The Bright Moonlight〜冴月翠の物書きブログ〜

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【FF VII】星と共に

(すごい昔に書いたSSですが、載せてたサイトから移行してみました)

 忘らるる都―――
 セフィロスの凶刃に倒れたエアリスは、静かに目を閉じた。
 皆が泣いている。
 特にクラウド---そんなに、泣かないで。
 私は消えるんじゃない。ライフストリームに還るだけ。
 そしてそこには、あの人が……

【星と共に】

 星を巡る命の流れ、ライフストリーム。
 エアリスはその流れを辿りながら、その姿を探していた。
 明るくて優しくて、青空みたいだった人。
 ずっとずっと待ってた。
 でも、あの人の剣を持ったクラウドが現れた時、全部解ってしまった。
 ううん、本当はあの時、教会で、あなたが星に還っていったのを感じてしまっていたから。
 クラウドを見た時は、ただ予感が確信に変わっただけ。
 でも、でもね?
 だからこそ、今こんな穏やかな気持ちでいられるんだよ。
 沢山の、沢山の命が通り過ぎていく中で、不思議なほどの確信。
 きっと、会える---
「エアリス」
 だからその声が聞こえた時、心が震えて、同時にやっぱり、って思った。
 明るくて、優しくて、でも子犬みたいに可愛い人の、誰よりも好きな人の声。忘れるはずも、忘れられるはずもない声。
 差し伸べられた手を迷わず取った。
 その瞬間、抱きしめられていた。
「ザックス?」
 ずっと会いたかった人がそこにいた。
「ザックス!」
 逞しい胸に顔を埋めて、泣いた。そんなエアリスの頭を優しく撫でながらザックスが囁く。
「頑張ったな---ずっと見てた」
 ザックスの声も震えていた。
「後は大丈夫。きっとあいつが何とかしてくれる」
「……うん」
 皆の誇りと夢を引き継いだ、最後のソルジャーがきっと---
「寂しかったよ」
 ぽつんと呟くと、微かに笑う声が聞こえた。
「わりかったな」
「側にいてくれるっていったのに」
「……その割に、クラウドに結構本気じゃなかった?」
 拗ねたような声。本気でヤキモチを焼いていたみたいだ。
 可笑しくなって笑った。それにザックスがさらに焦る。
「お、おい!マジなわけ?」
「だぁって誰かさんは何も言わずにいなくなっちゃうし?」
「や、だからそれはぁ」
「クラウド強いしかっこいいもの」
「俺の方が強いしかっこいい!」
 ムキになるその姿が面白くて、エアリスは笑った。笑い続けた。
 そしてことん、とザックスの胸に頭を預け、囁いた。
「これからは、ずっと一緒、だね?」
「ああ」
 返された答えが嬉しくて、エアリスは目を閉じた。思いを飛ばせばそこに、仲間達の姿が見える。
(みんな、ティファ、クラウド----)
 クラウド、私達はキミの側にいる。負けないで。
 やがてメテオが訪れるその時に、星の力となり世界を護る。
 そしてその後も、この星を巡りながらライフストリームそのものになっていく。
 それはなんて幸せなことなんだろう。
 だってその時にもずっと、ザックス、あなたが側にいる。
 あなたの側にいられる。
 だから、言いたい。皆と、そしてこの星の全てに向けて。
 ありがとう---

