四季の詩

今年もあと一年…頑張るか。

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よばり塚 10

                                                                                                                                                                                                                           
   (10)ちっこうの原点


 何が出てくるか分からぬ不気味さをかみ締めながら歩いた前回と違って、仲間たちと進

む今日の「よばり塚」への薮道は、一裕にとって楽しかった。と言っても他の者たちの心

境はいかに…。時々その表情を確かめるが、どの顔からも辺りを見まわす真剣さが読み取

れた。


 「もう少し進むと家がある。今は誰も住んでいないが…」

 先頭を歩く一裕が、振り向いて仲間たちに告げた。

 「こんな所に家があるの?いったい誰の家?」

 「こんな寂しいとこに…よく住んでいたねぇ」

 秀雄と春男が不思議がった。

 「父ちゃんが昔、その人と会ったらしい。海津釣りのうまい人だって…」

 あの夜の父との会話を、一裕は仲間たちに説明した。

 「たしか…その家の近くに洞窟があるらしい」

 「洞窟?それって防空壕なの?」

 「いや…違うらしい。みんなは石炭を掘った跡だと思ってるが、父ちゃんは違うと言っ

た。築港を造るときの砂利石を掘ったらしいと…。今日はそこも見てみたい…」

 「カッちゃん。ここに来たこと父ちゃんに喋ったの?」

 力が一裕にさぐりを入れてきた。

 「馬鹿…言うわけねぇだろう。一番池まで鮒をすくいに来たとごまかしてある」

 「そうかなぁ…。カッちゃんちの父ちゃん勘がいいから…もしかしてバレてっかも…」

 「俺もそう思う。俺たちガキらの嘘を見抜くのうまいもの…」

 春男と正博が口をそろえた。


 そう云えばあの夜、父はやたら「よばり塚」の説明を細かくした。時々、何かをのぞき

込むような眼差しを向けていたような…。一裕の心に一抹の不安が芽生え始まった。

 父の「よばり塚」の話に自分が上手く乗せられたか…。厳しく「よばり塚」へ行くこと

を禁じなかった、父の態度こそが逆に怪しかった。


 バレたらバレたまでよ…その時はその時…。

 一裕は捨て鉢に開き直り、また力強く薮道を進んで行く。

 「ここがさっき話した一軒家だよ…」

 一裕が廃屋の前で仲間たちにつぶやいた。

 「えらいなぁ…こんな場所に住んで居たんだ。どんな人だったんだろう」

 「俺もそう思う。こんな寂しいところに…」

 「住めば何とかって言うから…けっこう暮らしてゆけたのかな」

 「正博。うまい事言うね。その言葉どこで覚えた?」

 流れ川の河童たちが、廃屋を眺めながら思い思いの言葉をつないでいる。

 「この奥にさっき言った洞窟があるらしい…」

 一裕がその方向を指差す。

 「この奥かぁ…ちょっと見てくるか?」

 秀雄が歩き出した。遅れまいと全員がそれに続く。


 一軒家から洞窟があると言われる辺りはやたら石ころが多い。今でこそ夏草たちに覆わ

れて見分けがたいが、昔…岩山が人為的に切り崩されて平たんにされたようだ。さほど幅

広くない平地の真ん中を、どこから流れてくるのか…か細い小川らしき水が流れている。

その途中に、たぶんその水を取り込んだのだろうか…コンクリート製の井戸こがで作った

簡易な水場があった。

 ここがあの家の人たちの貴重な水がめであり、炊事場でもあり、洗たくなどをしたであ

ろう…生活の基盤であることが容易に推測できた。貧しい中でも精一杯に生きるという逞

しさが、この場所からあきらかに想像できた。

