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お久しぶりです。と言うべきでしょうか。
少し、復活してみます。



映画が大好きな私は、宮崎駿のアニメを面白く拝見することが多かった。

が、最近の傑作、「風立ちぬ」について、評価や「読み解く」みたいなものを目にしても、「ちょっと違う」というものが多くあって、そこで、「麦秋」、「おくりびと」について徹底的に書いてみた私としては、「風立ちぬ」について書いてみたいなと。

きっかけは、岡田斗司夫氏の、風立ちぬ評で、例えばお絹さんについて書いている部分。
要約すると、

「二郎と菜穂子は、列車で遭遇する。後に結婚するが、二郎が最初に惚れたのは、菜穂子ではなく、列車に同乗していたお絹である。」
その理由として、
「二郎が大学の教室にいるときに、用務のおじさんが「二郎宛てに女の人が荷物を置いていった」ことを告げる。 届けられた風呂敷包みを開けると、二郎が彼女たちに与えた着替えのシャツと計算尺と手紙が入っていた。」
「その時、お絹が校門を去っていくイメージのカットが挿入される。」
その後、二郎は妹の加代に、「きっとその人、お兄様のこと好きだったのよ。(震災の後)その家に行ってみたの?」と訊かれ、「行ってみたけどもう誰もいなかった。焼け跡だった」
という会話を拾うことが出来る。

よって二郎が最初に好いたのはお絹であって、菜穂子ではない。求婚の際に、「帽子を受け取ってくれた日から(君を愛していた)というのは、ささやかな嘘だ」
というものだった。


しかし私の見方は違う。


映っていない主人公の心情などを推量することは辞め、フィクションの修辞学を念頭に、描写と、記号だけを拾い集めれば、以下のようにいえるはずだ。

「菜穂子とお絹、二郎の三人が出会った汽車の中のシーンを端緒に、地震の発生から最後に二郎が手を振って神社を後にするまでの一連のシークエンスで、二郎のアクションによって三角関係が発動している。同時に、結局、二郎はお絹を選ばないという選択までもがきちんと予弁として描かれている。後に計算尺やシャツをお絹が学校にいる二郎に届けたのは、袖にされたお絹による二郎との決別の挨拶である。」


以下、解説してみよう。


ご留意いただきたいのは、以下に解説する登場人物の二郎、菜穂子、お絹三者の心理などは扱わないということだ。しかし、以下の解説では、彼らがそう思ったかのような表現をすることがある。しかし、彼らが実際にそう思ったということではない。そのようなものは画面に映っていないからだ。しかし、フィクションの文法に沿って、そのような書き方をすることをお許しいただきたい。


読んでいくのは記号。そして予弁と見立てである。これらをこの物語を描く宮崎駿の権能とテクスト論的な読みに従って解読してゆく。


震災発生の直前の電車の中で、二郎と菜穂子、お絹は出会う。
二郎は三等車に、菜穂子は二等車に乗っている。

そして風が立つ。
二郎の帽子が風に飛ばされ、菜穂子がそれをキャッチする。
ナイスキャッチ。

コミュニケーションの成立だ。

菜穂子がバランスを崩す。
二郎が二等車に乗り移り、菜穂子を受け止める。

菜穂子は言う
“Le vent se lève,” (風立ちぬ)

二郎は答える。

“il faut tenter de vivre” (いざ、生きめやも)



恋愛譚と言うフィクションの背景には、歴史的に「身分の壁」、「敵味方」、「三角関係」、「病」、「消息不明」、「戦争による別離」などという設定がつきものである。
「風によって飛ぶ帽子をキャッチ」し、二郎が「三等車から二等車に飛び移るという身分の壁を乗り越えるかのような所作を模倣し」「二人にしかわからない会話の成立(詩の一節を二人でつぶやく)によって、フィクションの世界では、この後もちろん二人は恋愛関係に陥らなければならない。