 ラーファがトゥーリンの元を訪れた時、運の悪いことに、トゥーリンが自分用の天幕一杯に衣装を広げ、一つ一つを手にとっては身体に当ててみていた時だった。
 ちょうど手にしていたのは丈の短くしかも裾がシースルーになっている黒いワンピース。
 それを見て我慢できなくなったラーファはつい口を挟んでしまった。
「ずっとずっと、言いたいと思っていましたが……」
 言いながら天幕に入ってきたラーファを、トゥーリンはきょとんと見た。
「あら、ラーファ。どうしたの? あ、ねえねえ、これどう? 可愛いと思わない?」
「可愛いと思わない? じゃありません!」
 思わず叫んだラーファに、トゥーリンは目をまん丸にした。
「何怒ってるのよ」
「踊り子の衣装は、仕方ないと許可しましたよ。あれが通常というなら仕方ないですから。でもそれ以外の衣装……というか普段着も、露出が多すぎです!」
 言われたトゥーリンは自分の身体を見下ろした。腰から下はゆったりとしたズボンをはいているが、胸は踊り子の衣装と同じ胸元しかかくしておらず、確かに露出が多いと言われれば多いだろう。
 でも、はっきり言って今更である。
「踊り子ってのは魅せてなんぼでしょ〜? 舞台立ってない時だって営業中よ。野暮ったい格好なんてできないって」
「それでも、もう少し控えてください! あなたの格好に対して、私のところにいろんな方面から苦情がきてるんです」
「え〜……」
「ザッド=ルーラー雑技団の男性陣からの切なる訴えもあるんですよ! 目の毒だって」
 力一杯訴えてくるラーファに、困ったトゥーリンは頭を掻いた。
 うーんと唸っていたが、ふっと視界に入ったものに、ぽんっと手を打つ。
「わかった。わかったわ。今夜のお祭りの衣装は露出控えめな衣装を選ぶ。約束するわ」
 返ってきた答えに、ラーファが喜色満面の顔を上げる。
 それに、ただし、とトゥーリンは続けると、意地悪な笑顔を向けてやった。
「交換条件があるわ」
「交換条件ですか」
「あのね、世間ってのはそうそう要求は通らないようにできてるのよ。何かをして欲しければ対価を払う。ギブアンドテイク。わかるかしら?」
「はあ……」
「私はラーファの要求を呑んで露出の少ない服でお祭りに出るわ。その代わりラーファも私の選んだ衣装を着て、留守番じゃなく一緒にお祭りに出てちょうだい」
「……」
 何とも答えがたく、ラーファは沈黙した。
 要求に対して対価を求められることについては、異論はない。世の中そういうものだ。
 だが、それでもすんなりうなずけないのは、トゥーリンがあまりにも底意地悪そうな顔をしているからだ。
「一体何をたくらんでいるんですか?」
「別に? たんに一緒にお祭り行きましょうよって誘ってるだけだけど」
「……本当ですか?」
「本当よ。で、どうするの? 要求を呑むの呑まないの?」
 ラーファはまじまじとトゥーリンを見上げた。明らかに何かたくらんでいるのだが、そのたくらみの中身が見えない。
 仕方なくラーファは、元々の要求を通すことにした。
「わかりました。その代わり、露出は控えてくださいよ」
「了解! 契約成立! 言質取ったから約束、違えちゃ駄目よ」
 にんまりと笑って、トゥーリンは言った。


 その夜、衣装をもらいに行ったラーファは、「なんですかこれは!」と大声で叫んでしまった。
 けれど時すでに遅し、言質は取られて約束をしてしまったあとである。
 渋々その衣装を受け取ると、自分の天幕--彼は他の団員と共同だ--に戻り、着替えると、再びトゥーリンの元を訪れた。
 その時にはトゥーリンの方も着替えが終わっていて、黒いドレスに身を包んだ彼女が迎えてくれた。
 約束通り露出は少ない。いつもに比べたら大分。だが……
(それでも世の男性の目の毒のように見えるのは私だけなんだろうか……)
 思い、がっくりと肩を落とした。
「さあって、年に一度のお祭り。片っ端から回っていくわよ!」
「……やっぱり私いきたくないです」
「何言ってるの、ほら、行くわよ」
 ずるずるとラーファを引きずって、まずトゥーリンは、座長の天幕を訪れた。
 そして言う。
イメージ 1

