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Q.オレオレ詐欺や振り込め詐欺などの被害者が、高齢者ばかりなのはどうして?
A.旧時代の感性のままで生きているため、新しい犯罪傾向や手口に気づけない。つまり時代に乗り遅れているからでしょう――と回答すれば「年下の方が優秀」論者は納得するのだろうか。
事実、高齢者ばかりのようだ。警察庁の『平成30年における特殊詐欺認知・検挙状況等について』によれば、
・高齢者(65歳以上)の被害認知件数が全体に占める割合は78.0%
・手口別で高齢者率が高いのは、オレオレ詐欺(96.9%)、還付金等詐欺(84.6%)の2手口
特殊詐欺に騙されるのは主として高齢者である。高齢者たちが詐欺を見破り被害に遭わなければ、特殊詐欺の認知件数は激減することになる。
でも逆の見方もできる。特殊詐欺は高齢者をターゲットにする犯罪がほとんどであるから、被害者も自動的に高齢者が主となる、というわけだ。
最も認知件数の多いオレオレ詐欺が典型だ。オレオレ詐欺を仕掛けるとすれば、どうしたって高齢者になる。自宅に電話して始まる犯罪だから、在宅率が高い高齢者が狙い目となる。仕掛け人が20代であっても、孫が親に言えない金の工面を祖父母に頼る―という構図が成立する。
還付金詐欺も高齢者をターゲットにする方が効率的だ。医療費や保険料に関する還付金があるとの騙し文句には、病気がちな高齢者の方が反応しやすい。
一方、オレオレ詐欺に次いで認知件数が多い架空請求詐欺では、被害者に世代の偏りはない。たとえば有料サイトの閲覧や登録を名目に架空請求する場合、ターゲットを高齢者に絞る意味はない。
なお、認知件数全体に占めるオレオレ詐欺の割合は55.4%、架空請求詐欺は29.4%、還付金詐欺は11.6%。
だが、Q.に対する第二のアンサー「特殊詐欺のほとんどが高齢者をターゲットにしたものだから」には、「年下の方が優秀」論を撥ね返すだけの力はない。オレオレ詐欺が社会問題になってから十年以上たつのに、一向に被害が減少する気配がない。高齢者は依然、騙されやすいままと言えそうだ。
高齢者は多額の金融資産を持っているからターゲットであり続けるという理由も提示できる。振り込み詐欺と言われていた頃と比べて、手口が巧妙になった。詐欺師の口上にも変化がある。新たなやり口で攻めてくるので、対策が追い付かない…など、被害が減少しない理由を並べることはできる。しかし、「オレオレ」から始まる基本手口に変わりはなく、「高齢者は騙されやすいまま」への反論としては弱い。
ディベートしたなら、「騙されやすいままだから、高齢者はターゲットであり続ける」と返されそうだ。そのようにも思えてくる。やはり、高齢者は下の世代より騙されやすいのか。高齢まで生き延びたのに、「適者生存」の証明にならないのか!
時代が変われば適者も変わるということか。進化論と比べればだいぶ短いスパンだが、移り変わりの激しい現代社会では、適者から脱落する世代が出てきてしまうわけか。(もちろん、ほとんどの高齢者は適者として踏ん張っている。昨年のオレオレ詐欺の認知件数は9,134件。高齢者の数は約3,500万人である)
では、高齢者たちはどんな時代を生き延びてきたのか。昔はどのような人間が適者だったのか。
たとえば80歳の人は、1938年か39年の生まれである。70歳の人は48年か49年の生まれである。彼らの幼少時は食糧難であった。食料以外の物資も不足していた。衛生状態も悪かった。医療水準も低かった。未熟児の運命は早々に定まり、虚弱体質の子が生きながらえる確率は低かった。
感染症や食中毒が集団発生してもニュースにもならない―そんな子供時代を過ごし、生き延びてきたのが高齢者たちである。免疫機能が先天的に優れ、胃腸も丈夫であることが適者としての条件だった。
その後、経済成長が始まり生活環境は改善に向かうが、青年期に就いた仕事場の労働環境は過酷だった。塩を舐めながらの炭鉱仕事みたいなのはさすがに減ったが、真夏に冷房はなく、冬場の防寒対策も貧弱。重機は足りず、身体の酷使は当たり前。危険な作業も人手が頼り。殉職者の数は今日の比ではなかった。
増えつつあったホワイトカラーの仕事ぶりも似たようなもの。労働時間管理が甘い上に仕事量が急増していたから、過労死に陥る危険が高かった。3日ぐらいの徹夜は平気だったと回顧する猛者が珍しくない。
つまり、現在の高齢者たちは、壮年期ぐらいまで、知性よりも身体機能の優秀さが適者とされる時代を過ごしてきた。知識を吸収する能力は必要だったが、指揮者は少数でよく、馬力で勝負する人材の方が需要は多かった。
犯罪者の傾向としても知能犯は少なかった。3億円事件のように、金融機関の職員でさえ知能犯に詐取される時代だった。庶民もスリや強盗への備えはあっても、詐欺にあう恐れを抱く人はあまりいなかった。もっとも金融犯罪に巻き込まれるほどの資産を持つ人が少なかったという事情もあろうが…
当時の知的エリートといえば大卒者だったが、彼らにしても進学率十数%に見合う知性を持つとは限らない。地方では、まれに見る秀才が現れれば親類縁者総出で進学させる風潮はあったが、進学者の多くは家柄の良い子息で占められていた。つまり進学者そのものが少なかった。団塊の世代あたりの大卒者には、高齢になっても低俗で、商業主義の渦に溺れたままの人が多い。
昔は頑強な身体さえあれば生き延びることができたというほど単純ではない。しかし持つべき知性の種類は時代とともに変化してきたと認めないわけにはいかない。信用できる人間かどうかを判定する基準も昔とは異なっているに違いない。でもね〜、現在、高齢者が支えている職業も多いようで…。国会では統計調査が問題となっているが、自治体の統計調査員は61歳以上が66.4%(2017年度)だそうだ。
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