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先日、日銀が物価見通しを引き下げたが、ほとんど話題にならない。すでに2%達成が難しいことを認めており、その上での微調整でしかないからだ。日銀が10月31日に示した数値は、2018年度が0.9%(前回1.1%)、19年度は1.4%(同1.5%)、20年度が1.5%(同1.6%)。
日銀は2013年以降、異次元緩和と称する金融政策を掲げて2%の物価上昇を目指したが、思い通りにはいかず、1%前後が続く。日銀の物価見通しは、もうだれも信じない希望的数値になっている。
ところで1%の物価上昇ってなんなんでしょうね。庶民の一人としては実感が湧きません。個人の消費生活において1%なんて誤差の範囲内でしかない。黒田氏が日銀総裁になって以来、判で押したように毎年1%前後なのもよく分からない。学者なら、統計数値は母数が多くなるほど誤差が小さくなるとでも言うでしょうがね。
日本の場合、内需要因で物価が上昇することはもうないのではないか。物価は需要が高まってこそ上昇する。日本は少子高齢化が進む。人口が減れば、消費財の需要は減る。高齢化が進めば世帯平均の消費額は減る。少子化によって、子育て費用も減っていく。
今の高齢者は元気だから、昔と比べれば観光や娯楽への支出は増えているのだろう。健康食品などシニア向け商品も盛んに宣伝されている。だが、収入が限られる高齢者に需要拡大の役割は担えない。
高齢化によって需要が高まる消費財はある。医薬品や介護機器などの需要が拡大する。ただ、医療や介護費用の大半は保険制度で賄われている。つまり、現役世代の可処分所得を減らすことで成り立つ需要である。
しかも高齢者の多くは年金収入に頼る。つまり、収入の大半も現役世代からの贈り物ということになる。一方、高齢者に医療や介護サービスを提供するのは現役世代。高齢者が購入する消費財を製造・販売するのも現役世代。ということは…。高齢者と現役世代との間で資金が循環している構図が目に浮かぶ。
現実の高齢者経済はこれほど単純ではないが、高齢者が国内需要に貢献する度合いはやはり低い。
2%の物価上昇を目指すのはなぜか。それは、経済が順調に発展している指標のようなものだからだ。経済学者たちが導き出した結論のようで、先進国の多くが2%に固執する。2%を上回れば景気が過熱、下回れば景気が低迷と判断される。
でも本当だろうか。過去の経済統計から導き出された単なる相関関係でしかないのでは? 本来の順序は逆で、景気を上向かせる要因が先にあり、それにともなって物価が上昇していく。そう見るのが正しいのでは?
先進国の経済成長率も近年は1〜2%で推移する。経済成長率が上向く要因は物価押し上げ要因よりも多岐にわたるが、両者が連動することからも分かるように、需要拡大が経済成長の強力な要因となる。
日本の経済成長率は、2016年が1.0%、2017年が1.7%。IMFの7月時点での見通しでは、2018年は1.1%、2019年は0.9%。物価上昇率と似た数値が並ぶ。これに対し日本政府は、生産性を飛躍的に向上させればさらに高い経済成長率が見込めるとする。
確かに、生産性が上がれば人口が減っても経済は成長する。ただ、生産性の上昇は供給力の増加を意味する。増加した供給を受け止める需要がなければ無駄になる。経済成長に結びつかない。輸出を増やすか、外国人観光客に消費してもらうしかない。
外国人観光客は増加している。いや急増している。観光庁の訪日外国人消費動向調査によれば、訪日外国人旅行者数は2011年に622万人だったのが、13年に1千万人を突破。15年は1,974万人、17年は2,869万人。旅行消費額は2011年の8,135億円から17年には4兆4,162億円と5倍以上になった。
日本の国内総生産は500兆円規模だから、4兆円と言えば0.8%に相当する。一年で1兆円増加すれば、経済成長率を0.2%押し上げる。1%程度しか成長しない日本経済への貢献度は大きい。
ただ、1%程度の消費増なら、日本の富裕層だって貢献できるだろう。ここ数年、株価は上がり、大企業はベアを積み上げた。大半の日本人は恩恵を受けていないが、収入が大幅に増えた富裕層はたくさんいる。もし上位10%の日本人が、消費額を10%増やせば、国民全体の消費総額は1%増加する。簡単だ。
「ふるさと納税」は節税対策に利用されているだけとの非難があるが、この制度なんかも、高額所得者に節税という喜びを与えて、気前よく消費してもらうことが目的なのかもしれない。貧しい人の収入を増やすよりも、消費慣れした富裕層の収入を増やす方が効果が高いとでも思っているのだろう。
まぁ仕方のないことだ。前にも書いたが、一般的な人は衣食住が足りれば消費意欲は落ちる。先進国で衣食住に窮する人はとても少ない。否応なく消費が増える子育てをする人も減っている。となれば、内需拡大は難しい。
人類の欲望はほぼ満たされたという見方もできる。飢えは無くなり、死の危険を遠ざけることができた。さらなる豊さ、老いや死を遠ざける努力もなされているが、総体としては、人類の意欲は減少傾向だろう。
高齢化による意欲の減退も大きい。好奇心が衰える高齢者が増え、新しいモノを欲しがる若者が減っている。しかも若者の収入は少ない。次々に新製品が出る時代になったが、手に入れたければ他の消費を減らすしかない。
これらは先進国全般の傾向だろう。だから物価上昇率も経済成長率も低迷する。人口が増加している国だけが2%以上の成長率を達成できるだけのこと。人口が増えない先進国は、デフレに陥らないよう無理やり消費を増やし、経済規模が縮小しないよう奇策を弄している状態なのだ。
この状態を全面的に悪いとは言わない。だが“無理やり”が続けば、必ず歪(ひず)みが蓄積される。いずれ揺れ戻しが来る。大きな反発力が我々を襲う。
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