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その昔・・・まだバブル崩壊と不良債権の問題がどれほど深く日本経済を傷つけたのか、誰も分からず、日本経済が押し寄せる不況の足音に戦々恐々としていた時代の話だ。 マネーサプライの管理をめぐって・・・ 『日本銀行は信用できるか』の著者でもある岩田規久男氏と、日銀エコノミストの翁邦雄氏との間で激しい論争が起きた。 『日本銀行は信用できるか』と言うと、何んだか『日銀はロスチャイルドに支配されている』というような陰謀論者を想起させるが、岩田氏は日本が誇るエコノミストの1人である。 ただ、その題名からも分かるとおり、岩田氏はもともと日銀の金融政策には懐疑的だ。こうした中央銀行に対する不信感というのは、歴史上常に存在していて、マネタリストの大御所ミルトン・フリードマンも、FRBの密室の意志決定や金融政策に関しては懐疑的な見方をしていて、それゆえに「インフレターゲティング」といった透明性を確保につとめようとしたぐらいだ。 岩田氏と翁氏が繰り広げた激論は「マネーサプライ論争(翁−岩田論争)」として後世に語り継がれることになる。しかしながら、よく考えるとおかしな議論だ。岩田氏の主張は経済学の教科書に書かれている内容で、目新しい理論を展開したわけではない。奇妙なのは翁氏の主張だった。 日銀エコノミストの第一人者である翁氏の主張は
物価安定を最大の目標に掲げる日銀のエコノミストが、マネーサプライを管理できないというのだから、それはすなわち物価を管理できないと言っているの同じなのである。 企業金融等の分野において、早くから名の知られた岩田であるが、彼の名を一躍、経済論壇のスターダムに押し上げたのは、彼が上智大学教授時代に、日本銀行の翁邦雄らとの間に起こした「マネーサプライ論争(翁−岩田論争)」である。従来からマネタリーベース(ハイパワードマネー)の能動的な意味での操作性を否定し(「積み進捗率」の幾分の調整については可能とした)、なかんずくマネーサプライの管理を否定し続ける日本銀行の理論(日銀理論)に対し、岩田はその操作が可能であることを主張し、80年代末のバブル膨張ならびにバブル崩壊の責を逃れようとする日本銀行側を批判した。『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)誌上での激しい押し問答は、植田和男による仲裁という形をもって一応の終焉となったが、結局のところ、一般大衆にとっては結論がうやむやのままという印象が残った。 マネーサプライ論争における岩田の主張は、池尾和人も指摘しているように、金融論の教科書に登場しているような標準的な学説に基づくものであり、特に目新しいものでも奇異なものでもない[1]。ハイパワードマネー×信用乗数(貨幣乗数)=マネーサプライという恒等式において、左辺のハイパワードマネーから右辺のマネーサプライへの因果関係があり、かつ信用乗数は比較的安定しているから、日本銀行がハイパワードマネーを増やせばマネーサプライは増えると唱えたものであった。 一方、実務家である翁の主張は、日本銀行が所要準備の後積みを行っているという観察事実に基づくものであり、いって見れば現象論であった。翁は、岩田が用いたハイパワードマネー×信用乗数(貨幣乗数)=マネーサプライという恒等式において信用乗数には乗数の意味はなく、マネーサプライとハイパワードマネーとの事後的な比率に過ぎないとした。その上で、市中銀行の貸出し態度によってマネーサプライの大きさが決まり、それに見合うように日本銀行はハイパワードマネーを受動的に供給するしかなく、マネーをコントロールすることはできないと主張した。 日銀がコントロールできるハイパワードマネー(ベースマネー)とコントロールするべきマネーサプライの関係というのはいろいろと難しい数式を省くと 次にように表す。
M(マネーサプライ)、H(ハイパワードマネー)、m=通貨乗数 この議論だが、岩田氏の前提条件としては通貨乗数mがある程度安定しているというものであったが、事後的にはバブルの崩壊以降13(1992年)から、徐々に下がり、2000年からは10を切り、そして2009年現在ではかろうじて6のあたりをさまよっている。 以下は『政府紙幣発行で日本経済が蘇る』 小野盛司著 より抜粋 日銀は2001年3月19日から2006年3月9日まで量的緩和政策と呼ばれる金融政策を行っていた。これは、銀行に十分は資金を提供することによって、銀行貸出が増え景気が上向きになるだろうとの期待による政策だった。しかし、結果はそうならなかった。日銀は買いオペを積極的に進め、ベースマネーは十分に増えたが、マネーサプライは思い通りには増えなかった。 インタゲ派が期待したのは、日銀の買いオペによりベースマネーが増え、たとえ貨幣乗数が低下しても、信用創造メカニズムにより銀行貸出が増加し、貨幣数量説通りに景気が上向くだろうとの期待だった。しかし実際は、銀行側の資金が足りなかったのではなく、企業側の借入意欲が足りなかったわけだ。 このあたりはリチャード・クーのバランスシート不況と同じコンセプトだ。 さて、日本と米国の通貨乗数を比べて見た。 日本のハイパワードマネー、マネーサプライ、通貨乗数(M2+CD) 米国のハイパワードマネー、マネーサプライ、通貨乗数(M2) 日本と米国の通貨乗数比較 米国のハイパワードマネーと通貨乗数(M2)長期推移 それにしても凄いね。オイル・ショック、ニクソン・ショック、S&L危機・・・いろいろあったけど、今の状況は、やはり異常事態と見る方が自然だろうね。
いずれにせよ、どうも翁氏の主張が正しかったようだ。 でも 彼が正しいということは、新たな問題が生まれる。
日銀が1兆円を供給 追加金融緩和でデフレ克服 12月2日10時23分配信 産経新聞 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091202-00000513-san-bus_all 日銀は2日午前、短期金融市場に即日で1兆円の資金を供給すると発表した。日銀は1日に、国債などを担保に固定金利0.1%で融資する新たな資金供給手段を導入する追加金融緩和を決めた。供給規模は10兆円。決定翌日から1兆円規模の供給を行うことで、政府と一体となり、デフレ克服に当たる姿勢を鮮明にした。
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お陰様で,マネーサプライ論争の内容が少しだけ理解できました。
それにしても,「米国でも日本でも一度沈んだ通貨乗数は、下がった水準で安定こそすれ、二度とかつての水準を取り戻すことはなかった」ということは,従来の伝統的な金融論の学説に欠陥があったのでしょうか?