 どんな衣装でも、東国に咲いた華の色香は色あせないのだ、というお話。 


舞姫恋綺譚
エピソード2:魔物


 不意に訪れた沈黙に、レーニャは少し居心地が悪そうにしていた。
 だが、トゥーリンはクッションの中に沈み込むと、そんなレーニャを視界から追い出して、思考の海に沈んだ。
(”魔物”は、やっかいね……)
 思い、トゥーリンは唇を舐めた。
 魔物とは生態も正体もよくわかっていない恐ろしいもの、と一般的には言われるがそれは間違いだ。
 それをいうならば、魔物とは定義が非常に曖昧だ、というのが正しい。
 長く生きた動物が化けたり、長く使われた物に魂が宿って、という経緯で生まれた魔物というものも確かに存在する。化け物とかそういった風に例えられるべきものは本来こちらの類の物だ。
 だが、実は、別の物も同じ定義に当てはめられてしまっている。
 それは、”精霊”だ。
 本来世界を支え、世界を構成するべき”精霊”も、”魔物”と言う定義にされてしまっているのだ。
 それは何故かというと、あまり知られていないが、実は”精霊”には二種類いる。
 光に属するものと、闇に属するものだ。
 どちらも”精霊”であることには変わりはなく、善も悪もない。
 しかし人々はどうしても、闇に属するものを悪と考えてしまう。それ故に、闇に属するものを貶めようとする。
 ”魔物”と呼ばれている方はこの、闇に属する方の精霊だ。
 何故そうなってしまったかと言えばそれは神話の時代まで遡る。
 遠い神話の時代、世界を作ったのは光の女神と闇の神の夫婦神だった。どちらの神も慈悲深い神ではあったが、人々があまりに戦をやめようとせず、世界を荒廃させていくものだから、闇の神が怒って人を滅ぼそうとしたことがあるのだ。
 その時に闇の神の妻でありながら剣を取って戦い人々を守ったのは光の女神だった。例えどれほどできが悪くても、自分の子供に当たる人の子を見捨てることができなかったのだ。
 万を超える時を戦い、とうとう光の女神は闇の神を封じた。以後、女神は一人世界を支えているのだという。
 こういった神話があるが故に、人々はどうしても自分たちを庇護してくれた光を善、滅ぼそうとした闇を悪、と捉えてしまう。
 だが、光も闇も、相反する二神によって産み出されたこの世界では必要不可欠なもの。どちらかを退けることも、取り除くことも本当はできない。
 だからレーニャが”魔物”と言ったものがもし、狐狸妖怪の類ではなく、闇の属性を持つ”精霊”だったとしたら、これはとてもやっかいな話になる。精霊はどんなに小さな存在だとしても世界を支える柱の一つ。それを無為に滅ぼすことは禁忌。世界の律を乱すことになる。
(でも、どう考えても今回の事件、精霊の仕業としか思えないのよね……)
 心の中で呟いて、トゥーリンは溜息をついた。
 歌は精霊が特に好むものだ。そして狐狸妖怪の類には決して身に付かない能力でもある。
 例え楽器に魂が宿っても歌うことはできないのだから。
「……しくったかしらね〜……容易に引き受けたのは……」
 開いた扇の下で呟き、その時ようやく、トゥーリンはレーニャに視線を当てた。それに、藍色の瞳がすこし戸惑ったように揺れる。 
 ------不意に訪れた娘。
 歌と同じく、この娘に”兆し”を見たのも確かなのだ。
 トゥーリンが求めているもの、探しているものに辿り着くための手がかり。そのための兆し。
 恐らくこの娘と進んだ先にそれがある。
「うーん……」
 呻いて、仰け反ったトゥーリンを、それまで御者席で沈黙を守っていたラーファがふっと振り返った。
「考えてわからないことはいっそ流れに任せる、んじゃなかったんですか?」
「まあ、ねえ」
 答えながら、身体を起こす。
「これまで貴女の感じた兆しとやらに従って旅してきたんです。今も悩むのは一端置いておいて、正直に兆しを追ってみてはいかがですか?」
 その言葉には答えずにトゥーリンは扇をぱちり、と音を立てて閉じた。それから鋭い視線を窓の外に投げる。
 トゥーリンの雰囲気が変わったことを機敏に察したレーニャが身体を乗り出そうとする。トゥーリンはそれを片手で制すると、馬車の中だというのにそれが嘘のような身軽さで立ち上がる。
「新しい兆しが現れた、ってことかしら?」
 囁くようなトゥーリンの問いに、ラーファはええ、と短く答える。
 その声には少し、緊張が滲んでいた。
「レーニャとを守って……それと、ザッドも」
 そう言い残すと、トゥーリンは走っている馬車の扉を開けた。
「ザッド!」
 呼ぶ声に、心得たというようにザッドが馬を寄せる。トゥーリンは躊躇もせず跳んだ。
「馬車の前に回り込んで!」
 奇跡のような身のこなしで自分の後ろに飛び乗ったトゥーリンの指示に従い、ザッドが馬首を向ける。減速する馬車を追い越して、二人は前に出た。
 街道は長く続く一本道だった。その向かうすぐ先に暗雲が渦巻いている。不穏な空気が漂っていた。
「……なんだ、嫌な臭いがするな」
「腐臭ね」
 ザッドの言葉にトゥーリンが答える。
「ラーテン=ウルフ……生きながら全身が腐っている狼よ」
「うえ……マジかよ」
「戦うって言ったんだから、役に立ってもらうわよ!」
 言って、トゥーリンは馬から飛び降りた。
 ザッドも続いて馬から降りる。
 二人の目の前で、石で舗装された街道を浸食するように、石の継ぎ目から黒くどろどろしたものが沸き上がってきていた。最初泥のように形を持たなかったそれらは、次第にトゥーリンが言うように狼のような形状を取る。
 といっても、かろうじてわかる程度だ。幼児が犬を作れと言われて作った物と、おそらくどっこいどっこいのレベルだろう。
 だが、そんな形をしているが実はかなり----強い。
「気合い入れてね、ザッド」
 告げて、トゥーリンは開いた扇を構えた。



