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まず心より学べ
NHK大河ドラマ「春の坂道」の中で、田村高廣の沢庵宗彭が、
中村錦之助の柳生宗矩に、「棒ふりよ・・・」と切りだして、
「剣術が強いからと言って、そんなことで本当に強いとはならないのだ」と、諭すシーンがあった。
柳生宗矩は、沢庵との出会いによって、剣に開眼したと云います。
ある雨の日、禅問答を仕掛ける沢庵。
「お主、この雨の中に外に出て、濡れない極意を見せてみよ」
柳生宗矩は降りしきる雨の中、剣で雨をメッタ斬りにして見せます。
「どうだ」とばかりにドヤ顔の宗矩に、
沢庵は「そんなに濡れていて、何が極意じゃ」とニベもない。
「それなら和尚の極意を見せてくれ」と食ってかかる宗矩。
その言葉を受けて、おもむろに雨の中に外に出た沢庵。
何をするでもなく、ただ、じっと雨の中に立っているばかり。
濡れネズミのようになって戻ってきた沢庵に、宗矩はすかさず突っ込む。
「なんだ、和尚だって濡れているじゃないか」。
そこで、沢庵はこう言うのです。
「まったく違う。
お主は濡れまいとして、刀を振り回して雨に立ち向かった。
だが、雨はそんなことはお構いなしに、お主を濡らしたわけじゃ。
わしは雨を受け入れて、ただ立っていた。
わしが雨に濡らされたと思うか?
わしは雨とひとつになっただけじゃ」
この一言に宗矩は開眼し、剣を極めることとなった。
同じ雨の中にいて、
「心を掻き乱して戦った」宗矩と
「心穏やかに佇んでいた」沢庵。
濡れない極意は、
「あるがままを受け入れ、それとひとつになること」
だったのです。
其れ剣は心なり。心正しからざれば、剣又正しからず。
すべからく剣を学ばんと欲する者は、まず心より学べ。
島田虎之助
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2015年12月14日
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君子の剣
男谷信友は、天保の三剣豪の一人と謡われているが、決して豪傑然とした人物ではなく、その人柄とあいまって「君子の剣」と称されるほどであった。
当時としては珍しく他流試合を推奨し、望まれればどんな相手だろうと試合をうけ、三本勝負のうち一本は必ず相手に譲り花をもたせた。
しかし、逆に信友から花以外の一本をとったものはなく、その実力はそこが知れないと言われていた。
ある日、信友のもとに一人の若者が尋ねてきて試合を申し込む。
信友はいつもどおりにこれを受け、相手に花を持たせて帰した。
当時、すでに日本随一と言われていた信友から、一本をとって気を大きくした若者は、信友と同門の井上伝兵衛をたずねるが、今度は一本をとるどころかこてんぱんにやられてしまう。
天狗の鼻を折られた若者は、その場で井上に弟子入りを願い出たが、井上は、
「君の剣は荒削りだが素質が十分ある。」
「私に師事するよりも亀沢町の男谷信友先生をたずねなさい。」
と諭した。
すると若者は、「亀沢町はすでに訪ねましたが、評判ほどではありませんでした。」と答えた。
それを聞いた井上は、ひとしきり笑うと、若者に、
「きみは男谷先生に軽くあしらわれただけだ。」
「あの人の強さは底が知れない。」
「紹介状を書いてあげるから、もう一度たずねてみなさい。」
と懇々と諭した。
半信半疑の若者は、言われたとおり再度信友をたずね、井上の紹介状をみせた。
一説によれば、このときの立会いで若者は、一合も切り結ぶことなく、信友の眼光に気圧され、気がつけば道場の床にはいつくばっていたと伝えられている。
ちなみに若者の名前は「島田虎之助」である。
この後、信友に弟子入りし三剣豪の一人に数えられることになる。
腕に覚えのある剣客を、眼力のみで戦意を喪失させる力がありながら、それを誇示することをせず、立会いにおいて相手に一本を譲れる度量の大きさ、カッコいいと思うのは、私だけだろうか。
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