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前回の「ハウルの動く城」のレビューで、「ハウルの城」はなぜ「動く」かについて、

大向こうで権力を張り、「動かない城」を牛耳る「サリマン」が「椅子から一歩も動かない」ことに気がつけば、ハウルの城が「動く」のは何故かくらい、考えるまでも無くすぐに判る。

とエラソーに書かせていただいたところ、enokenさんから、

(すみません、あれからDVDで見直したのですが、「動く城」ってサリマンとの対比だけなのでしょうか?花畑を歩く昆虫のように見えるのです。花で一杯の野原も映っているので、花畑を楽しく遊びまわる昆虫が自由を求めるハウルと重なるのですが。そうしたことは関係ないのでしょうか?)

とのご意見を頂きました。鋭い!

「動くもの」と「動かないもの」との対立項で解釈してみましたが、まあ、それ以外にも「読み」は可能です。

そこで今回は「ハウルの動く城」についてもう少し私の意見をまとめてみます。

実はこのようなことを書くことは嫌いで、「意味」から開放されないと「映画」は楽しめないと思っているのですが。しかし、映画論としてではなく私が思う「宮崎駿はエライ!」を「ハウルの動く城」を中心にまとめたいと思います。



宮崎駿の作品は、古くは旧約聖書に材を探り、ギリシャ神話、ギリシャ叙事詩、インド叙事詩、ダンテまでをも引用します。
古事記を。日本の民間伝承や説話を。
また、ガリバー旅行記、不思議の国のアリスも。

面白いのは、これらが全てユーラシアと日本から材を採っていること、つまり、非アメリカ的なことです。
また、題材の多くがハッピーエンドの冒険譚ではなく、「恐ろしさ」や「残酷さ」や「呪詛」までもを持ち合わせていることです。
そこでは、必ずしも善は勝利し、悪が滅びるわけではない。

宮崎駿の作品には、キリスト教的世界観の引用もありません。むしろニーチェ的であるといえるでしょう。

つまり、アメリカ型勧善懲悪主義に対する反旗と、アメリカ的価値観に毒された馬鹿な日本人の大人の教育から子供を解放することが、宮崎駿の大きなテーマであるような気がします。

「紅の豚」においてもあのジェントルなスタイルは米国型ハードボイルドではなく、むしろヨーロッパ中世の「騎士道」に近い。「天空の城ラピュタ」のパズーも、典型的な「騎士」です。(そういえば、彼の参加したルパン三世も、フランス人と日本人のお話です。)

さて、「ハウルの動く城」は、「昆虫」に見えたというenokenさんのご意見。さすが。
それから、ソフィーは呪いによって老婆に、ハウルはカラス(でしょう?たぶん)に「変身」しますよね。
「城」「昆虫」「変身」「カラス」といえば、これはもう、「カフカ」です。カフカはチェコ語で「カラス」という意味ですし。
婆様に変身させられたソフィーは、その事実を嘆き悲しむまでもなく、淡々と生きていきます。巨大な昆虫に変身した、グレゴール・ザムザのように。
動く城という巨大な機械は、「ある流刑地の話」を連想させます。

ソフィーは、罪もないのに呪いによって婆様になる。表面的には罪もないのに。ハウルの動く城はソフィーの罪を探る旅なのですが、これ、「審判」のモチーフです。

ただしカフカ的告発と不条理な結末には留まらず、物語は救済の話へと転じてゆきます。

人生を謳歌する母や妹とは対照的に、生真面目で地味な生活を選び、それを良しとはせぬが変化は拒む頑迷なソフィーの姿勢は「精神的な老い」を体現しています。若いという特権を行使しようとしない老婆のようなソフィーは、まさしく字のごとく「老婆」になってしまう。その呪いを解く旅は、実は「若く美しい精神を」取り戻す冒険です。

もうひとつの大きなモチーフは体制批判です。「体制」の権化として「動かない城」を牛耳る「椅子から一歩も動かない」サリマンは、淑女然とし、完全な人間性を獲得しているかのような風貌を帯びています。
しかし、世界を睥睨し、戦争への参加を呼びかけ、ハウルを一の弟子なのに困った子と位置づけます。魔女を呼びつけ、王宮の階段を老齢にもかかわらず登らせてしまうという「絶対的な権力」が非情さの証として描かれています。「荒地の魔女が階段を登らされて疲れていい気味」ではなく、サリマンの行使する権力の非情さをこの映画を観る子供たちに気づいて欲しいものだと思います。

一方でハウルは、髪の色が変わってしまったこと程度で子供のように泣く弱さと、戦争を憎み、ソフィーを守るためなら命を賭ける強さと人格を兼ね備えています。
つまり、人間は完全ではなく弱さも持ち合わせて当然で、しかし、真の正義と愛には忠実であることが美しいという作者の世界観の表象がハウルです。ハウルがサリマンの元を去るのは、「権力の放棄」であり「自由の獲得」です。

