“わが谷は緑なりき”〜私の映画ノート

原発のない、戦争のない世界に。そして「縮小社会」に向かう覚悟を。

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震える舌

体調が良くない時には見ない方がいいかも、と思っていた作品。気分が“ふつう”の時に鑑賞しました。

学生の頃、弟と一緒に立ち見までして観た『エクソシスト』のことが、思い出されました。
あれは悪霊、これは病原菌の仕業でしたが…


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1980年。監督:野村芳太郎、製作:野村芳太郎、織田明、原作:三木卓、脚本:井手雅人、音楽:芥川也寸志。出演:渡瀬恒彦、十朱幸代、中野良子、若命真裕子、北林谷栄、宇野重吉。    


東京のベッド・タウンの団地に暮らす三好昭(渡瀬)と妻邦江(十朱)、娘昌子(若命)の三人家族は、平穏な日々を送っています。ある日、団地近くの湿地の泥の中で遊んでいた昌子は、そこで指を怪我します。その日から家族は、徐々に変調を来たして行く娘の容態に、振り回されることになります。

母がまず気付いたのは、食事中、昌子が食物をポロポロこぼすこと。トイレに立つと鵞鳥のような歩き方をすること。病院で診てもらっても、はっきりした診断は付かないまま。夜、絶叫して倒れた昌子。彼女は、小さな赤い舌を歯ではさみ、血だらけになってもがいていました。

何とか口をこじ開けて、箸を差し入れ、大学病院へ連れて行く両親。様々な検査の後、漸jく原因が破傷風菌であることが判明します。隔離されての入院生活が始まりました。両親は、24時間、昌子の許に付き添います。

音や光、小さな刺激でも昌子は敏感に反応して、絶叫し、背骨が折れるのではと思う程、体をそ反り返らせ、痙攣しながら舌を噛もうとします。

必死の治療は行われていますが、一向に好転せず。光が遮断された部屋の中で、苦しむ娘の姿を見続ける両親は、次第に精神が参ってきます。最悪の場合を認識していた二人ですが、快復を願って付き添います…

昌子役の(多分当時4〜5歳)若命真裕子ちゃんの迫真の演技が秀逸でした。彼女が悶え苦しむ姿は、息苦しさと恐怖感で、観る者の心を縛り続けました。


暗い病室で始まった少女と両親、そして医師らの過酷な闘い。それは映画が始まって30〜40分後から続きました。この状態を映画の残り時間ずっと見続けるのかと思うと、正直なところ気が重くなりました。しかし、重苦しい展開ながら、「結果」がもたらされるまでの時間、私は様々なことを考えました。

悶える娘に何もしてやれない両親の無力感。それを観続けるうちに、希望を失い、気力が萎え、闘う意思が消失しそうになる母親。それを支えようとする夫も、限界を感じ始めます。家庭崩壊…。破傷風菌はそこまで、力を及ぼそうとしていました。


破傷風は非常に致死率の高い病気です。映画の中で医師が語り、父親がそれを受けて思う言葉がとても印象に残りました。(下の文章は三木卓氏の「原作」から一部引用。三木氏の実体験が基になった作品です。)

「破傷風菌は、嫌気性菌ですが、これは地球上に酸素ガスのない極めて初期の時代に生まれた古い菌。太古に生まれた破傷風菌は、普段は酸素ガスによって片隅に追いやられているが、ひとたび大気から遮断された人体に入ると、増殖し猛威を振るいはじめる。」(医師)

ある時、侵入を防いでいる薄い一枚の皮膚が破れ、傷口がひらき、光が射しこみ、世界の要素が零れ落ちる。傷口は閉じ、有毒な酸素ガスの渦から逃れた菌は増殖を始める。我々よりも遥かに古い、この地球の主人たちは、環境の変化に怨恨を抱いているのだろうか? 新参者で成りあがり者の人間を培地にして、その中に古い地球を見出して増殖するのは、彼らの復讐なのか?