第二章 エピソード3へ続く
 エピソード1:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/20440367.html
前座:
 舞姫恋綺譚説明:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/18843113.html
第一章:
 エピソード1:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19414998.html
 エピソード2:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19415402.html
 エピソード3:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19416162.html
 エピソード4:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19416478.html
 エピソード5:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19417006.html

舞姫恋綺譚
第二章:旅路
エピソード1:同行者たち


 奇妙な縁から魔物にさらわれた青年を助ける旅に出ることになったトゥーリンとラーファが街を出たのはあの祭りの夜から三日も後のことだった。
 あの夜演じた舞台は街の政治家から依頼されたもので、ザッド=ルーラー雑技団の本職ではない。
 彼らの本職はあくまで技を磨いた団員たちの芸を披露することだ。
その興業予定が終わらないのに雑技団一の舞手であり歌い手のトゥーリンが抜けるわけにもいかない。千秋楽までは待たなければならなかったのだ。
 とは言っても幸い、祭も興行も残り二日だった。
 なので二人は最後の舞台がはねるのを待って出発したのだ。
 その間、もちろんトゥーリンもラーファも、さらわれたレーニャの婚約者の貞操…もとい身の安全は気になった。
 しかしその婚約者のレーニャ本人が『あれ』である。むしろ何かあった方が彼女は喜々として婚約者を迎えるだろう。
 本人の心情を思えばそれはそれで哀れだが、すぐには動けないことにはかわりないので、二人はそう考え、良しとすることにした。
 願わくばシーラムとかいう心優しい(らしい)青年の心に深い傷が残らないよう祈るのみである。

