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アメリカは貿易赤字を抱える。富が流出している。つまり他国に収奪されている――というのがトランプ大統領の論法だ。
収奪を食い止めれば国内生産が上向き、労働者の収入が増える。仕事量の増加は賃金の上昇をともなうから、労働者は今より豊かな生活が送れるようになる――という甘い見通しさえ振りまく。
他国に収奪されているという考え方は恐ろしい。高関税を脅しに他国と交渉することを正当化する。高圧的な態度は、いずれ、他国から収奪しろ!に転じる。
経済学者たちよ、何とかしろよ。単純すぎる考え方だと説明してやれよ。トランプ大統領にしてみれば支持獲得のための方便でしかないのかもしれないが、庶民は本気にするぞ。経済学者たちよ、役に立たない経済理論なんかを発表している場合ではない。庶民を教育する方が数段、世の中のためになる。
アメリカでは単純労働でも時給は15ドル以上。労働者たちは生活が苦しいと嘆くが、彼らの生活は、さらに安い時給で働く人たちによって支えられている。
使っている耐久消費財はメキシコ製で、作った人の時給は10ドル。日用品は中国製で、作った人の時給は5ドル。貪り食っている加工食品はマレーシア製で、時給3ドル。履いてるスニーカーはベトナム製で、時給2ドル。着ているシャツはバングラ製で、時給1ドル……みたいな感じなんですよ。
自分たちが作るよりも安価だから輸入するわけで、これは、他国の労働者を安くこき使っているに等しい。すなわち収奪みたいなものでしょう。左派系経済学者なら“搾取”と呼ぶ。
自国内にいる移民に対しても同じことをしている。移民は職業選択の自由度が低い。それをいいことに、一般のアメリカ人がやりたがらない仕事をやらせている。しかも安い賃金で…。移民が仕事を奪っているというけれど、収奪しているのはどちらでしょう。
傍から見れば、次の図式が成り立ちます。<楽な仕事に就き高賃金を得ている労働者A>は、<過酷な仕事なのに低賃金の労働者B>から収奪している。Bは正当な賃金を得ていない。事実上、Aに奪われている。
でもそんな説明をしても虚しいか〜。Englishしか解さないAmerican Laborがこのブログ記事を読むわけがない…という虚しさではなく、たとえ翻訳ソフトで読んだとしても「それがどうした!」と言われるだけだからです。
豊かな生活とは、生きるための仕事を自分でやらずに他人にやらせること、と捉えることが可能です。食料や生活必需品の生産に自分は従事せず、他人の生産物に頼る。それが安価であればあるほど豊かさは増す。所得の多くを娯楽に費やせる。自由な時間が増える。
歴史を振り返れば、人類は長らく、支配者だけが豊かな生活を送ってきた。その豊かさは庶民に金品を拠出させることによって成り立っていた。つまり、収奪することで豊かさを実現していた。今日でも民主主義が機能していない国や地域では、支配層だけが豊かな生活を送っている。
国家レベルの豊かさ実現も、似たようなものだった。西欧の先進国はかつて、植民地から収奪することによって豊かな国を築き上げた。今は収奪と言えるほどの横暴さは影をひそめたが、先進国と後進国との間には似た構図が残る。後進国の低賃金労働が先進国の豊かさに貢献している。
アメリカは世界一の豊かさを誇る。「その国民であるオレたちが、豊かな生活を送れないなんておかしいじゃないか。収奪される立場ではなく、収奪する立場こそアメリカにはふさわしい」ぐらいの気持ちがAmerican Laborにはありそうだ。他国に収奪されているというトランプの叫びは「オレたちの叫びでもある!」
しかしアメリカは世界一を保てるのか。トランプ政治は国力増進につながるのか。非常に疑わしい。
アメリカは科学技術の各分野で長らく先端を走ってきた。コンピュータ、インターネット、ITなど新しい産業を切り開いてきた。研究開発に巨額を投じることができ、ベンチャー企業の輩出を促す自由な風土があったからだ。世界中の知性がアメリカを目指し、富の増加に貢献した。
一方で、旧来の産業は他国に追いつかれる歴史であった。技術移転は思った以上に速かった。その結果、輸入が増え、富の移転が進んだ。おかげで他国も研究開発に多額を投じることができるようになる。
GDPトップの座は中国に脅かされつつあるが、科学技術におけるトップの地位も、中国に追い抜かれるとの予測がある。研究開発に投じられる予算がアメリカを凌駕する勢いだからだ。
<米調査会社CBインサイツによると、中国のベンチャーによるAI関連の資金調達額は17年、米国を抜いて世界一になった>。
クリーン・省エネ技術についても、ジョン・ホルドレン氏(オバマ政権時の大統領補佐官)は危機感を示す。トランプ大統領はパリ協定から離脱するなど環境問題に冷淡だ。「米国が投資を怠れば、中国や日本、欧州に先行を許す。彼らは40兆ドルのパイを山分けし、米国は技術を他国から買うことになる」(0508)。
アメリカが世界一を保つ分野は軍事力だけという時代が、いずれ訪れるかもしれない。そうなれば豊かさを維持する手段は限られる。効率よく収奪するには暴力で相手を屈服させることが一番となる。
この考えに大衆も賛同するだろう。世界一の大国の国民であることに浮かれ、慢心し、努力できなくなった大衆は、収奪によってしか生きる道がなくなる。大衆主導による戦争という時代!
感情の大きなうねりでしかない大衆の意向。その意向を最大限に尊重する社会。民主主義から大衆至上主義へ!
粗野で野暮な人間だからこそ大衆のリーダーになれる!
王様の時代は王様が失敗し、軍人の時代は軍人が失敗し、エリートの時代はエリートが失敗したように、大衆の時代は大衆が失敗する。
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