2009/12/2(水) 午後 7:52 [ おじゃま ]
おじゃまさん こんばんわ
マネーの形態が変わっていくので、それによって金融論も進歩していかなければならないと思います。
通貨(信用)乗数が落ちてきたというのは、実は定義されるべきマネーサプライ(分子の部分)の形態が変化してきたのかもしれませんね。
証券化の流れなども含めて、従来の信用創造プロセスが変化し、既存の定義のマネーがすでに新しいマネーの形態に代替されているのかもしれません。
2009/12/3(木) 午前 0:42 [ 9回裏二死満塁 ]
ご教授ありがとうございました。今後とも,よろしくお願いします。
2009/12/3(木) 午後 9:06 [ おじゃま ]
いえいえ、ご教授なんてとんでもないです。
こちらこそ、今後もよろしくです。(^-^)
2009/12/3(木) 午後 10:42 [ 9回裏二死満塁 ]
質問内容が上記の記事と少し異なってしまうのですが、
日銀が日本国債を買い取る場合、
貨幣の総額は増える事になるんですか?
2009/12/4(金) 午後 3:09 [ すみません ]
すみませんさん
コメントありがとうございます。
質問の件ですが、
全体としては『増やせない』と記憶してます。
それは、銀行券ルールという内部ルールがあるからですが。
逆にお金をいっぱい刷れば、国債をより買い取ることができるという
こと・・・だったと思います。
あ〜自信ないな〜〜
2009/12/4(金) 午後 8:00 [ 9回裏二死満塁 ]
結局国債を買い取る行為自体は、市中へマネーを供給する原則は変わらないと思います。そのマネーを中央銀行が制御できるかといえば、できるとも、できないともいえるのではないか。結局中央銀行をマーケットがどのくらい信用するかしないかではないかと思うのです。
いくらマネーを供給しても需要が無ければ金利は上がらないのでインタゲ派の理論は通用しないと私は思っています。平時は金融政策は通用するがバランスシート不況時は有効ではないかもしれません。
9回裏二死満塁殿と私が国家紙幣に対する根本的な意見の相違は、中央銀行の信任=通貨の信任ではないかと思います。
政府発行紙幣は結局マーケットや現場の些細な要求に対して硬直性があり、マーケットがフラストレーションを溜めてしまい、マーケットからの信任を得れないのではないかと思います。
2009/12/5(土) 午後 3:20
一方中央銀行券であるならば、たとえ制御困難であろうとも、マーケットの声に柔軟に応えることができる。今回の日銀の追加緩和措置は金融政策的な規模は「猫騙し」程度であったににマーケットへの効果は覿面であった。
9回裏二死満塁殿そう思いませんか?政府発行紙幣は危険であると私は思うのであります。
2009/12/5(土) 午後 3:20
Ddogさん コメントありがとうございます。
中央銀行の信認という問題は欧州中央銀行設立にあたって、ユーロ導入前夜のヨーロッパではかなり議論されてました。日本で起こったインタゲ論争はどこかずれてます。問題の基本はプリンシパル・エージェント問題で、ルールか裁量かと言う問題です。
政府紙幣については、実際にデフレギャップを解消するかとか、インフレは起こらないとかいう議論よりも、日銀の通貨運営に対する信任への影響と、政治家と国民のプリンシパル・エージェント問題を考える方が重要なのかな〜と最近特に思います。
ただ、バランスシート不況、加えて『これ以上国債を発行すると日本を破綻する』という迷信が存在する限り、自分の目的に合理的な行動を取る政治家にとって、残される選択肢は実際それほど多くありません。
2009/12/6(日) 午前 1:13 [ 9回裏二死満塁 ]
今回の日銀の緩和措置はそれなりに良いものでしたが、思うような効果があらわれないままこれが繰り返されると、『日銀の信任』自体に傷をつけるような時がくるかもしれません。
政治家と国民が結託して政府紙幣に突っ走る前に、しっかりと議論をしておく必要があると考えます。
それに政府紙幣の経済理論は、良かれ悪しかれまだ存在もしていないわけですし・・・
2009/12/6(日) 午前 1:14 [ 9回裏二死満塁 ]