* 安住 千聖 お気楽生活 *

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スピンオフ・玲

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登場人物

佐々原 玲・・・ティアーズの キーボード担当
佐々原 萌・・・玲の姉 結婚間近 悩みあり

細川 俊一・・・萌の婚約者 ワケあり
藤原 明史・・・細川家の弁護士

「選び出した記憶たち」の 11月頃の お話
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玲の憂鬱(終)

「向こうの両親も 知ってたんですか? 最低っ」
「萌さんには、本当に 申し訳ない事を しました。細川家と つり合う家柄の女性は なかなか
おりませんでしたので、利用させてもらう 形になってしまいました」
 藤原は 振り向きながら すまなそうに言った。
「うちの父なんて、ただの国家公務員 ですけどね。確かに 祖父の代までは ちょっとした 家だったけど。  
でも、どうするつもりだったんですか? 俊一さんは 女性がダメなんでしょ。
後継ぎなんて 無理ですよね? 」

 藤原は ネクタイを少し緩め、ため息をついた。
「それに、こんな事オレに話して いいんですか? …… 何が目的なんでしょう」
「昨日 お父様に電話して、おおよその事を お話ししたのですが、大変ショックを 受けておられました」
「そりゃそうだ。娘の縁談が ダメになって、しかも10日後には 結婚式を 控えてたんだから。
…… で、破談の理由は どうするんですか? 」

「俊一に、他に付き合ってる女性がいて、萌さんの方から 断った ―― という事にしました。
萌さんには 話を合わせて下さるよう、お願いしてあります」
「家は 夕べから大騒ぎですよ。姉は寝込んだふりをして 部屋に閉じこもってるし、母や祖母は
泣いたり 言い争ったりで大変だ。でも、結婚した後で分かるよりは 良かったのかなと、
オレは思っています」


 オレは 単純に興味があって 聞いた。
「藤原さんと 俊一さんの事、誰も 気付いてないんですか? 」
「ええ、…… 多分」
 藤原は 車を降りて、軽く背伸びをした。オレも車を降りた。
「今日 玲さんにお会いしたのは、冷静に話ができる相手が 必要だったからです。事情を知っている
人がいた方が、私も 動きやすいので」

 飛行機雲が ゆるやかな曲線を 描いている。
「俊一との事を 見破ったのは、玲さんだけですよ。話していて 冷や冷やしました、ずっと」
「オレも ビックリしました。想像もしてなかったから」
「私には妻と、子どもがふたり おりました。4年前、細川家の仕事を通して 俊一と知り合いましてね」
 藤原は 誰かに話したかったのだと思い、黙って聞いた。

「家族を捨てました。自分でも驚いてます、こんな人生になるなんて。私は俊一のように
クールには なれないんです。いつもどこかに 罪の意識がある」
 オレは 藤原の背中を見ていた。
「立場や地位を捨てて、二人で どこかへ行く事も 考えたのですが …… 」

「できないですよね、実際には。オレは よく分からないんですが、好きなら好きでいいんじゃ
ないでしょうか。相手が 男だろうが女だろうが、同じですよ。罪の意識って、自分がゲイって
事に対してですか? それとも 捨ててしまった 家族への思いですか? 」
「 …… 」
「同性愛って、日本では 変な目で見られるけど、アメリカでは 結構フツーでしたよ。
オレ、小学生の時、シアトルと ロスに住んでたので」

 「家族だって、今は 離れて暮らしていても、サポートできるでしょ。経済的にも、精神的にも。
そういう 誠意を持っていれば、伝わりますって、絶対」
「玲さん …… 何だか 救われた気がします」
 藤原は 小さくため息をついた。
「オレなんかで 救われないで下さいよ。姉の事は くれぐれもよろしくお願いします」
「分かりました。お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした。さ、どうぞ、お送りします」

「いえ、ここから 歩いて行きます。すぐだから」
「そうですか。それでは ここで失礼します」
「あの、オレ、誰にも言いませんから」
 藤原は 黙って礼をすると、車に乗り込んだ。

 足元の小石を蹴ると、乾いた音を立てて 枯れ葉の中に消えて行った。

                                           END

玲の憂鬱(D)

「萌さんとは、さきほど お話しさせていただきました。彼女には 何の非もないので、
細川家の方から 手厚く …… 」
「なんだか、姉が道具みたいに扱われて、腹のムシが 収まらないんですけど」
「よく分かります」
「だいたい、女の人がダメなのに 結婚して世間を欺こうなんて、相手に選ばれた女性が いい迷惑だ」
 オレは シートに深く 座り直した。


 車は 環7から 駒沢通りに入った。
「欺くつもりなどは、なかったのですが …… 」
右折の時に 藤原が漏らした一言が 引っ掛かった。
「つもりはなかった ―― って、藤原さん、初めから 状況を知ってたみたいな 言い方ですね」
「はい。萌さんと 細川さんが知り合った時、私も一緒に居りましたので」