なぜ菌は昌子を苦しめるのだろう?古い地球を昌子に見出したなら、なぜそこで平穏に暮そうとしないのか? たとえ新しい地球に対する復讐であるとしても、宿主である者を殺してしまっては自分らも死ななければならないではないか?(父)

                  ・・・・改めて私に地球の長い歴史のことを思わせてくれた言葉、
                                   人知、人力の遥かに及ばないものが、まだまだあることを知りました。



病室で看病する母親は、まだ精神状態が深刻ではなかった時、娘の痙攣の回数、時間、体の状態を克明にノートに書き込んでいました。母親の繊細な快復への願いが感じられました。

子どもの頃から、原因不明の腹痛で、ずっと苦しみ、色々な病院で診察を受けた、自分の幼い頃のことが思い浮かびました。一番心配し、私の苦しみを悲しい目で見続けていた母。父も祖父母も、一緒に暮らしていた叔父、叔母もそれは同じでした。

小さな命が病に苦しむことの辛さ。周りの大人たちの心情を、自分の子ども時代に重ね合わせていました。

決して「ホラー映画」的感覚で見る作品ではないと思いました。

昌子役の若命真裕子ちゃんを検索しましたが、データは僅かでした。しかし、彼女が出演したもう一本の映画
典子は今』で、私は一度彼女に会っていたことを知って、驚きました。




(参考)破傷風菌は毒素として、神経毒であるテタノスパスミンと溶血毒であるテタノリジンを産生する。テタノスパスミンは、脳や脊髄の運動抑制ニューロンに作用し、重症の場合は全身の筋肉麻痺や強直性痙攣をひき起こす。この作用機序、毒素は1889〜1890年(明治22〜23年)、北里柴三郎により世界で初めて発見される。

一般的には、前駆症状として、肩が強く凝る、口が開きにくい等、舌がもつれ会話の支障をきたす、顔面の強い引き攣りなどから始まる。

徐々に、喉が狭まり硬直する、歩行障害や全身の痙攣(特に強直性痙攣により、手足、背中の筋肉が硬直、全身が弓なりに反る)、など重篤な症状が現れ、最悪の場合、激烈な全身性の痙攣発作や、脊椎骨折などを伴いながら死に至る。感染から発症までの潜伏期間は3日〜3週間。

神経毒による症状が激烈である割に、作用範囲が筋肉に留まるため意識混濁は無く鮮明である場合が多い。このため患者は、絶命に至るまで症状に苦しめられ、古来より恐れられる要因となっている。〜wikipediaより


2012年もあと二日。あと片づけをきちんとして新年を迎えようと思います。

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おはようございます。
リアリティが有って単なるスリラーやオカルトよりも怖い感覚に襲われそうな映画です。
原因の分からない病気で苦しむ人も多く居ますが、家族の大変さも伝わって来ます。
普段当たり前に思っている健康な状態が一番幸せな事かも知れませんね。
こんな病気が有るのを初めて知りました。☆

2012/12/30(日) 午前 10:21 [ SIN=KAI ]

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破傷風は安易に考えていましたが、怖い病気ですね。

alfmomさん、ご苦労されているんですね。

いろんな方の経験を見聞きするたびに、
「今、生きている。生かされている。」
それだけで感謝の気持ちで一杯になります。

2012/12/30(日) 午前 10:36 楽描亭林住庵

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あまり邦画は観ていないので、この作品もタイトルだけ、という感じです。「砂の器」の野村監督だったのですね。
一方の「エクソシスト」これは傑作だったと思います。
マイク・オールドフィールドのテーマ曲は一時着メロにしていましたが、家族に駄目だしされて、しぶしぶ変更した記憶があります。
良い楽曲と思うのですが、、。

2012/12/30(日) 午後 1:50 [ トンチー ]

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こんにちは。
気分が普通のときに観られたのですね。正解かもしれません。自分の
子どものころの経験や周りの大人たちのことを思い出しましたか。
一つの病気だけを描いてこれだけの物語をつくったのがすごいと思います。
ごく当たり前にいのちがあると思っていますが、実はすごく稀なこと
のような気がしますね。

2012/12/30(日) 午後 4:20 [ hisa24 ]

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こんばんは〜

病原菌による、原因がわからない難病って

多いんですね〜今の医学が及ばず苦しんでる

患者がいること・・悲しいですね ナイス

2012/12/30(日) 午後 5:19 tukidate57

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sin-kaiさん、
原作は、三木卓さんの娘さんが発症された時のことを小説にされたもの。
ですから、科白の一つ一つに、そして展開に、とてもリアリティがありました。
暗い部屋で、悶え苦しむ少女の姿は、恐怖感を抱かせました。

「普段当たり前に思っている健康な状態が一番幸せな事」、
そのことも身に沁みて感じました。
私たちの周りには、こんな恐ろしい病原菌が、太古の昔から命を繋いできていると思うと、
人間は決して尊大でいられる存在ではないのだと思いました。

