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書庫ヨーロッパ鉄道の旅

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 急カーブと谷をまたぐ高架橋が多くなり、列車は峠越えに入ったようだ。
この区間はとにかくすごい。
2つのヘアピンカーブと3つのループが連続して続き、鉄道好きならちょっと感動物の路線だ。

 その中でも、いやこの氷河急行でも最大の見所は、途中にあるランドヴァッサー橋であろう。
この高架橋の下の、ライン川の支流である谷底のからの高さは65m。
古代ローマ帝国時代からのヨーロッパのお家芸である石積みのアーチ橋だ。
そして半径100mのカーブを曲がって列車に立ちはだかるのは、垂直にそびえる堂々たる岩壁。
そこにトンネルが掘りぬかれており、列車はそこを駆け抜けて行く。

 よくもまあ、こんな高さの岩山にトンネルを通そうと思ったものだ、とあきれるほどである。
感動しながらシャッターを切りながらも、肉眼でもこの絶景を脳裏に焼き付ける。
空中を快走していたかのような列車は、あっという間にトンネルの暗闇に吸い込まれていった。





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 BrigからReicbenau間では、ハイジの舞台のようなアルプスの山々が迫る、こんなところにも人が住んでいるのか、と感心させられるような山岳地帯の風景だったが、ReicbenauからSt.Moritzまでの区間の車窓は丘や、森や、町が広がる大自然の中にも人の生活の営みが見られるような落ち着いた風景となる。
そしてこの区間では幾つかの古城を車窓から見ることが出来る。
広大な山の裾野の森の中や、川や湖のほとりにポツリと建っている様がまたなんともいい。

 スイスは西ローマ帝国崩壊後、民族移動などを経て神聖ローマ帝国、ハプスブルグ家の支配下に入る。
これらの城は、その封建時代に、配下の領主たちが建てたものなのだろうか。
この時代の支配はかなり圧制的で、各州は同盟を結び、独立軍を結成し、ハプスブルグ家の支配からの独立戦争を起こし、見事独立を果たす。

 息子の頭の上のリンゴを射落としたことで有名なウィリアムテルは、この時の指導的立場を果たしたとされているが、彼の存在を示す証拠がなにもないため、歴史的には架空の人物とされている。
しかし、彼はやはりスイス人にとっての英雄であり、ロッシーニ作曲の歌劇「ウィリアムテル」とその序曲はクラシック音楽を聞かない人でも知っているぐらい有名になっている。
車窓から見える古城の数々を見ながら、頭の中でウィリムテル序曲が流れてきた。




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 一両だけ置いてきぼりにされた私たちの車両。
お迎えの機関車が来るまで、Reichenau-Tamins駅のホームで時間つぶしをする。

 この駅のすぐ下に流れている川は、ライン川の源流のひとつだ。
これを下っていけば、ボーデン湖、バーゼルからドイツに入って、マインツ、ボン、ケルンを経て、オランダ・アムステルダムで北海に出られる。
先ほどまで氷河特急と並行して流れていたのはローヌ川。
これはレマン湖、ジュネーブ、フランスに入ってリヨン、アビニョン、アルルを経て地中海に注ぐ。
そして、これから向かうサンモリッツ方向に並行して流れている川は、やがてドナウ川となり、オーストリアのザルツブルグ、リンツ、ウィーン、ハンガリーのブタペスト、セルビアのベオグラート、そしてルーマニアに入って黒海に注ぐ。

 ヨーロッパのヘソであるアルプスだから当然といえば当然なのだが、スイスのこの氷河特急の路線は三つの大海に注ぐ三つの大河の分水嶺を走っていることになる。
川を下って国境越え、という感覚がまるで味わえない日本で育った私には、まったく不思議な感覚だった。

 さて40分ほど待って、ようやくクール方面から真っ赤な列車が到着した。
しかし連結する気配はない。
この列車はベルニナ急行。
スイスのクールからサンモリッツを経て、アルプスの山を駆け下りイタリアの国境の町トレントまで運行している。

 さらにしばらくすると、もう別の列車がやってきて機関車を切り離し、私たちの車両を連結してくれた。
大丈夫だろうと思いつつ、一抹の不安があった私たちは、ようやく胸をなでおろした。
さあ、終着駅サンモリッツへ出発だ。





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 緑の牧草の丘に咲き誇る満開の黄色のタンポポ。
その向こうには猛々しい白いアルプスの山々、青い空。
そんな景色の中を飽きるほど走り、列車は渓谷に入り、しばらくするとReichenau-Taminsに停車した。
停車中、軽い揺れが何度かあったのは、ここで列車が2つに切り離されたからだ。
ひとつはChurへ、もうひとつは私たちの目的地St.Moritzへ向かう。
それにしても、10分たっても20分たっても一向に出発しない。

 分割作業があるにしても遅すぎるだろう、様子を見に駅のホームに降りてみて驚いた。
山と川以外に何も見えないこの寂しい駅に、私たちの乗っていた車両ただ一両だけが、ポツンと残されているではないか。
機関車も、他の車両もどこにも見当たらない。駅員すらいない。

 異変に気付いた他の乗客も降りてきて、やはりこのおかしな光景を見て軽く驚いている。
イギリス人らしきおじさんと目が合って、互いに肩をすくめた。
「どうなってるの?」
「さあ、よくわかんないけど、サンモリッツ行きの列車がそのうち来て、拾ってくれるじゃないの?」
こんな国際的に有名な観光列車が、一両だけを置きざりにして行くような馬鹿なマネはするはずもなく、
非常に奇妙ではあるが、そのうち別の列車が迎えに来てくれるだろう。
少し不安ではあるが、待つしかない。

 よく見るとこの駅の景色もなかなかのものである。
スイスらしい水のみ場もある。
天気もいいし、ホームをぶらぶらして時間をつぶすことにした。




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 氷河特急の一等車は、ご覧の通り窓が大きく採られていて、高さのあるスイスアルプスの車窓を大いに楽しめる造りになってます。
確かによく見えていいんだけど、欠点もあります。
窓の面積が大きいので、日光が容赦なく照り付けます。
季節によっては非常に暑いです。
だからポカポカして眠くなるわ、日に当たりすぎて疲れるわ、という問題が生じます。
1〜2時間ならそれもいいんだけど、なにせこの氷河特急は8時間ぐらい乗ってるからね。

 もうひとつは窓が開かないこと。
クーラーもまだ十分に普及していなかった国鉄時代に、鈍行であちこち旅行してた経験がある者としては、これはちょっと悲しい。
夏なんざ、窓を思いっきり開けて、薫風を浴びながら流れる車窓を楽しむ!やはりこれは鉄道旅行の醍醐味です。
新幹線、TGV、ICE、AVEなど高速列車は仕方ないとしてもね。
しかも写真撮るなら、ガラス越しより、窓を開けて直に撮った方がきれいに撮れるし。

 だから一等車もいいけど、窓が開く二等車も、通にはいいと思いますよ。
この教訓を生かして、この後のベルニナ急行では二等車にしました。





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