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アメリカ下院が金融安定化法案を否決するとは! そんなことになるとは思わなかった。有権者の反対が強かったことが影響したようだ。
金融機関はこれまで巨額の利益を上げてきた。経営者だけでなくそこで働く社員たちも高給を享受してきた。そんな彼らを、なぜ国費という名の税金を投入してまで救済しなければならないのか! である。
これはもう感情論であるが、55億円の年間ボーナスなんて話を聞くと分かるような気がする。庶民の嫉妬心は燃え上がり、失業者の怒りは頂点に達する。55億円といえば、55人に1億円、550人に1000万円、5,500人に100万円を配ることができる金額だ。
それに近いボーナスをもらっていた経営層が100人いたとすれば、たちまち5,500億円だ。これを使えば、55万人の失業者に100万円を配ってその生活を潤すことができる。
庶民の怒りは「金持ちを優遇する政策にはうんざり」というタクシー運転手の発言に集約される。議員にとっても「法案を地元に説明すると一笑に付される」ようでは、法案に賛成することがためらわれる。今回の危機はウォール街の危機であって、地方経済は関係ないという雰囲気なのだろう。
かつての日本のようになってしまうのか。つまり実体経済に大きな影響が出てくるまで大胆な救済策は実行できない。法案が否決される前は、危機への対処のスピードが日本とは違うとされていたが…
マネーゲームに参加できない人たちの嫉妬は、どこの国でも同じということだ。それに、たとえ会社が危うくなっても、経営者が大きな負債を抱えることはない。そのことを庶民は知っている。日本のバブル崩壊でも、頭取が路頭に迷ったとか、タクシー運転手にまで落ちぶれたという話は聞かない。
でもかつての日本と違うのは、世界に与える影響の大きさだ。アメリカの金融機関が発行する金融商品は世界中にばらまかれている。その額は日本の比ではない。世界中の金融機関が損害をこうむる。アメリカの金融機関を救済しても、世界における混乱は簡単には治まらないだろう。
考えてみれば、危機以前の企業利益も世界中からかき集められたものだ。巨額の役員報酬も、いうなれば世界の投資家から得た利潤によって成り立っていた。
気になるのは、格付け機関の行く末だ。
今回の危機における格付け機関の責任は大きい。間違った格付けによって不良な債権を大量に流通させた。金融機関の暴走をチェックできなかったのは、日本のバブル崩壊での監査法人に似ている。金融機関と結託して今回の危機を招いたともいえる。
信用度が簡単に計れない金融商品が流通できたのは、格付けが付与されていたからだ。今回の金融危機で、アメリカの証券会社のビジネスモデルが崩壊したと言われるが、同時に格付け機関も存在価値を喪失したといえる。格付け機関が信用を失ったら存続する理由はない。
でも金融商品の信用を作ってきた格付け機関が信用できないとなると、何を信用すればよいのか。投資家たちは萎縮し、信用収縮が広まる。
もう一つ気になるのが、金融機関の寡占化だ。日本でもそうだったが、経営危機に陥った金融機関は別の銀行に吸収されることが多い。あるいは資本が劣化した金融機関同士が合併し、資本を巨大化することによって経営を安定させようとする。その結果、金融機関の数は減少し、数社のメガバンクしか残らない。
金融大国のアメリカでは、メガバンクを超える巨大な金融機関が出現することになる。その資本力たるや、中堅国家の予算を超える。金融システムを安定させるためとはいえ恐ろしいことだ。
グローバル化は、国家でさえ制御できない経済分野を作りつつあるが、超メガバンクの出現は、それをさらに推し進めることになろう。国境を軽々と越える巨大な経済機関となり、国家とは別次元の権力機構としての性格を持ちかねない。
世界規模の独占企業体が出現することになるといっていいだろう。独占禁止法は資本主義経済の暴走を制御するための大切な法規だが、それが通用しなくなってしまう。
石油メジャーなどの資源独占体や穀物メジャーは今でも猛威を振るっているが、金融分野でもそれが起きたらどうなるのだろう。
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