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小さな核戦争でも大規模な気候変動
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 2月25日(金)15時10分配信
1970年代初頭、フランス領ポリネシアのムルロア環礁で行われた核実験のキノコ雲。
(Photograph from AP)
アメリカの政府機関が開発した最新のコンピューターモデルによると、地域的な核戦争であっても、地球の寒冷化と降水量の減少が先例のないレベルで数年間は続くことが判明した。その後には、飢饉(ききん)や病気の流行が広い範囲に及ぶと推測されている。
かつての冷戦時代には、超大国間の核の応酬が「核の冬」を招くのではないかと懸念され、アメリカと旧ソ連の対立は長年にわたり人々を不安にさせていた。
当時のシナリオでは、数百単位の核爆発が巨大な炎を巻き起こし、その煙やちり、灰が太陽を数週間覆い隠す。地上には致死的なレベルの放射線が降り注ぐという状況が想定され、最終的に人類のほとんどは飢餓や病気で落命するという悲劇的な結末が待っていた。
今日、アメリカが唯一の超大国としての地位を維持する中、核の冬は“現実味のない悪夢”として片づけられるようになった。しかし、核戦争は現在でも極めて現実的な脅威として存在している。例えば、インドやパキスタンといった開発途上国の核大国間では常に緊張が続いている。
地域限定の核戦争が気候に及ぼす影響を調査するため、NASAをはじめアメリカの各機関から科学者が集まり、コンピューターモデルを開発した。TNT換算で1万5000トンの“ヒロシマ”レベルの核兵器を100回使用する戦争が想定されている。この規模は、世界全体の核兵器保有量からすればわずか0.03%にすぎない。
気候モデルの予測では、爆発で生じる大火炎により、およそ500万トンの黒色炭素(ブラックカーボン)が巻き上がり、地球大気の最下層の対流圏上部にまで達する。
その後、炭素は太陽熱を吸収し、まもなく熱気球のように上層へと移動を始める。“すす”が高空に達すると、空から消えるまでにはるかに長い時間がかかるようになる。
研究チームの一員でアメリカのメリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターに所属する物理学者ルーク・オマン氏は、「上層の炭素の雲が引き起こす地球寒冷化は、超大国同士の戦争で生じる核の冬ほど破局的な事態とはならないだろう。しかしその影響は、計り知れないレベルの気候変動につながるはずだ」と語る。
地球は現在、長期的な温暖化傾向にある。しかし限定核戦争の後の2〜3年は、平均気温が摂氏1.25度下がると予測されている。
最も影響を受ける地域は熱帯地方、ヨーロッパ、アジア、アラスカで、気温が3〜4度下がるという。北極と南極の一部では、風向や海洋循環パターンの変化により、わずかに温度が上昇する。10年後でも、地球の平均気温は依然として摂氏0.5度低い状態が続く。
しばらくの間、地球は気温が低く不毛な惑星と化す。「モデルが示す結果によると、農業が深刻なダメージを受け、特に晩春や初秋の霜の影響を受けやすい地域では壊滅的な状態となる」とオマン氏は話す。
「1815年、インドネシアのタンボラ山の大噴火により、世界規模で不作と飢饉が発生した。限定核戦争が起きると、似た状況が広い範囲で数年間続くことになる」。大噴火の年は「夏のない年」として記憶され、飢饉と不安が世界中を覆った。
その上、さまざまな気候変動に伴って熱帯大気の循環パターンも変化し、1〜4年の間、地球の降水量が10%減少すると予測されている。7年後でも完全な回復は期待できず、5%少ない状態が続くという。
また、研究チームの一員でアメリカのコロラド州にある国立大気研究センター(NCAR)のマイケル・ミルズ氏は、「生命を保護するオゾン層も大幅に減少する。大量の紫外線放射が地球表面に到達し、自然環境と人類に大きな被害をもたらすだろう」と述べる。
前述のオマン氏は次のように結んだ。「地域レベルの限定核戦争でもその影響は地球レベルに及ぶ。これが今回の研究の結論だ」。
今回の研究成果は、2月18日にワシントンD.C.で開催されたアメリカ科学振興協会(AAAS)の2011年度年次会合で発表された。
Charles Q. Choi for National Geographic News
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