童話を完全な米国型に脚色したディ○ニー映画のお姫様ものばかり観ていては、宮崎駿のアニメは理解できないでしょう。

シン○レラや白○姫の問題は、真面目に生きる人は救われ、悪は滅びるという価値観しか持ち合わせないことです。一番の問題は、「絶対的な悪人(例えば魔女)は間違いなく存在し、そのような人間は抹殺されてしかるべき」という思想を顕揚てしまうこと。さらには、「王子様と結婚して幸せに暮らしました」となることによって、忌むべき権力への従属が幸せであるという階級意識への隷属を当然視させてしまうことです。

こうしたディ○ニー形アニメへの宮崎駿の反旗を見てゆきます。

例えば荒地の魔女は、ソフィーを呪いによって「老婆」に変えてしまいます。ディ○ニー的には「悪」なのでしょう。しかし、前述のように、「ひっそりとまじめに暮らしている」けれども「引きこもって鬱々としている」ソフィーの精神をそのまま肉体的に体現せしめると、それが精神的に「老婆の姿」であることは容易に了解されます。「呪い」によってソフィーにそれを「気づかせ」、行動によってしか「精神的な老いから開放されない」ことをソフィーに教えた、荒地の魔女は「ソフィーの救世主」なのです。

ですからもちろん、荒地の魔女は映画の中で悪しき所業を一切行わない。

それを、「魔女=呪い=魔女は悪者=老婆にされてしまったソフィーがかわいそう」としか考えられない子供に育ててしまった私たち親が、自分もそのようにしか考えられないことを恥じ、荒地の魔女とは何者かを子供に教えてあげなければなりません。

サリマン同様、「椅子に座って」好きでもない帽子を作ってばかりいるソフィーは、「呪いを解く」=「若いのに老婆の(ようにしか)振舞えなかった自分に真の若さを取り戻す」旅に出ます。すなわち「行動によってしか、道は切り開けない」ことを教えてくれたのは、魔女の呪いなのです。
極めて、ニーチェ的です。

我々がディ○ニー映画で親しんできてしまった、「王子様にキスされて目覚め、幸せになる」という、「愛されることの幸せ」=「受動的な愛」ではなく、ソフィーのように「私はハウルのことを愛している!」と自ら叫ぶことによって、自らに巣食う「精神的な老い」を駆逐し、精神的な若さを取り戻すことによってもちろん肉体的な「若さ」を取り戻す=「自らの力で呪いを解く」という「能動的な愛」の顕揚。
行動が大事だという強いメッセージですね。

サリマンという、「体制」も、権力から譲歩の姿勢を見せる。ここ元から無かった善と悪は、最終的に明確な形で消滅します。

ハウルの城が「動く」のは、行動することの表象であり、城下を作って民衆対権力の図式を作らないという「権力からの逸脱」の意思表明であり、虫のように花畑で自由に走り回る夢の象徴だともいえるでしょう。

もちろん、作者の意図を探るのは好きではありません。なぜなら、「意図」は、「映っていない 」からですし、上に書いたようなことが「理解できても、映画を楽しむことにはならない」からです。

ですから、描かれる人物や風景や風や雨や色彩の運動を観てホレボレすることが、「映画を観ること」だと思っています。


−了

閉じる コメント(6)

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しばらくパリに行ってました。僕の質問に答えてくださったのか、ていねいな記事を書いてくださってありがとうございます! よく分かりました。カフカですか。読んでません。すみません。 読んでみます!

2006/1/10(火) 午後 3:29 [ enoken ]

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パリですか。いいですねえ。 今後とも、お手柔らかに(笑)。

2006/1/11(水) 午前 0:11 [ aly*nv ]

ところで、そういえば、沼地の魔女が、階段を上った後に、骨抜きになったようになって、まるで子供みたいになってしまいますよね・・・

2006/3/3(金) 午後 6:53 [ eno**n555 ]

あれは、「無垢」ですね。赤ん坊の「無垢」。沼地の魔女は、何一つ悪いことをしてないんです。

2006/4/5(水) 午前 3:26 [ aly*nv ]

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もしもハウルの動く城が息子の宮崎吾朗だとしたらどのような作風に仕上がっていたのでしょうか?

2017/10/15(日) 午後 5:49 [ コナン ]

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> コナンさん
遅くなりました。宮崎吾朗もセンスはあると思いますが、宮崎駿は天才なので比較するのは可哀そう。駿さんのように、記号を配置したりすることは出来ないでしょう。吾郎さんが監督をすると、ハウルの動く城という難解なモチーフはよりストーリーラインが単純化され「お話として」判りやすくはなるでしょう。また、若く美しいソフィーをより多く登場させたいという願望から、三人の老女の対比的な描写は少なくなるでしょう。

2017/10/31(火) 午後 4:58 [ aly*nv ]


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