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書庫ヨーロッパ鉄道の旅

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 食堂車を連結した氷河特急。
オーバーヴァルトを発ち、ローヌ氷河をパスする長いフルカトンネルに入ると、すぐに食事の呼び出しがきた。
食堂車はクルミ材を使った明るい内装で、山岳列車の雰囲気を出している。
その日のメニューはすでに決められており、飲み物だけ選べる。
他のテーブルでは皆さんワインを頼んでいたが、この時、私は昼間にワインを飲む考えがまだなく、ガスウォーターにした。
もっともこの旅の中盤ぐらいからは、もうワイン無しではランチもディナーも食べられない体になってしまったが…。

 爆笑問題の田中にそっくりな小柄のウェーターが持ってきたのは『子牛のカツレツ』だった。
ミラノやウィーンのカツレツとはまた違った味わいで、付け合せの野菜シチューと一緒に食べた。
なかなかおいしかった。
この辺りは氷河特急の路線の中でも特に標高が高く、勾配もきつい。
なるほど、ここであのワイングラスの登場か、と思いきや誰も使ってる人はいなかった。
たしかに急な坂をぐんぐん登っている感じはするが、あのグラスの傾きほどではやはりない。
カーブもやたら多かったように思う。

 それにしても、給仕は彼ともう一人のウエイトレスの2人だけだったのだが、2人とも実によく働く。
ニコリともしないが、動きに無駄がなく、てきぱきと仕事をこなしていく。
ここの車掌さんもそうだったが、スイス人は本当によく働く。




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 氷河特急Glacier Expressは途中、7つの谷と91のトンネルと291の橋を通り抜ける。
アプト式の区間もあり、ほとんど登山列車の感覚だ。
で、速度があまりでないため、雄大なアルプスの車窓を存分に楽しめるわけだ。

 なぜこの列車が氷河特急と呼ばれているのか、それはツェルマットからちょうど3分の1ぐらいの辺りで、ローヌ氷河のすぐ下を走るからだ。
昔は車窓からこの氷河が抜群に見えたらしい。
しかし、それは過去の話。
現在ではこの氷河が下まで降りてきて線路に迫ったため、長いトンネルで通り抜けるルートになっている。
残念なことだが、それに地球温暖化が関係しているのかは知らない。

 列車はその長いフルカ峠のトンネルの手前のオーバーヴェルト駅で停車。
ここで食堂車が連結される。
トンネルを抜けたらお待ちかねのランチタイムだ。





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 列車はゆっくりとマッター谷を下り、ローヌ川の巨大U字谷に出てきた。
このBVZ鉄道はVisp駅で国鉄本線と合流する。
とはいってもスイス国鉄は新幹線と同じ広軌幅、BVZは日本の在来線と同じ狭い軌道なので同じ線路にはならない。
ここからBrigまでは国鉄と並行して走ることになる。
Brig駅はBVZ鉄道の終点で、ここからはFO鉄道になり、さらに東に向かってスイスの山岳地帯を走る。
国鉄はここから大きく右に曲がりシンプロントンネルに入り、そのままイタリアに抜けてしまう。

 Brig駅を過ぎると車内販売がやって来た。
なにせこの列車はヨーロッパでも有名な観光特急なので、いろんなお土産が売っている。
中でも有名なのはこの小さなグラス。なんと傾いている。
この氷河特急は、歯車を噛み合わせるアプト式で登るような急勾配があるため、このグラスはその最大傾斜にあわせてつくられているようだ。
そんな急勾配を登っている途中にもワインがこぼれないように。

 もっとも乗っているとそんな極端な傾きを感じることもないので、まあシャレみたいなもんだと思うが、せっかくなのでおみやげ用に2つ購入してみた。
もちろんこの目的のためにツエルマットの駅前の生協でビールを買っておいた。
ビールを注ぐと泡のラインが傾斜で並行になることを期待したが、ここはたいした傾斜ではなったのでグラスの口のラインに対して斜めになってしまった。
それを見ていた向かいの席のおじいちゃんたちが笑ってた。
「なんか、あまり意味なかったね。」って。