ナイス、有難うございます。

2012/12/30(日) 午後 8:04 alf's mom

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カナパパさん、
「今、生きている。生かされている。」それだけで感謝の気持ちで一杯に…
私もそう思います。
私の場合は、原因が分かるまで30年以上かかりました。

「先天的なもの」のためだったことが分かったのですが、
母には言えませんでした。自分を責めると思ったからです。

今日まで生かしてくれたものに、感謝、です。

2012/12/30(日) 午後 8:07 alf's mom

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トンチーさん、
「砂の器」の監督さんです。
とても丁寧に作られており、恐怖、苦悩、愛情が様々な場面から滲み出ていました。

「エクソシスト」は、当時は単なる恐怖映画として見ていましたが、
別の見方もあったのだと思います。
音楽は、素晴らしいですよね。映画の場面が蘇って、怖い感覚になりますが、
音楽だけ聴けば、本当に素晴らしい楽曲だと思います。

2012/12/30(日) 午後 8:13 alf's mom

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hisaさん、
ご紹介有難うございました。
「一つの病気だけを描いてこれだけの物語をつくったのがすごい」、
本当にそう思います。原作の丁寧な描写が、これだけの作品を作るのを可能にしたのだと思います。

“地球”の中に埋もれている、私たちの命を脅かすものの存在。
私たちの周りにはまだまだ数多くあるのだろうと思いました。

2012/12/30(日) 午後 8:19 alf's mom

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つきだてさん、
病気で苦しむのが、幼い子どもである場合、
それを看病する親達は、どれ程辛い思いをするものかが
映画の様々な場面から、ひしひしと伝わりました。

医学がどんなに進歩しても、人間の力や能力が及ばないものも
多くあるのですね…、勘三郎さんも、助からなかった訳ですし…。
ナイス、有難うございます。

2012/12/30(日) 午後 8:22 alf's mom

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これ、ずいぶん昔に観ました。
破傷風という病気は、単語で知ってはいましたが、実際の病状等はほとんど知らず、この映画を観て、初めて怖い病気なのだと知りました。
親にとって、わが子の苦しむ姿、死ぬかもしれないという状況は、何よりも怖いものでしょう。

2012/12/30(日) 午後 10:15 空

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qooさん、
見ておられたのですね。
破傷風は、致死率も高く、本当に恐ろしい病気なのだと分かりました。
体験が基になった原作ですから、
展開や科白にとてもリアりティを感じました。
病気の子に付き添う両親の苦しみが、とてもよく伝わりました。

2012/12/30(日) 午後 11:59 alf's mom

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alf.mom様、明けまして おめでとう ございます
今年もよろしくお願いいたします

昨年は、色々とあり、大変でしたが、頑張っております
なかなか、ブログにコメント出来ず、申し訳なく思っていりますが、
お許しください。

逆に、今日のような正月が、ようやく「暇」を作れる「時」ですね



「破傷風」ですか、名前は知っていましたが、そんなに致死率が高く
怖い病気であるとは、思いませんでした。

「太古」の病原菌・・・、我々は、「新参者」なのですね・・
確かに、人類は、新参者だと思います。

その人類が、地球を破滅の方向に向かっているような気がするのは、
私の「勘違い」であって欲しいものですが、もし、そうなのであれば、やっぱり、今の人類は、滅んだ方が良いのかも知れません。

それが、地球と言う惑星の為になるのであれば・・・、
我々人類は、「地球」という星に「借家」しているようなものです
そんな事も「忘れて」いる様では、「地球」に住む権利は有りません

2013/1/1(火) 午前 10:59 [ 魔法使い ]

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続きです。(また500文字を超えてしまいましたww)

「破傷風菌」は、ある一定の酸素ガスがあるから、その猛威を抑えられているのですよね?

このまま、二酸化炭素が増え、温暖化が進み、ある一定の「値」を
超えた時、その猛威が解き放たれると、人類は、滅んでしまう可能性もあるのでは?

