病床軟弱

いつの間にやら還暦プラス9。地方紙在籍34年。透析歴23年。無職浪人歴11年。世に無駄話のタネは尽きまじ?

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 なにを隠そう、私は「冬のソナタ」のファンです。録画DVDを今も大事に持っています。「なにを隠そう」と書くのは、本当は隠したいからです。日本のオバサンたちが滂沱の涙を流しとはいえ、たかがテレビドラマを大の大人が「好き」とは、口が裂けても言えませんもの。第一、ストーリーが荒唐無稽じゃありませんか。
 
 ――高校にヒーローAが転校してくる。ヒロインB子は生意気な彼に反発しつつも、いつか好きになってしまった。ヒロインを好きな恋敵役Cと、ヒーローに一目惚れしたD子は気が気ではない。しかしAはB子と待ち合わせたその日に事故に遭って急逝してしまった。同級生が泣きながら見送った日から、月日が経って……。
 
D子がAにそっくりのaを見つけてきた。B子と、今はその婚約者のCらは動揺する。B子は仕事上やむなくaと付き合っているうちに、また好きになって……、いや好きになってはいけない……と心乱れる。
 
そして驚愕の事実が明らかになる。Aとaは同一人物というのだ。Aは事故のために記憶喪失となっていたのだ。ミステリーのようななぞが解けはじめたとき、aは「二度目の重大な事故」に遭ってしまう。B子は迷いを吹っ切ってaを、いやAを愛し続けようと決意する……――。
 
書いていて恥ずかしくなるようなストーリー展開です。こんなハチャメチャな筋はバカバカしくて断じて受け入れられない……皮肉屋としてはそう思っていたはずなのに、NHKが二度目か三度目の放映をした2004年に興味半分で見て以来、トリコになってしまいました。それは脚本のバカバカしさを忘れさせるほど、役者が魅力的であったからに違いありません。
 
ヒーローを演じたペ・ヨンジュンの魅力、ヒロインのチェ・ジウの愛らしさは言うまでもないでしょう。しかし普通の凡夫はヨン様にはなれないし、チェ・ジウのような美形に愛されるはずがありません。ふたりはいわば雲の上の存在。恋敵役のCやD子に強い親近感を感じました。永遠にヒーローやヒロインになれない凡人には、より身近に感じられる存在として。
 
第14話「二度目の事故」の終盤に印象に残るシーンがありました。aがまたも事故に遭い、B子が懸命に看病に当たります。ふたりが相思相愛であることを知ったD子は、酒を飲みながら「死んでやる」と泣きわめき、ついには車道の真ん中で突っ伏してしまうのです。Cは、D子の絶望を諌めながら、D子の気の済むまでいつまでも寄り添って慰めるのでした……。
 
美男美女からふられる、それ以前に相手にされない立場にある人間としては、涙流れるのを止めることはできません。真っ昼間の透析医院で泣いてしまったら、ナースを心配させ、そしてからかわれ、二度と気取った皮肉屋の患者には戻れそうにありません。ですから、透析中は決して見てはいけないたぐいのドラマなのです。
 
C、つまりサンヒョクを演じたパク・ヨンハさんが亡くなりました。自殺のようです。なぜなのでしょう。もはや恋敵役を卒業し、主役を張るほどの人気を集めていたというのに。看病疲れ、ストレス、人気商売ゆえの不安……マスコミ上ではもっともらしい動機が並んでいますが、凡夫にはそのどれもが克服できないはずはない、と映ります。死のうと思えば透析をボイコットすればいいだけなのに、未練がましく生に執着している私には、若くして死のうと決意する人々の思いが理解できません。もっと生きたい、もっと映画を見たい、もっと小説を読みたい、もっと音楽を聴きたい……珠玉の宝は五万とあるのに、ほとんど触れないままに死んでたまるか……なにゆえ、そう思わないのでしょう。
 
実際のパクさんには、ドラマのCのように、死のうとする者を慰め、諌める友人がいなかったのでしょうか。数々のドラマや映画に出演しているのに、「生と死」を肌身で感じさせる、心震わす文言に出合わなかったのでしょうか。バカバカしい「冬のソナタ」のサンヒョクでさえ、ファンには一生を左右するほどのインパクトを与えたでしょうに。
 
久しぶりに小説を買ってきました。金城一紀の『映画篇』(集英社文庫)。その最初の一編「太陽がいっぱい」を読んだばかりです。主人公の「僕」は在日コリアンの作者本人でしょうか。民族学校時代のワル?の同級生・龍一とふたり、映画館に通いつめた青春を描いています。成人後、再会した友人は悪徳金融の取り立て屋に身を崩していました。さらに数十年後……。
 