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 この氷河特急は、マッターホルンのツェルマットから高級リゾート地サン・モリッツまで、270kmを7時間30分で結ぶ。
平均時速34km/h。
なぜそんなに遅いのかというと、路線の標高差が激しく、いくつもの谷や峠を通るからだ。
列車はBVZ鉄道−FO鉄道−RHB鉄道、と複数の私鉄を路線を踏破していく。
それゆえユーレイルパスが効く区間とそうでない区間があってちょっとややこしい。

 一通り検札を終えた車掌さんが慌しく帰ってきた。
彼の説明によると、私が持っている切符では幾つかの距離の分の料金が足りないらしい。
JRならここで追加料金を払って切符を買うことが出来るが、イギリスを除くヨーロッパの国々では車内で切符を買うことは出来ないのだ。
そこで彼が言うには、「この次の駅で足りない分の切符を買ってきてくれ、その間列車は待ってるから。」
とのことだった。

 妻を席に残して、私は車掌さんとドアの前で次の駅に到着するを待っていた。
彼は駅や運転手に連絡したりといろいろ動いてくれていたようで、汗を流しながらハアハアと息を切らしていた。
それでも彼は「How’s Switzerand?」(スイスはどう?)と聞いてきた。
私が「最高!」と答えると、「Good!」と満面の笑みで答えてくれた。

 列車は次の駅シュタルデンに到着した。
山小屋風のかわいい駅舎で、プランターには美しい花が植えられていたが、今はそれどころではない。
ドアが開くと一目散に駅の切符売り場に車掌さんと一緒に走った。
駅員には事前に連絡しておいてくれたようなので、なにも説明する必要もなく切符を発行してくれた。
現金が足りなかったので、カードで支払おうとしたが、こういうときに限って機械がうまく作動しない。
最後はうまくいって、支払いを終えて切符を持って列車に帰ってきた。
私が乗り込むと列車はすぐに出発した。

 後で時刻表を見てみると、あの駅の名前がない。
もしかすると停車駅ではなかったのに、わざわざ停まってくれたのか。
仮に元々停車駅だったとしても、8分近く待たせてしまった。
それでも車掌さんは「よかったよかった」と笑顔で迎えてくれ、列車は何事もなかったかのように走り出した。
日本だったら迷惑をかけたと恐縮しなければならないところだが、全くそんな雰囲気でもない。
皆さんに感謝しつつ、やっと落ち着いて席に着くことが出来た。
窓の外は、満開のタンポポが咲き乱れる緑の牧草地、そして背後には切り立ったアルプスの山々が広がっていた。




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 スイスは山岳地帯ながら鉄道網が張り巡らされている鉄道王国だ。
その中でも世界的に有名なのが、スイスの山岳部の東西を駆け抜ける『氷河特急』Glacier Expressだ。
路線はまさに絶景の連続で、それゆえ一等車は高いアルプスの山々がよく見えるように、窓が大きく、天井にまでとられている。

 8:50ツェルマットを出発した列車は、マッターホルンの雪解け水が流れるマッター谷を、国鉄本線と交わるブリークまで下っていく。
谷は狭く、両脇にはドム(4545m)やヴァイスホルン(4505m)などの名峰がそびえる。
この日の乗車率は50%ぐらいだろうか。
現地に住んでいると思われる日本人の家族もいた。
私たちの向かいの席は、スイス人かドイツ人か分からなかったが、ドイツ語を話すおじいちゃん2人だった。

 さっそく車掌さんが検札にやって来た。
乗車する時に笑顔で私たちを迎えてくれた、ちょっと小太りの気のよさそうなおじさんだった。
私たちはユーレイルパスを持っているが、この特急に乗るには追加料金を払わなければならない。
その切符もツェルマットに来た日に購入済みだ。
そのパスと切符を見せると、「オー、なんてこった!君たちこれじゃ足りないよ!!」と言われてしまった。
そういえば、この切符を買うときに少し問題があったのを思い出した。


「これじゃあダメなんだけど、何とかしてあげるからちょっと待ってて、まず検札を終らせるから。」
小太りの車掌さんはあわただしく行ってしまった。
切符が足りなかった?!
かなり動揺してしまった私は、もはや美しい車窓の景色も目に入らなくなってしまった。




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