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しつこいものである。高度プロフェッショナル制度のことである。十年ほど前に「残業代ゼロ法案」と非難を浴びて実現しなかった制度が名を変えて再び登場した。
前回は「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼んでいました。内容は全く同じで、報酬は成果にリンクするとの名目で、労働時間規制の適用から外す雇用者を新たに制度化する。前回は法案提出に至らなかったが、今回の法案は国会上程目前にまでこぎつけた。
さらに今回は「働き方改革」と称する関連法案の一つに紛れ込ます。残業時間の上限設定などの法案と抱き合わせ、単独で否決されることを回避する作戦だ。なんともいやらしい作戦だが、一括上程という手法は、安保関連法のときにも使った。国会論戦を短縮できる利点がある。政府は味を占めたようだ。
野党は「スーパー裁量労働制」などと非難する。経営側に使い勝手の良い制度という意味では、裁量労働制を上回るとの含意だ。実際、裁量労働制は経営側に都合よく利用されている。
昨年12月に次ようなニュースがあった。
<裁量労働制を社員に違法に適用し、残業代の一部を支払わなかったとして、不動産大手の野村不動産の本社(東京)や関西支社など全国4拠点に対し、各地の労働基準監督署が是正勧告>
経営側が求めて実現した労働規制を関する制度は、常に悪用されてきた。特に、残業代を払わずに済む雇用者を拡大したがる。裁量労働制以上に広く利用されているのが「管理・監督者」。経営者と一体となった最高幹部クラスのことなのに、数人の部下しかいない労働者に適用して残業代を払わない中小企業がたくさんある。
裁量労働制は、労働時間の把握が難しい業務を対象としている。高度プロフェッショナル制度はというと、労働時間と仕事の成果を関連付けることが難しい業務をイメージしている。具体的な職種は厚生労働省が省令で定めるとのこと。対象業務を増やす準備は整っている。
一応、年収1,075万円以上という要件が付加されているので、入社数年目の若造が「あなたも今年からプロだ!」とおだてられ、無理やり対象にされてしまう危険はなさそうだが、悪用する手はいろいろありそうだ。
私が経営者なら、まず、退職金制度をなくす。少しでも社員の年収を押し上げるためだ。毎年計上していた退職金相当分を社員の年収に回せば、会社負担は変わらない。
次に、ボーナスに完全成果主義を導入。「あなたが能力を十分に発揮したとき、ボーナス額は500万円になります」と告げ、固定給と合わせた予想年収を1,080万円に設定。これで高度プロフェッショナルの対象!
対象にして終わりではない。年度途中に「成果が上がっていない」とその社員を責め、ボーナスを減額。あるいは成果が上がるまで没収とし、しばらく払わない。年度末になったら、「成果に照らすと2カ月休職していたに等しい。支給額は1080万円のままだが、ペナルティとして2割ほど差し引く」と言い渡す。
こんな措置をあからさまに行えばブラック企業と叩かれるが、もっと穏便な方法はありそうだ。経営者は必ずや、過大な成果を要求し、1,200万円払うべきところを1,075万円に抑える方法を考え出す。
そうはならないと制度設計者は言うだろう。なぜなら、対象となる労働者は、労働条件について会社側と対等に交渉できるぐらいのプロフェッショナルなのだからと…。
しかし、そこまでの実力者なら独立しているんじゃね? そうなんです。この制度の目的は、独立するほどの実力のない労働者をうまく丸め込んで、都合よく使うことにある。まるで請負や業務委託のような関係をつくって労務管理の手間を省き、なおかつ安く使おうという魂胆だ。
いや、魂胆というより、この制度はそういうふうに使う以外に使い道がない。だって、成果に見合う分しか払いたくないという欲求は、“外注”によって簡単に満たせるではないですか。外注よりも支出が抑えられるとの見込みがなければ高度プロフェッショナル制度を使う意味がない。
現段階で想定されている対象業務は、金融商品の開発・ディーリング業務・アナリスト・コンサルタント・研究開発業務の5種類だそうだ。これらは、おおむね外注可能である。大企業ならば子会社を作って業務委託する場合もあろうが、経営コンサルタントやシンクタンクなどが引き受けてくれる業務だ。
ただ、いずれ対象業務は拡大していくはずだ。
派遣法がそうでした。始まりは高度な職能を有する専門職だけでした。ところが対象業務は数年毎に拡大されていく。同時に脱法的利用が広がり、「正社員よりも安く使える労働者」として定着していく。定着ついでに一般化しましょうということになり、職種のしばりが消え、だれでもなれる派遣労働者!が完成。
次なるターゲットは裁量労働制。労働時間の把握が難しいのは外回りの営業マンばかりではないと、対象業務の拡大を提起し、法案化に成功。「働き方改革」と称する関連法案の一つとなったが、あいにく頓挫。だが安心はできない。官僚たちはしつこいですからね。
高度プロフェッショナル制度の対象業務は省令で定めることになっているから、拡大はいとも簡単。国会論戦を経ないで済むようにしたのは、裁量労働制での頓挫を見越したかのようだ。
ということで、自分とは関係ないと思っている雇用労働者の皆さん。ホワイトカラーの業務に就いているのなら、いずれ対象にされると思っておいた方がよい。年収1,075万円以上なんて要件も安心できません。インフレが進めば自動的に対象者が拡大していくわけです。年収条件を下げる法改定だってあり得ます。
高度プロフェッショナル制度は、独立できるぐらいの実力者以外は反対すべきです。
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