しかし、また風が立つ。大震災だ。
地震波が海からやってくるその波紋は、風が起こす波の文様と同等であることに注目しよう。
二郎が菜穂子と軽井沢で再会し、ナイスキャッチ!という言葉が再度響き、愛が再開されるのは、「湖に波紋を立ててやってきた突風」が、菜穂子のパラソルを飛ばしたからだという事実を想起しよう。

汽車は脱線し、お絹は足を骨折する。そのお絹を二郎が手当てする。
この手当の所作は、女性の切れた鼻緒を男が直すという、フィクションの常套手段として初対面の男女の間に愛が発動する、その代表的な所作を模倣したものだ。

二郎は図らずも、菜穂子とお絹の両方に対して、愛のアクションを披露してしまっているのである。

こうして、二郎、菜穂子、お絹の三人の間に、フィクションとしての恋愛の条件である「三角関係」が発動する。


二郎は言う。

そこ(上野の菜穂子とお絹の住まい)まで送って行こう。

お絹を背負う二郎。

この「背負う」という行為がキィの一つだ。

男が女を「背負って」歩く、という行為は男女の道行きを容易に想像させる。

しかし、お絹を背負って線路を歩く二郎の後ろを、菜穂子が、二郎のトランクを持って付いてくる。菜穂子らの荷物は置き去りにされる。
二郎は言う「君たちの荷物は?」
菜穂子は答える「いいんです。」

菜穂子が自らの荷を捨て着いてくるその所作は、後段、二郎と菜穂子の結婚式の際の、媒酌人の黒川夫人の口上である「七品万宝投げ捨てて、身一つにて山を下りし〜」、つまり、「自らの持ち物を捨て置き、身一つで添う」という「新妻の所作」を予弁として模倣しているのである。菜穂子も負けてはいないのだ。

一度、神社で休憩する三人。
そして二郎はシャツに浸した水を、己が手で、お絹に飲ませる。

わざわざ描かれるこの艶めかしいシークエンスは、もちろん、「盃事」つまり、「三々九度」の模倣なのである。

同じシャツを渡された菜穂子は、その水を「口にせず」、顔をぬぐうにとどめる。
二郎が好きな「美しさ」を顔の汚れをぬぐうことで担保するように。(もちろん菜穂子にそのような心理が働いたということではない。物語の神である宮崎駿が記号として、符牒としてそうした描き方をしているとうことだ)
だが、三々九度は、二郎とお絹の間に交わされた。こうしてお絹は、二郎との道行の権利を勝ち取ったかに見える。

しかし、次の瞬間二郎は言う。

「自分は本郷(母校の東大)へ戻る。貴女方は?」

思い出そう。その少し前、脱線した列車のそばでお絹の足の手当てをした際、二郎は彼女たちに「上野まで送る」と言っていたはずなのだ。

こうして簡単に前言を翻す二郎。
伏線は、お絹を背負って歩く途中、二郎が転びかけるシーンにある。
物理的なお絹の重さと、お絹とともに行く将来の道行の不可能性が、お絹を背負う二郎を転ばせることによって二重に示されているのである。

さて、「僕は本郷の学校へ行く、貴女方は?」と、約束など無かったかのように告げる二郎に、菜穂子が、

「私、家のものを呼びに行きます。」という。
「僕も一緒に行きましょう。」
という二郎。

お絹を背負って送り届けるはずが、結局、彼女らの住まいには「菜穂子とだけ一緒に行く」ことになる。

二郎は神社に残されるお絹に対し、必ず戻ってきますと言い残す。
荷物をお絹に預けた二郎は、菜穂子の「手を引いて」家に向かう。これもまた道行である。
二郎は戻ってくる。そしてまた私を背負う。お絹はそうして二郎を待つ。

菜穂子を届け、職人たちを率いてお絹の元に戻る。
今度はお絹を背負って、約束通り上野まで届けてくれるのか?
しかし、そのお絹を、今度は二郎に同行したその職人が背負う。