 街を出た二人は馬車にて移動していた。
 相変わらずあまりお行儀の良くないトゥーリンは、赤い天鵞絨の張られた二人がけの椅子にクッションを沢山並べ、寝そべっていた。揺れる馬車の中で不安定だろうに、そんな様子はおくびも見せず至ってリラックスした風にクッションに埋もれている。
 ラーファは御者席にいた。何が起こるか解らない旅だ。人を雇ったり馬車を借りたりするのは何かの被害が出た時に迷惑がかかる。それもあって二人は依頼人に出資して貰い馬車を一つ買うと、二人だけで旅に出た。
 -------はずだった。
 のに、何故かその馬車にはもう一人、乗客が居る。
 トゥーリンは扇をもてあそびながら、呆れたように対面に座る今一人の乗客に告げた。
「あなたがわざわざついてくる必要なかったのよ。私たちで十分なんだしぃ」
 そう呟いたトゥーリンは昨日とは打って変わって地味な姿をしていた。
 纏うのは胸を覆う布とゆったりとしたズボンだけで、白い腹部をさらけ出す踊り子特有の衣装に変わりはないが、色合いや加飾が地味なのだ。
 胸に巻いた布地は銀の布で縁取りはしているものの黒に近い藍色だし、ズボンに至っては麻を薄い水色に染めただけだ。加飾すらない。
 手にしている扇もふわふわと鳥の羽がついた演舞用の扇と違い、鈍い銀色の鉄扇で、扇の留め金には青い石が埋め込まれているがそれ以外は簡素なものだった。
 トゥーリンはその扇をパチリと閉じると、きちんとした姿勢で座る女性--レーニャにその先を向けた。
「それとも、私たちは信用できない?」
 別に険を含んだ言葉ではなかったが、無理矢理付いてきた身であるレーニャはびくりと肩を震わせると大きく首を振った。
「もちろん、信用しております。ですがそれとこれとは全く別の問題なのです」
「……てのは、どんな?」
「確かにわたくし一人ではシーラム様を取り戻すことはできません。ですが、シーラム様の婚約者はわたくしなのです」
「婚約者を取り戻すのは自分の手でってことか……でも、あなたになにができるの?」
 少し意地悪なトゥーリンの問いに、レーニャはけれど怯むことなく顔を上げると、藍色の瞳で真っ直ぐにトゥーリンを見た。
「実は家の宝物庫からいくつか拝借してきたものがあるんです」
 そう言うと、ずっと大事そうに抱えていた布袋の口を開き、トゥーリンに見せてくる。
 それを見て、トゥーリンは最初眉根をひそめ、それから感心したように溜息を吐いた。
「どうしたのこれ? 魔石じゃない! しかもかなり強力な」
 触っていい? と断るとトゥーリンは袋の中のものを慎重に手に取った。
 馬車にしつらえられた小窓から差し込む光にそれを晒すと、手にした青い魔石はきらりと美しい輝きを放ってみせた。手にしているだけで解るほどのかなり上質な魔力を蓄えた魔石である。
「実はわたくしの家系があの街の長を続けているのには理由があるんです」 
 言いながら、レーニャは袋をまさぐり、その奥から銀色の棒のようなものを取り出した。 
 植物のように柔らかく有機的な形をしたそれは、天辺に白くまろやかな色の石を抱き、蔦が伸びたような形の裾の方には絡め取られた透明な水晶が填め込まれている。
「ムーンストーンと水晶の杖ね。召喚者の杖だわ」
「はい。父方のファーナル族というのは、かつて強大な力を持つ聖獣などを召喚し街を守護していた召喚師だったそうです。その役目が長じ、代々街の長を務めるようになったそうなのですが、これはその始祖様が使われていたという杖です」
「……でも、始祖が仕えたからと言っても、血が混ざっていくうちにその能力が薄れて、ほとんど使えない、なんてことはよくあることだわ。あなたにこれが使えるの?」
「一応、召喚の作法と護身術くらいの魔術などは一通り教え込まれています。ファーナル族に連なるものは男女関わらず幼い頃から鍛錬させられますから。ですが実際に召喚に成功したことはまだありません」
「精霊を見たことは?」
「ありません」
 少し逡巡しながらの回答に、トゥーリンは長い溜息を吐いた。扇を少し開き口元に当てる。
「期待できるとしたら、魔法の方ってことか」
「……はい。私の方は」
 意味深な回答に、トゥーリンは身体を起こすと俯きがちなレーニャの顔を覗き込んだ。
 それから不意に悟ったように目を見開く。
「……シーラムとやらは、扱うことができたのね?」
 その問いに、レーニャは小さく頷くだけで答える。トゥーリンは仰け反るようにしてクッションの山に埋まった。
「それは、やっかいね〜……」
「ですが、この杖を渡すことができれば、シーラム様はご自分で御身を守ることができます。私は魔法でその援護をすれば」
「そういう問題じゃないのよ」
 言い募るレーニャの言葉を遮って、トゥーリンは言った。
 それからがばりっと起きあがると、馬車の小窓についた引き戸式の格子を開ける。
「聞いてたでしょ? これは明らかに魔術の領域だわ。あんたの苦手だって言ってた領域なのよ、ザッド」
 声をかけた先には、黒毛の馬に乗った髭面の男が居る。
 もう一人の予想外の同行者、ザッド=ルーラー雑技団の団長のザッド=ルーラーその人だった。
 そもそも旅立つ二人の元にレーニャを連れてきたのも、そして無理矢理馬車に押し込んできたのもこのザッドである。