「そうなんですか。姉は 俊一さんみたいな人と 知り合えて、ハイになってました。イケメンで、
一流企業の やり手で、独身! ってね」
「かなり 積極的にされていたみたいで、すぐに会社でも 噂になったようです」
 いかにも 姉のやりそうな事だった。頭に血が上って、周りに ペラペラ喋りまくったのだろう。

「姉は 思い込みの 激しいタイプだからな。俊一さんは 最初から乗り気じゃ なかったんですね? 」
「何度も 断っていたようです。『 誰とも結婚する気はない 』 と」

 俊一が あの日言った事と、藤原が言っている事は 同じだった。
頭の中で ずっと感じていた違和感が、カチッと一つに重なった。


「あっ。…… もしかして、藤原さんが 俊一さんの相手ですか? 」
 藤原は 無言で運転を続けた。
「だから 詳しく知ってるんだ。こんなに早く 破談の後始末に来るって事は、こういう事態を
ある程度 予想してたってこと? 」
 沈黙の後、藤原が つぶやくように言った。
「俊一が言った通り、実に カンのいい方だ」

 黒のジャガーは、小さな路地を曲がって 止まった。
オレは 頭の中を整理しようと、ずっと 一点を見つめていた。

「質問していいですか? 初めから 姉をダミーにするつもりは なかったんですね? 」
「ええ。俊一は 誰とも結婚する気など なかったのです。でも、周りからプレッシャーを
かけられていました。家が家ですからね、後継ぎができない事には …… 」
 オレは ため息交じりに言った。
「そこにたまたま、姉が現れたワケだ? 」

「はい。本当は、お金さえあれば 夫が何をしてもかまわない ―― そんな女性を 探していたのです。
萌さんは、そういうタイプの 女性ではないので、ためらいました」
「周りがどんどん 盛り上がっていった ワケですね? 」
「俊一の両親も、薄々感じ始めていましたから。自分の息子は、女性に興味が ないのではないか ――。
それで、とりあえず ふたりを結婚させてくれ、と頼まれました」

玲の憂鬱(C)

「あの、結婚式とか、両家の事とか、全部 クリアにして下さいね。姉に 変なウワサでも立ったら、
オレ、許さないから。…… バレると まずいですよね、俊一さん、エリートだし」
「分かりました。すべてこちらで 対処させていただきます」
 ため息をつくと、俊一が続けた。
「ご両親に よろしくお伝え下さい。多分もう、お会いすることはないので」

 オレは 店中の人が見つめる中、萌の後を追った。萌は 表参道駅の方へ歩いていた。
「お姉ちゃん、ちょっと待ってよ」
「ああ、玲。…… ごめんね、変な事に付き合わせて。お父さんやお母さんに、何て言おう。
大騒ぎになるだろうなー」
「それは、あっちの出方を見てからでいいよ。俊一さんに 頼んできたから」

 ホッとしたのか、萌はビルの階段にすわって 泣きだした。オレは黙って 泣き止むのを待った。


「どないやった? 」
 打ち合わせの後、才三が 歩きながら聞いた。
「予感的中。女性には 感じないんだって、何も」
「なんや、そっち系かい」
「変だと思ってたんだよね。家柄の良い エリートのイケメンの男が、36まで独身なんてさ」
「お前んちも、エリート一家やん」
「オヤジの代まではね。オレも姉ちゃんも フツーだよ」
「ほいで、どないすんねん、これから」

 どないする ―― もなかった。
 俊一と会った次の日には、オヤジ宛てに電話があり、その次の日には 弁護士が家に来ることになった。


「佐々原、玲さんですね? 」
 大学の門を出た所で、見知らぬ男に 呼び止められた。
「あの、どちら様でしたっけ? 」
「これは 失礼いたしました。私、藤原と申します」
 身なりの良い、50才くらいの男が 差し出した名刺には、弁護士と書いてあった。

「細川俊一さんの件で …… ちょっと お時間いただけますか? 」
「これから 事務所で、打ち合わせなんですけど」
「よろしかったら お送りいたしましょう。どうぞ」
 藤原は、手入れの行き届いた ジャガーのドアを開けた。
 車は 入り組んだ細い道を、パズルでも解くように 進んで行く。


「オレに 何の話でしょう? 今日、家に来るんですよね、事情を説明しに」
「ええ。その前に 玲さんと少しお話がしたくて。…… 今回の事は、どこからの情報でしょう? 」
「ああ、俊一さんが …… ゲイって事ですか? 」
 藤原は バックミラー越しに うなずいた。情報の出所を突き止めて、口止めやなんかを
するんだなと、ぼんやり思った。俊一の家は、由緒正しい旧家だから。

「あれは、オレのカンです。何だか おかしいと思って、カマかけてみたんです」
 藤原は 小さく溜息をついた。
「それでは、誰かに 見られたというのは? 」
「その場の思いつきです」
 車は 信号で止まった。オレには 藤原の考えていることが 読めないでいた。

「それでは 今回の件を知っているのは …… 」
「オレと姉だけです。何考えてるんだか分らないけど、誰にも言うな って事なんでしょ?
父にも母にも、言いませんよ。言えるワケないし」