つまり以下のように読めばよい。

まずは二郎とお絹の関係から。
鼻緒を直すかのような所作で恋愛の始まりを予兆させ、家まで送って行こうと言って二郎はお絹を背負う。二人の将来の道行が暗示される。しかし、二郎は途中で「躓く」。神社に立ち寄り、お絹を「降ろす」が、そこで、お絹に水を飲ませるという(三々九度の模倣)所作を披露する。
しかし家まで送り届けるという言葉を反故にし、僕は本郷へ行くという。その後、ライバルである菜穂子と二郎が「手に手をとって歩み去り(二郎が菜穂子を送り届け)、戻った二郎は連れてきた職人に、お絹を背負わせる。
お絹を「背負ってきた」二郎が、フィクション上、将来の約束をするかのような行動をとりながら翻意し、菜穂子と共に歩む姿をお絹に見せつけ、連れてきた職人にお絹を背負わせ、その後を託して去る。「背負う男」が二郎から職人へと変わるわけだが、それは、背負うという所作の同質性において、「二郎がお絹を職人に譲り渡す」ということを示しているのだ。

従って、フィクションの文法では、その後、お絹はその職人と「添う」ことになる。

お絹は後に二郎の通う東大を訪れ、シャツを計算尺を届けるが、シャツは「盃事(さかづきごと)」の、その盃である。
そのお絹の「盃を二郎に返す」という所作はすなわち、二郎に「別れを告げて」いるのだ。


つまり、誰が何を考えているかなどの想像を廃し、フィクションの修辞学に従って単純に出来事と発言だけを丹念に拾い、記号を読めば、記号は語るのである。


では次に、菜穂子と二郎の関係に戻ろう。

風が立ち、飛ばされる二郎の帽子をキャッチし、三等車から二等車に乗り移って女性の元にゆく(フィクションの文法上)ことで二郎は階級差を乗り越え、二人にしかわからぬフランス語の詩の一節を吟じ合うことで恋愛の始まりが告げられる。
しかし、また風が吹き(風が波を立たせるように地震波が海に波を形成する)、突然、二郎はお絹に愛の所作を示す。つまりは、骨折したお絹の足を、切れた鼻緒を挿げ替えるように手当てし、「家まで送る」という言葉と「背負う」という行為で、お絹と二郎、二人の将来の道行が暗示される。
汽車の中で、菜穂子と二郎がの二人が取り交わした道行の約束は反故にされたかのようだ。菜穂子も負けてはいない。自らの荷物を捨て、「身一つで道を共にする」ために、二郎の荷物のみを持って後に続く。
しかし、途中休憩した神社で、あろうことか二郎はお絹と「盃事」を執り行う、取ってつけたようにシャツを差し出され、「あなたは?」と聞く二郎。もちろん、お絹と並んで盃事を執り行うことは出来ない。だから、汚れた顔を拭うことで応える。「汚れを落とした顔を見て。私は美しいのよ。見て、貴女は美しいものが好きでしょう。」とばかりに。
こうして、お絹と菜穂子は全く違う位相で二郎の誘惑に応じる。
最後に二郎の取った行動は、お絹との約束の反故と、菜穂子との道行である。二郎は約束通り、上野の家まで送り届ける。時系列に見て、汽車の中で二郎と菜穂子は愛の発動を確認しながらも、突如二郎は「お絹を背負った」のだが、結局は「菜穂子の手を取って歩む」。上野の家まで送り届けたのは菜穂子一人でお絹は排除されている。二郎はお絹との約束通り神社に戻るが、背負う約束のお絹を捨て置き、同行した職人に「背負わせてしまう」。こうしてお絹の譲渡は完了し、最後に道を共にした菜穂子と二郎との再会とその後の道行が担保されたのだ。

面白いのはこのエピソードの後始末だ。

学び舎にいる二郎の元に届けられたシャツと計算尺。
その際、お絹が校門を出てゆくカットが挿入される。このカット、神の視線で描かれたカットなのか(つまり、実際にお絹が来校したのか)、スクリーンに何度も登場する二郎の妄想なのかは判然としない。
お絹が「別れを告げに来た」ことを示すカットであることは間違いないのだが。

この後、失意の様子で下宿に帰った二郎に、女中が女性客の来訪を告げる。二階で待っているという。
二郎は駆け上がる。
はたして、待っているのはお絹か?それとも菜穂子か?

