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食事が終わり窓を眺めてみるとそこはもう一面の砂漠だった。位置的にはモンゴル上空のあたりのはず
である。一面の青々とした草原を想像していたのだが、全く異なる風景だった。もちろん砂漠といっても
砂の海ではなく緑のないゴツゴツとした荒れた山地のほうである。実際にはモンゴルという国は面積的に
草原より荒漠とした山地が多いのか、砂漠化が進んでいるのか、実はここはモンゴルではなくもっと南の
シルクロードの真上のタクラマカン砂漠なのか、いろいろと想像をふくらませてみる。
それでもごくまれに人工的な模様(畑だろうか?)や建物らしきものが確認できる。こんなところにも人
は住んでおり、彼らは彼らでその生活の営みを続けているのだ。
しばらくすると室内灯が消えた。就寝の時間らしい。眠くないのでしばらく映画を見ていた。字幕が遠
くて読みにくいので英語の音声で楽しんでみた。意味はわかるのだがやはり母国語ではないので少し疲れ
た。自分の父はほら吹きだと思っていた主人公が父の死後、そのお葬式に彼の大げさな法螺話に登場した
奇妙な人たちが実際にたくさんやって来て自分の父親はどうもウソを付いていなかったらしいと気付かさ
れる話だった。それなりにおもしろかったし、それなりに感動した。
その後も窓の外を時々見てみたが途中から雲が厚くなって地上が見えなくなってしまった。
何時間ぐらい経ったのだろう。他の映画を見たり、眠ったり、ガイドブックを読んだり、を繰り返して
いるうちに飛行機はいつのまにかポーランド上空を飛んでいた。映画が終わったモニターのナビの画像が
それを教えてくれた。ブラインドを少し開けてみると、おお、景色が一変していた。荒漠としていた景色
から一面の畑、森、細い道につながる集落が観察できた。
ヨーロッパだ!
さらにもうしばらく飛ぶと少し先に蛇行しながら流れている大きな川が見えた。確証はできないが位置的
におそらくライン川であろう。反対側の窓の向こうの下部には雲に覆われた広々とした山岳地帯が見え
る、アルプスに間違いない。ヨーロッパもヨーロッパ、いよいよ私は古代ローマ帝国のかつての支配下に
あったゲルマニアに、ガリアに,民族の大移動や中世の暗黒時代を経て、その後、高い文明性を築き上
げ、良し悪しはともかく世界の中心的役割を担った国々の、数々の戦争や歴史を刻んできたこの地にやっ
て来たのだ。
興奮を抑えられない私はその後も窓にへばりつくようにその景色を見続けていた。
ヨーロッパに入ってから飛行機がよく右に左に旋回するようになった気がする。その時は理由がよくわ
からなかったが、ヨーロッパは名だたる首都が密集している。国際空港の密度も高い。飛行機はかつての
植民地であったアフリカ、中東、アジア、アメリカ…世界中から彼らのかつての宗主国へとやって来る。
ヨーロッパの地域線もあれば国内線もある。当然同じ空域を飛んでいる飛行機は日本よりはるかに多いは
ずだ。恐らく緻密な進路決定をしていたのだろう。
再び雲に入ってしばらく経った。雲が晴れると今までにない低さで畑の景色が飛び込んできた。飛行機は
着実に高度を下げていたのだ。すぐに空港設備が見えたかと思うと飛行機はすべるようにフランス、パリ
のシャルル・ド・ゴール国際空港(CDG)の滑走路に着陸した。
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