が発揮されるような投資機会がないからこそ、資金が債券市場に回り、各国の金利が低位安定している。
単にドイツ国債の金利が低いことや相場のボラティリティが低いことを日本化と呼ぶわけではない。また、中央銀行(ECB)が量的緩和政策(QE)をしていることを日本化と呼ぶわけでもない。それらはユーロ圏以外の主要国でも見られる近年の傾向である。重要なことは、そのような傾向が出てくる背景に相応のマクロ経済構造の変化があるということであり、とりわけ動学的資源配分の要であるISバランスに現れるという事実である。危機前後でユーロ圏のISバランスの形は明確に変わった。
なお、2013年当時からドイツは政府部門を含めた国内経済部門のすべてが貯蓄過剰という異形な構図になっていたが、その「異形さ」は2018年までの5年間を経ても不変である。この点、日本化を超える異常事態だと筆者は考えている(「トランプの貿易戦争、ドイツに非はないのか」を参照いただきたい)。
日本は政府部門が貯蓄不足となることで底割れを防いできたが、ドイツは「永遠の割安通貨」の存在も手伝ってその必要がないという面があるのだろう。このような構図はユーロ圏全体でも強まっている。財政支出の多寡をドイツ好みのEUルールで縛っているのだから当然の結果でもあるが、ユーロ圏は日本化のかたわらドイツ化をも強いられているといえよう。
金融政策の通貨政策化
上述したようにマクロ経済構造が海外経済部門(外需)頼みとなっている以上、通貨の騰勢に神経質になるのは当然の帰結である。たとえば近年では2017年がユーロ全面高となった年で、対ドルで最大15%も上昇した。同年6月のECB年次総会でドラギ総裁が「デフレ圧力はリフレ圧力に置き換わった」と物価にまつわる懸念を一蹴し、正常化プロセスに入ることを半ば宣言したことが主因となった。
その後、同年9月の政策理事会後の会見においてドラギ総裁は会合のトピックが成長、インフレ、為替相場の3つに集約されたと述べ、為替が主題となったことを明かした。その上で「最近のユーロ高を受けて、ユーロ圏の金融環境は明確に引き締まった」とはっきりと懸念を表明した。先進国の中銀総裁が為替の動きについてこれほどはっきりとスタンスを表明するのは珍しい。というよりも御法度である。
そして、翌2018年のユーロ圏経済は顕著に失速し、一部の国ではリセッションにまで陥った。需要項目別に見れば純輸出の落ち込みが全体を押し下げたことは明白である。2017年にユーロ相場が急伸したことと2018年に純輸出主導で景気が減速したことが無関係であるはずがない。
ユーロ圏の経済・金融情勢を安定化させなければならないECBは、今後ユーロ相場動向に一段と敏感になるだろう。日銀ほど金融政策が為替相場に従属しているわけではまだないが、外需を生命線とする成長スタイルの下では必然的に為替にらみで政策運営をせざるをえないことになる。
上がらない物価:日本化の象徴
多くの海外市場参加者にとって「日本化すること(Japanification)」と「物価が上がらないこと(disinflation)」もしくは「物価が下がること(deflation)」は同義だろう。
この点、ユーロ圏消費者物価指数は明らかに債務危機を経て失速しており、過去5年平均(2014年1月〜18年12月の前年比を対象)上昇率で、総合ベースでは約0.8%、コアベースでは約0.9%のプラスで横ばいが続いている。欧州債務危機が発生する直前の5年(2004年1月〜08年12月)はそれぞれ約2.4%と約1.7%のプラスだったことを思えば、デフレとは言わないまでもディスインフレは確実に進んでいる。
また、インフレ期待としてECBが伝統的に注視する5年先5年物ブレイク・イーブン・フォワードレート(5年先5年物BEI)の動向も見逃せない。本では「5年先5年物BEIが明確に2%を割り込んでくるようなことがあれば、ドラギ総裁の口からも一歩踏み込んだデフレ懸念が聞かれるかもしれない」と懸念を示していたが、ちょうどその2014年7月前後を境として5年先5年物BEIは明らかに下方へ屈折、その後は一度も2%の水準に戻っていない。日本の経験を踏まえればデフレの粘着性は相当に強いものであり、今後復帰できる見込みは立たない。

日本化を超えて何が起きるか」を考える

以上、5年前の書籍から重要と思われる部分を抜き出して簡単に確認してみた。実際の議論はより広範に行っているので是非ご参照いただきたい。
繰り返しになるが、単に金利が下がることや債券市場がボラティリティを失ったことは、低成長ゆえの低物価というマクロ経済環境が定着し、民間部門を中心に消費や投資が控えられる世相になったことの結果でしかない。その世相を計数でしっかり把握することが重要で、その要諦はISバランスの変化などにある。
少なくとも通貨ユーロがドイツにとって「永遠の割安通貨」であることや、EUがルールとして財政出動を抑制していることなどはユーロ圏に埋め込まれた半永久的な論点、宿痾(しゅくあ)と言ってよい。これが、巨大な経常黒字やその裏側にある民間部門の貯蓄過剰を生み、通貨高や物価安といった悩ましい事象につながっているのである。今後5年についても、この問題は解消されず、ユーロ圏の日本化傾向は継続するはずだ。
なお、日本は「経常黒字(貿易黒字)→円高」というメカニズムが働いたこともあり貿易収支は稼ぎ頭ではなくなっている。だが、ユーロ圏ではこうしたメカニズムは働かない。現行制度の下ではユーロがドイツにふさわしい強さまで上昇することは今後も絶対にない。その意味で「日本化を超えて何が起きるか」も考える余地がある。ユーロ圏の日本化問題の一歩先を、筆者の今後の研究課題としたい。
※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

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