部屋に入ると果たして、窓の外を見る女性の姿がある。
見ている我々も、後ろ姿ではだれなのか判然としない。

つまりこういうことだ。

震災の折、二郎の出会った菜穂子は「洋装」で、帽子をかぶりつつも「おかっぱ」頭だった。そしてお絹は「着物姿」で「髪を結いあげ」ていた。
さて二郎の下宿に現れた後ろ姿の女性は、お絹と菜穂子両方の特徴を備えていることにお気づきだろうか?
後ろ姿の彼女は「おかっぱ頭」で「着物姿」。
だから二郎は、一目でどちらかわからなかったのだ。

このあたり、宮崎駿は非常にうまい。

さて、下宿で待っていたのは実は妹なのだが、それはどうでも良い。

二郎の中で、恋愛対象と成りうる女性は「お絹と菜穂子の二人」だったということだ。そのどちらが本命なのかは観客には不可知であるかのように表現されているのである。

しかし振り向いた女性は二郎の妹、加代であることが判明する。
二郎は言う。
「大きくなったね。きれいになったなあ。」

二郎と菜穂子が初めて出会ったのは、列車の中。当時の菜穂子はおそらく中学生くらいだろう。

「大きくなったね。きれいになったなあ。」
この言葉をあえて響かせるのは、大きくなり、きれいになる菜穂子を遠く見据えてのものなのである。

さて、次回は最初から風立ちぬを見ていこう。



-to be continued

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どうもです。おっしゃってることはそのとおりよく判ります。
<即時に速断>は一般のコミュニケーションに必要です。
「常識的」であったり、するためにもね(笑)。

後段、Onionさんのおっしゃるフィクション論はよくわかります。
でね、記号を普通に読めない批評家が多すぎる。映画を観てないし、フィクションの文法を知らないってことです(笑)。だってね、そこにある記号を勝手に取捨選択しつつ、「感想や考え」を混在させている。だから単なる解釈の段階で間違え、その間違いを論拠に演繹的に「考えて」この作品は何ぞや、なんて言っているんです。あきれます(笑)。なんで考える必要があるの、ってことです。

2015/4/2(木) 午前 2:13 [ aly*nv ]

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この作品はごく単純に、「人生は矛盾だ。あなたもわたしも。」って言ってるだけ。
劇中のカストルプは魔の山の主人公で、実はゾルゲがモデルだ、なんてことを言って、それで面白いかっていうと、別に面白くもなんともない。普通に教養があれば誰もが思う。
「堀辰夫」も「神曲・煉獄編」も「ファウスト」も、「魔の山」がどうのこうのもわかる。しかし引用元がどうのこうのは単なる「碩学の開陳」なんですよね。それより、それらの引用元が全て「三国同盟」の国々で、登場する設計士三人もその三国。しかし、菜穂子と二郎の交わす言葉の中に出てくる外国語はフランス語と英語、つまり連合国の言葉なんです。そういう「構造」を誰も言わない。だから腹が立ってね(笑)。

2015/4/2(木) 午前 2:25 [ aly*nv ]

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ブログ巡り中にお邪魔します!
記事を幾つか見せて頂きました♪
文章が私より丁寧でとっても参考になりました♪
まだ×2、ダメダメなブログではありますが頑張って更新するので見て下さい☆

2015/5/13(水) 午後 1:16 [ ユイ ]


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