「危険だから帰った方がいいわ。それに次の興行場所への移動があるんだから、団長のあんたがいなくてどうするのよ」
「移動はぬかりないさ。いつもやっていることだし、そりゃまあ多少は団員の締め付けは緩むだろうがあいつらだってそれで長年飯食ってんだ。興業日程を送らせるようなぽかはしないさ。副団長にきつく言っておいたしな」
 それよりも、だ。
 と言いながらザッドは器用に馬を馬車に寄せると、御者席を指さす。
「あのラーファにお前をちゃんと守れるとは到底思えねえよ。それでましてや危険な旅になるってんならなおさらだ。雑技団一の舞姫は同じく一番の剣の使い手であるこのザッド様が守ってやらなきゃな」
「ああ見えて、ラーファは結構強いのよ。だから大丈夫だってば」
「ああ見えては余計です」
 小さな声で御者席のラーファがつっこむが二人は聞いていない。
「あんななまっちょろい姿したガキが強いって言われても信じられねえな」
「なまっちょろくてって……悪かったですね」
「そりゃ見た目はなまっちょろくて不健康そうで簡単に折れちゃいそうでそのくせ態度でかいしむかつくけどさ」
「さりげなく言いたい放題言わないでください、トゥーリン」
「あんたを巻き込みたくないのよ」
「……あんた方、わざと私のことを無視してるでしょう」
 そんなラーファの抵抗も虚しく会話は続く。諦めたのかラーファはそのまま視線を元に戻した。どうせ無視されるなら会話そのものを聞かないことにしたようだ。
「いろいろ世話になってる分、巻き込んで何か迷惑かけたりとかしたくないの。わかって」
「お前なあ、それは逆効果だぞ?」
 トゥーリンの台詞に、ザッドは苦く笑った。
「危険な場所に行く女が、『巻き込みたくないの』なんて言ったら、男は『守ってやらなきゃ』って気になっちまうだろうが。お前から見たら勝手かもしれないが、守らせて貰うぜ」
 全く引く気のないザッドを、トゥーリンはしばらく睨んでいたが、根負けしたようだった。知らないうちに掴んでいた窓枠から手を離すと、勝手にしなさい、と言う捨て台詞を吐いて、再び格子を締めた。
 微かに遠くなった外の音に混じって、「勝手にさせて貰うぜ」なんて声が聞こえてくる。
 再びクッションに身体を埋めたトゥーリンは額に手を当てる代わりに、扇の先をこめかみに当てて溜息を吐いた。
「男ってのは、これだから……」
「でも、うらやましいですわ」
 そのやりとりを見守っていたレーニャが不意に口を開く。
 血色のいい桃色の唇がほころぶような笑みを作っていた。
「ザッド様は本当にトゥーリン様のことが心配なんですのね。きっとザッド様はトゥーリン様のことを……」
「言わないで!」
 レーニャの言葉を遮ってトゥーリンは叫んだ。
「お願い。それ以上言わないで」
「トゥーリン様?」
「困るのよ」
 返ってきた回答に、レーニャはますます解らないと言ったように首を傾げる。
 けれどその疑問にも答えずにトゥーリンは繰り返した。
「困るのよ」
 その言葉を機に訪れた沈黙の中で、車輪の建てる規則正しい音がやけに大きく響いていた。



第二章 エピソード2へ続く
前座:
 舞姫恋綺譚説明:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/18843113.html
第一章:
 エピソード1:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19414998.html
 エピソード2:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19415402.html
 エピソード3:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19416162.html
 エピソード4:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19416478.html
 エピソード5:http://blogs.yahoo.co.jp/akira_saetsuki/19417006.html

こんばんは。今日何回目かのUpです。
きょうは珍しいですなあ。

舞姫恋綺譚を全部一掃しました。
てのはPCで開いてみたら恐ろしい文字の小ささで
なんてかこれが会議資料なら
「わしらに読ませる気なんか〜〜〜〜〜」
とシニアにおこられそうな
(シニアっておじいちゃんって意味じゃなくて『シニアマネージメント(経営者)』の略ですよ)
フォントサイズだったので、大きくしついでに
色とかつけてみました。

背景かわってるのは
ここ最近の友人とのもめなくていいごたごたにイライラして
気分一掃のためです。
二個年上の友人をマジ説教してきました。はい。

てなわけでいったん一章終わり。
次二章……と行くのってどうなんだろ?
全然気楽な短編じゃないっすよね。
うーむ。。。

もう少し気楽なのがかけそうだったら書いてみます〜

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