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只今、列車はひたすらに森の中を下っている。 大きなカーブを十分すぎるぐらいに曲がったかと思うと、今まで窓から見えていた緑の牧草で覆われている谷の景色が反対側の座席の窓から見える。 鉄道で、車道の峠道のようにジグザグに下りる路線もめずらしい。 行き止まって進行方向を変えて上り下りするスイッチバックはよくあるが、これも巨大なスイバックみたいなもんだろうか。
途中、分水嶺を示す標識が立っていた。
ここを境に、イタリア側に流れる水はアドリア海に、反対側に流れる水はドナウ川を経て黒海に至る。アルプスはヨーロッパの水瓶でもあるのだ。 坂を下りに下って、列車はポスキアーヴォ駅に到着した。 サンモリッツを出て初めての人里の普通の駅だ。 ここまでは人も住まない登山列車のような車窓だったが、ここからは谷間の川沿いを走る普通の田舎路線になる。
横に流れる川の水は白く濁っていて、冷たい雪解け水であることを示している。
さらに進むと、川はエメラルドグリーンの水をたたえるポスキアーヴォ湖に注ぐ。列車は美しい湖畔沿いのカーブを曲がりながらゆったりと下っていく。 |
ヨーロッパ鉄道の旅
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植物も生えない、岩と雪だけが荒漠と広がる山岳地帯。 巨大なU字谷の中を、なだらかなカーブで優雅に走っていた列車は、この辺りから急な下り坂へとさしかかる。 アルプスは越えたのだから、後はイタリアへ向けて降るばかりだ。 はるか眼下に、エメラルドグリーン色の水をたたえる小さな湖が見えた。 と思うと、車窓の外には木々が流れだす。 再び森林生息限界の下に来たのだ。 その後は大きなカーブの連続で、だんだんどっちが南だか、方角がわからなくなってくる。 とうとう湖のすぐ横にまで列車は降りてきた。 湖面はまだ氷がとけきってないようで、白い部分がまだ大部分を占めていた。 しばらく続いた森林域を抜けると、一気にスイスらしい緑の牧草地の景色が広がる。 その下のほうに、久しぶりに人里が見えてきた。 列車は再び大きなカーブを容赦なく繰り返し、ジグザグにこの巨大な谷を降りていく。 |
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列車はぐんぐんと勾配を登ってゆく。 針葉樹の森が突如と消え、広漠とした岩山と雪原の世界が広がる。 列車は森林生息限界を超えて、アルプス越えの頂点部分を走っている。 家も、緑もない。まったく人の住まない広大な谷間を列車は走り抜けていく。 右手には標高4049mのピッツ・ベルニナが空に向かってそびえている。 その下にはモルテラッチ氷河が横たわっている。 列車は青緑色の雪解け水で出来た湖に沿って、大きなカーブを曲がっていく。 時折山の斜面にリフトらしいラインが見える。冬にはスキーを楽しめるのだろう。 もちろんロッジのような建物は一切見当たらない。 殺伐とした岩の谷間をしばらく走ると、眼前に巨大な緑の谷間が開けた。 列車はアルプスを越えたのだ。 あの谷を下っていけば、そこはもう太陽の国、地中海の国イタリアなのだ。 |
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3つの氷河の間近を走り、標高2256mから一気に429mのイタリア・ティラノまで下っていく列車、それがベルニナ急行だ。 日本では氷河特急より知名度が少ないようだが、その車窓の景色の素晴らしさからは絶対こちらのほうがオススメである。 朝9時前、サンモリッツ駅にてRHB鉄道の真っ赤な車両に乗り込む。 急行と書いたが、実は私たちが乗ったのは普通列車のほう。 ベルニナ急行は完全予約制で、ユーレイルパスに追加料金が必要だ。 車内販売があり、シートもよく、窓も氷河特急のように大きくとられているが、窓が開かない。 列車の旅は可能なら窓が開いたほうがいい。 風をいっぱいに浴びて車窓を楽しむことができるし、写真をきれいに撮ることができる。 しかも普通列車なら予約、追加料金はいらないし、所要時間も30分ほどの違いで急行とさしてかわらない。 要は、観光用か、地元の足用かの違いなのだが、ならば地元をとる方がより楽しめるだろう。 動き出した列車はゆっくりとサンモリッツの町から離れていく。 車内はガラガラで、この車両に乗っていたのは私たち2人だけだった。 やがて列車は峠に向かって森林の中を登っていく。 広い川原の川を渡る。ベルニナの谷だ。 その向こうには標高4049mのピッツ・ベルニナ山がそびえる。 さらにもう少し走ると、ベルニナアルプスの山々のふもとに巨大な氷河が横たわっているのが見えた。 この路線は本当に雄大な景色を見せてくれる。 しかしお楽しみはまだまだこれからだ。 |
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この氷河特急の最大の見せ場、ランドヴァッサー橋と岸壁にくり貫かれたトンネルを抜けても、まだまだ峠越えは続く。 車窓から景色を眺めていると、つい先ほど見た同じ景色が現れた気がした。 それもそのはず、ここはループを連続2回まわる路線なのだ。 眼下に別の線路が走っているので、こんな田舎に別の路線があるのかと思いきや、これから走る同じ線路の延長だった。 長い坂を下りきった列車はいよいよ終着駅St.Moritz(サンモリッツ)に向けてラストスパートをかける。 長かった8時間にも及ぶ、アルプスの大パノラマを堪能したこの列車の旅もいよいよ終る。 結局、通路をはさんで向かいの席のおじいさん2人とは、最後まで同行したことになる。 彼らはドイツ語を話していたので、スイス人かドイツ人かオーストリア人が知らないが、それらの国のお年寄りが、こんな観光列車の旅行で奥さん同伴でないのは珍しいように思う。 イタリアやスペインなどラテン系の国では、おじさん同士が旅行してる姿をよく見かけたが。 なんにしても、陽気で社交的な、いいジイ様たちだった。 彼らはドイツ語しか話せず、私たちはドイツ語が話せないので英語で話していたが、適当に会話が成り立っていたのが不思議である。 私がお土産で購入した傾いたグラスや、ビールの話、日本の京都から来たことや、どこで付いたのか私のシャツが真っ黒な機械油でちょっと汚れていたのだが、 「ワシのかみさんなら“こんなに汚して!”って、怒られて家から追い出されちまうよ。 奥さん怒ってないの? えぇ?! 君の奥さんは優しいねぇ。」(とおそらく言ってた) などなど、お互いジェスチャーを交えながらも、必死に、しかし楽しく会話できた。 旅は道連れ、美しい景色と共に楽しい時間を過ごせた2人のジイ様に感謝である。 |



