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ひるがえって、日本はどうなのか。トランプ現象みたいなことは起こるのか。
いまのところ、他国や他民族を挑発するような人物が権力の座に就く機運はない。安倍内閣は高支持率を維持。安部首相は感情的になりやすいが、攻撃的になるのは野党や国内メディアに反論するときに限られる。
日本でも、格差拡大や貧困層の増加が話題になっている。バブル崩壊以降、非正規雇用の比率は上昇し続け、平均賃金は低下傾向。生活が苦しくなったと答える世帯が増えている。
ただ日本人の場合、庶民という立場では、いつの時代でも「生活は苦しい」と答えるのが慣わし。バブルの頃でさえ、「バブルの恩恵は私のところまで回ってきません。物価が上がって困る」と嘆いていた。内心はともかく、表向きは「他人さまより裕福ではありません」と卑下するのが礼儀である。
ところが、卑下する割には中流意識が消えない。…賃金が上がらず生活は少し苦しくなったが、みんなも苦しいと言っているから自分の生活は平均レベルだろう――との判断にもとづく。貧困が話題になればなるほど、むしろ「自分だけじゃない」と安心してしまう。
こうした日本人の特性が、相対的貧困レベルに落ちた人でさえ<中の下>意識にとどまる理由だ。もっとも、他の先進国と同様、相対的貧困といっても飢餓に陥るわけではないが…
日本人の方が謙虚であると言ってもよい。アメリカ白人には「オレは世界一の国に住んでいる」といった慢心がある。日本でもヘイトスピーチはあるが、広くは浸透していかない。
日本では同時にデフレが進み、賃金低下の悪影響を緩和した? いや、デフレと賃金低下は互いに影響し合っています。デフレだから賃金が低下し、賃金の低下によってデフレが維持される。デフレが生活苦を緩和しているとまでは言えない。
日本も経済成長できない国になったことは確かだ。デフレがその象徴。需要の増大はもうない。これからも、生活水準が低下する世帯は増えていくだろう。
失業率が低い? 日本の場合、高齢化が失業率低下に貢献している。医療や介護職の需要が増加した。高齢化とは生産年齢人口の減少でもあり、雇用の需給は逼迫しやすくなっている。失業率の低下は景気回復とリンクしない。(ちなみに失業率の算出方法は日米で異なる。アメリカの方が高目に出る)
ところで学者の中には、先進国全体を俯瞰して「ここ40年、経済を成長させるための試みは失敗した」と表現する人がいる。しかし「失敗」なのだろうか。失敗と表現するからには「成功」のための方策があるように聞こえるが、経済が成長しないのは本当に政策の不手際のせいなのだろうか。
私にはそうとは思えない。やはり「経済成長の終わり」なのだ。日本政府も日銀もできることはやり尽した。なのに「成功」が遠いということは、先進国共通の「経済成長の終わり」という現実があるからだ。そろそろそのことに気づくべきだ。
政府は、景気対策と称して財政出動に明け暮れてきた。公共事業としてのインフラ整備は、増額されればされるほど経済効果が薄れ、限りなく失業対策事業に近くなる。
産業振興として行う企業への助成措置も似たようなもの。発展中の産業ならば成長速度を少し上げるだけだし、衰退中の産業ならば延命に少し手を貸すだけ。消える運命にある産業ほど苦境を強く訴えるから、政治的案件となり、手厚い助成の対象となる。
これらの財政措置は失業者を減らし、生活保護費の増額を抑える効果があった。逆に言えば、生活保護費代わりの政府支出ということになる。名目が違うだけで実質的には救済費用。しかも、その原資は借金。
政府は借金を重ねるが、国内で楽に資金調達できてしまうのも、経済成長できない国であることの証。民間に資金需要がないから、政府はいくらでも借金できてしまう。国内に投資先が少ないことの反映であり、経済成長がままならない国になったことを表す。
財政出動に限界を感じつつも諦めきれない政府は、金融政策に期待を寄せ、日銀に圧力をかける。第二次安倍内閣になってからは、過剰な金融政策が実行されるようになった。
日銀はまずゼロ金利政策を実行。市中金利はどんどん下がって行った。想定では、企業は投資を増やし、市民の支出も増え、経済活動が活発化するはずだった。
次に国債購入。日銀が国債を引き受けることは禁じ手であるが、市中から調達するという名目で、銀行所有の国債を大量に購入。市中には現金があふれ、デフレは退治されるはずだった。
ところが住宅投資が増えたぐらいで終わる。インフレ率も目標の2%に届かず、「成功」を手にすることはできなかった――というのが昨年までの経過。業を煮やした日銀が次に繰り出したのがマイナス金利政策。
ゼロ金利になっても資金需要が増えなかったのは、モノの需要が飽和状態だからだ。新商品は現れるが、モノの需要の総和は変わらない。企業はそもそも内部留保が潤沢だ。銀行が国債を大量に保有していたのも、投資案件の縮小が原因である。
にもかかわらず、究極の金利政策であるマイナス金利を導入するとはどういう神経をしているのか。もうマネーゲームでもなんでもいいから現金を循環させろ!といった破れかぶれにしか見えない。浪費で経済を支えるしかないとの表明にしか聞こえない。
思うにマイナス金利は、経済成長する余地の消えた先進国経済の末路を示している。
<続く>
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