 思わず井戸こがにあふれる水で、正博が汗する顔や頭を洗った。

 「うわぁ〜!冷たくて気持ちいい!みんなもやったら」

 誘われるまま、次々に河童たちが正博を真似た。

 「ほんと!冷てぇ〜!カッちゃん…たぶん飲めるよ…この水」

 秀雄がつぶやいた。

 「飲める飲める!うめぇ〜!この水」

 力と春男が井戸こがからしたたり落ちる水を、手のひらに溜めながらすすっている。

 一裕もそれを真似た。

 ほんとだ…うまい…冷たい…。これは貴重な水源だと一裕は思った。

 「この場所が有ったから、あの家の人たちは住んでいられたのかも…」

 「そうだねぇ…毎日こんなうまい水飲んでたんだ」

 期せずしての一服の清涼に、河童たちが安らいでいる。

 もはや「よばり塚」への不安感など、どこ吹く風…と消えていた。

 「カッちゃん。ここは俺たちの秘密の場所になっかもね…」

 「そうだ!そうだ!俺たち五人の秘密の水のみ場!」

 「秘密の水のみ場?面白いねぇ〜正博は…こんな遠くまで水のみに来るの?」

 春男が正博をちゃかした。それを聞いた三人が声を出して笑った。


 河童たちの「よばり塚」探検に、新たな発見が生まれたことだけは事実であった。

 さらに奥へ進むと、見上げるほどの断崖に突き当たった。岩肌はあきらかに礫岩状であ

り、言い伝わる石炭の採掘場で無いことが解る。父が言ったとおり、築港建設の用材を採

掘した現場であることが確認できた。(私ごとの興味を快く受けてもらった知人がいる。

そのお方から届いた史料に、その変遷が綴られている)


 果して洞窟は…河童たちはその痕跡を探し始める。間もなくして崖下の真ん中辺りに洞

窟は見つかった。入り口は岩肌から流れ出す山水か、降り溜まった雨水か、半分ぐらいが

水没している。どの程度の奥行きなのか、河童たちには入る勇気も無く確認出来ない。声

を大にして発するその音響から、おおよその予測をするだけだった。史料から知り得る築

港建設の、防波堤用コンクリート・ブロック製造の用材なら、穴など掘らず切り崩して確

保すればいいと思うが…なぜこんな洞窟を掘ったのだろうか。

 一裕の頭にまた一つ疑問が残った。


 船舶の避難港として築堤が計画されたのは明治の末期と記されてある。

 旧字名「鮫口」辺りの岩山から出る礫岩が、築堤の捨て石として利用された。後にこの

「よばり塚」の岩山がその対象となったとも併記されている。

 この辺りの地形から察すれば、歩いてきた薮道も、寂しい一軒家も、築堤のため削り取

られた岩山の痕跡に存在していることを知った。それ以前は険しい岩山が川べりまで連な

り、切り込む様に一気に「よばり塚」へ落ち込んでいたことだろう。

 岩山がここまで平たんにされるには、どれだけの人力がここへ集中されたのだろう

か。船舶の避難港を造ると云う一大事業に駆り出された、当時の多くの人々の労苦に頭が

下がる思いがした。


「そろそろ行くか…。よばり塚へ…」

 一裕が興味深そうに洞窟を眺める仲間たちに声を掛けた。

 河童たちはこの洞窟のある場所から、それぞれに何かを納得したような顔をしていた。

 真夏の景色の中を見上げれば、切り崩された岩肌の所々に、まだ咲きそろわぬヤマユリ

が数多く枝垂れている。岩山の木々からは蝉の声が夏の盛りを謳歌している。

 夏になれば河童たちの遊び場となる磯浜海水浴場の東防波堤(通称・東ちっこう)は、

遠い昔ここから始まったことが確認できた。今でこそめったに人が歩み寄らない「よばり

塚」の近くに、まるで秘められたよう…その原点が夏空の下で静かに眠っていたのだ。

 この日、流れ川の河童たちは、貴重なふるさとの歴史の一つを心の中に刻んだ。

 
 

 
 
              2013.7.6
 
 
 
 
 

 
 
 
 


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