「あの夏の日、一人で区民会館に『ローマの休日』を見に行った龍一は、映画を見終わったあと、今のクソみたいな生活から脱け出ることを決心した。一緒に映画を見ていたたくさんの子供たちの、スクリーンをまっすぐに見つめる目がキラキラと光っているのを、暗闇の中で見つけてしまったからだ」
 
「スクリーンをまっすぐに見つめる、キラキラと光る目」を、龍一もかつて持っていたに違いありません。ヤクザ稼業に足を踏み入れてからは失ったとはいえ、よみがえさせるのはそう難しくなかったことでしょう。映画は、そして物語は偉大です。ワルをも立ち直らせる力「救い」を持っているのですから。
 
こういう小説を読むと、作中に出てきた「太陽がいっぱい」や「ローマの休日」などを無性に見たくなります。そしてサンヒョクに再会したくなったときは「冬のソナタ」までも。「冬のソナタ」に「救い」はなかったのでしょうか。そんなはずはありません。ファンの多くが悲劇的な死と別れを覚悟しただろう結末にも、感動的な「生」が待っていたのですから。

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わたしも、「冬ソナ」ファンですよ〜。
ばかばかしいばかりの話、ありえないストーリーなのですが、
ナイーブな感覚と純な思いが、
日本人が忘れていたものを思い起こさせてくれましたね。
一時代前のすれちがいメロドラマ仕立ての展開も、
かえって新鮮でした。

それにしても、ドラマでも、
いいひとすぎたサンヒョクが、
「お父さんの辛さを変わってあげられなくて、ごめん」
なんて言葉を吐いて死ぬなんて、
あまりに、哀しいですよね。
信頼していたマネージャーに裏切られたことがショックだったのか、
ストレスで疲れきっていたのか……。
スターという柄ではなかった人なのに、
スターになってしまったばかりに、
ジレンマがあったようにも思います。
父親を尊敬する、あるいは年寄りを尊敬する気持ちが、
韓国は日本よりも強いようです。
パク・ヨンハさんのご冥福をお祈りいたします。

2010/7/1(木) 午後 7:32 imoko 返信する

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「私も冬ソナファン」というコメントを以前もいただきましたよね。二度も同じマクラを書いたのでしょうか、そろそろ痴呆か、と気になってきました。
いいひとすぎたサンヒョク…のくだりは、ファンならずとも泣けてきそうです。「お父さんの辛さを代わってあげられなくて、ごめん」なんてドラマのセリフのようです。
それにしても韓国では、アイドル、俳優たちに自殺が多すぎます。これも急成長の歪なんでしょうか。

2010/7/1(木) 午後 8:10 [ aka*9m*h* ] 返信する

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私は韓流映画や作品については何の知識も持ち合わせません。
せいぜい「梁某か」(作者名・タイトル共に忘却・・・)の小説を読んだ事がある程度です。
けれどもパク・ヨンハに付いては以前10チャンネルTVのバラエティ番組で見た事があり、可愛い笑顔のチャ―ミングな男の子と言う認識はもっていました。 その彼の自殺報道には驚きました。
彼の国は絶体的な儒教の国にも関わらず、どうしてこうも自殺者が多いのでしょうか。やはり芸能界と云う世界は何か暗い一面を抱えているのでしょうか。

2010/7/1(木) 午後 9:40 [ psvaek ] 返信する

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私も「冬ソナ」以外はまったく知りません。子どものころに抱いた偏見が消えず、いまだに韓国料理を食べられないほどです。
しかし「冬ソナ」には泣かされました。こういうドラマを通して、外国人差別が少なくなるなら、韓流ブームを一概に笑えませんね。
パク・ヨンハは日本でも大変な人気者のようです。日本の青年から失われたかのような純粋さに、日本の奥様たちは引かれるのかもしれませんね。

2010/7/2(金) 午後 4:32 [ aka*9m*h* ] 返信する

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私も、サンヒョクに心を重ね、サンヒョクが好きで冬ソナを見てました。
せつない挿入歌にも心ひかれました。
ご冥福をお祈りします。

2010/7/5(月) 午後 4:11 つっきぃ 返信する

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つっきいさん、コメントありがとうございます。
私もヨン様より、サンヒョクが好きでしたね。
どうして死を選んだのか、いまだに分かりませんが。

2010/7/5(月) 午後 4:41 [ aka*9m*h* ] 返信する

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