そんな風に考えてしまいました・・・。

2013/1/1(火) 午前 11:00 [ 魔法使い ]

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魔法使いさん、お仕事が変わり、住まいが変わり…と
本当に大変な昨年でしたね。
そんな中でも、度々訪問してコメント頂き、本当に有難うございました。
お忙しい中で、「小説」を頭の中で展開し、それを文字にしていくことは
かなりのエネルギーが要ったことでしょう。
人物の行動や言葉に少しも矛盾を感じることなく、物語の進行を楽しんでいます。
これからも、楽しみに魔法使いさんの作られる「文学世界」を、歩かせて頂こうと思います。

“我々人類は、「地球」という星に「借家」しているようなもの”。
私もこの映画を見て思ったのは、この地球の「主」のような顔をしている人間ですが、その力が
如何に微小なものであるかを、この映画は教えてくれているのではないかということでした。

「破傷風菌」は、ある一定の酸素ガスがあるから、その猛威を抑えられている“嫌気性菌”です。
怖れを忘れつつある人類への警告メッセージを持ちながら、生きながらえているのかもしれません。

2013/1/1(火) 午後 1:08 alf's mom

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この映画はみていないのですが、エクソシストはみてます。というかトラウマなほどでして。とはいえ傑作ですので見たくてしょうがなくなったとき、他人の家にお邪魔して一緒にみてもらったほどです。困ったことに面白いんですな。しかし矢張りトラウマが癒えることはない。暗闇が恐ろしくなり、トイレに行くのが怖くなる電気を消して寝るのが怖くなるなどの支障が鬱陶しいので、もう二度とみることはない映画です。

映画は見ないけど原作も日本語で読んだ。これも凄い面白い。原本も丸善で注文してある程度読んだほどです。

マイク・オールドフィールドのアルバムのCDも買った。確かにいい曲だらけなんだが、聞いていると曲中の叫び声が、まるで映画の中での悪魔の野太い恐ろしい声を思い出させる。トラウマが甦るのでこれももう聞くことはありません。

2013/1/2(水) 午前 2:44 Schwangerschaft

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エクソシトは上映反対の声も結構あったとDVD特典のドキュメンタリーで当時の反対の演説などがみれる。監督は的外れだみたいに冷淡であるが、娯楽の恐怖映画の名の下に人々から在りもいない恐怖を引き出して何になろう。しかも天才的に巧く。実は愛がテーマだとか言うがふざけている。圧倒的な悪魔の魅力で溢れた映画で周りはビクビクしているだけだ。ビクビクしている様の迫真を出すために突然役者の傍らで銃を撃つという気狂いな撮影を何度もしたほどである。

悪魔崇拝に奉仕する鋭さが非凡で大傑作なだけで、ほめられる作品ではない。

病人をヒントに怪物扱いして見世物興行しているような映画の側面を我々は忘れてはならないだろう。

2013/1/2(水) 午前 2:59 Schwangerschaft

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札束さん、
凄いホラー映画との前評判の高さは異常なほどでしたので、
その流れに乗せられて鑑賞しました。
感想は、「そこまで怖くなかったね」でした。

和訳本も、原作(途中)も読まれているのですね。
映画も音楽もトラウマが蘇る…よく分かります。

「ビクビクしている様の迫真を出すために突然役者の傍らで銃を撃つ」
そういう撮影の仕方が行われていたのですね。納得です。

「病人をヒントに怪物扱いして見世物興行しているような映画の側面」、
それは確かにあると思います。
その部分には目をつぶって味わおうと思いましたが、同時に、
実体験を本にされた三木さんは、この映画をどういう思いで見られたのだろうと思いました。

2013/1/2(水) 午後 10:28 alf's mom

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初めて聴くタイトルでした。破傷風の予防接種を、某国に行ったときに義務として同僚たち全員で受けさせられました。未だに、破傷風で苦しむひとたちもいますね。不謹慎ですが、観てみたくなりました。

野村監督は、松本清張の「張込み」などを観たぐらいですが、迫力と臨場感を感じる映画を撮るかたなのかなあ、と思いました。

2013/2/3(日) 午後 3:42 [ datechibu ]

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タイトルは知っていましたが、
一番苦手な「ホラー」だと思い、ずっと避けていました。
恐怖感は迫ってきましたが、親の思いや、医師たちの病気との格闘、
患者自身の闘い、そしてこの病原菌の起源と人間に及ぼす力の凶暴さなどなど…
色々なことを考えながら鑑賞しました。
異国におられた時は、予防接種をしておられたのですね。

野村監督は「砂の器」しか見ていません。
「張込み」も松本清張ですよね。
「迫力と臨場感を感じる映画を撮る方」なのだと思います。

2013/2/4(月) 午後 9:31 alf's mom


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