玲の憂鬱(B)

 7時に 俊一とレストランで会った。
「やあ、玲君。お久しぶりです」
「申し訳ありません、急にお呼びして」
 俊一はチラッと萌を見た。

「今日は何かな? 姉弟揃って」
ワインで乾杯した後、俊一が切り出した。
「あの …… 私、ずっと 気になっていた事があって …… 」
 萌はそう言うと、俯いたまま 何も言わない。いつもは気が強いくせに、肝心な時に何も言えなくなる。
と言うより『 嫌な予感 』でもあるんだろう。

「すみません、とてもプライベートな事で、弟のオレが 口をはさむ問題じゃないって、
分かってるんですけど」
 俊一は持っていたナイフとフォークを置くと、ナプキンで口を拭いた。
「あの …… 俊一さんを、怪しげなトコロで見かけた人がいて ……、オレ、まさかって思ったんですが」

『 カマ 』かけてみぃ。――才三がそう言ったので、直感通りに 攻めてみようと思った。


「それで? 」
 表情一つ変えずに 俊一が言った。
「それでって、オレとしては、このまま 姉と結婚しちゃって いいのかな、と思ったんです。
姉も 不安になってるみたいだし」

「萌、結婚を止めたいの? 」
「私、どうしていいか、分からなくなっちゃって …… 」
「どうなんでしょう、本当のところ。姉とは一度も、そのぉ、何もないって言うし」
「私見ちゃったの。俊一と男の人が、…… 抱き合ってる写真」
 写真の話は 初めて聞いて ビビったけど、それで確信した。俊一はゲイだ。

「だから 言いましたよね、最初に。ボクは 結婚するつもりは無いと。萌が あまりに積極的
だったので、ここまで 話が進んでしまいました」
俊一はじっと オレを見た。
「どうするつもりだったんですか? 姉と結婚しても …… ダメなんでしょ? 女の人」
「あっと言う間に 萌との事が 周りに広まって、ボクの両親も 乗り気になりましてね。
ボクはもう それでもいいと思ったんです」


 目の前に並んだ 料理を食べながら、俊一は淡々と話を続けた。どんな神経をしてるんだ。
「ボクも36ですし、周りからは 早く結婚しろと、うるさかったんです。そこに萌との
結婚話が持ち上がって、社会的にも 信用が得られますから、丁度よかった」
「それで …… 私を どうするつもりだったの? 」
「しばらく経ったら、萌から 離婚話が出るだろう と思いました」
「それまでは、姉を 飼殺しにするつもりだった ―― って事ですか? 結婚して、ゲイである
自分を カムフラージュするために」

「飼殺し? いえ、何の不自由もない 結婚生活は 保証しますよ。ボクの収入だったら
人並み以上の生活ができます」
「 …… でも、俊一が 私を抱くことは …… 決して、無いのよね? 」
「結婚して いつまでも セックスしてる夫婦なんて、そんなにいませんよ。それに、
慰謝料は 十分な額を 支払うつもりでした」
「アンタねえっ」
思わず立ち上がったオレを、萌が押さえた。

「私は、あなたにとって 何だったの? 私を愛してくれたんじゃ、なかったの? 」
「萌の存在は 愛していますよ。ある意味で ボクを救ってくれました。けれど残念ながら、
ボクは女性には 感じないんです、何も」

 萌は立ち上がると、テーブルクロスを 思いっきり引っ張った。
食器や、料理やグラスが、ものすごい音を立てて 床に散らばって割れて行く。
まるで スローモーションを 見ているようだった。
 
 冷めた目で 俊一に中指を突き立てて、萌は店を出て行った。

玲の憂鬱(A)

「私、結婚やめようかなあー」
「やめるって、披露宴、再来週でしょ? どうすんのさ」
 パソコンに向かっていたオレは、手を止めて 姉の萌を見た。

「どうしたらいいかな? 」
「結婚できないような、重大な理由でもあるの? じゃなきゃちょっとまずいよ、ここまできて」
「重大な理由 ……。誰にも言えない、こんな事。特に恋愛経験ナシの 玲じゃね」
「じゃあ 最初から言うなよ。オレ卒論、ヤバイんだから出てってよ、気が散る」

「私たち帰国子女で、言いたい事をハッキリ言うって、みんな思ってるけど、
根底にあるのは、やっぱり 日本人の気質なのよね …… 」
「何だよ、そんなに言いにくい事? 俊一さんに他に彼女がいるとか? 」

 萌はしばらく 夜空を見上げていた。
「何もないんだ、俊一と …… 」
「何もって セックスの事? 待ってよ、二人、付き合ってどれくらいだっけ」
「1年と2か月。…… でも、キスしかしてない」


 オレは固まったまま 考え込んだ。
「私って そんなに魅力ないかな。結婚まで 取っておくって事かな? 」
「そんなの オレに聞かないで、直接 俊一さんに聞けばいいじゃん。何やってんだよ、
結婚前から セックスレスなんてさ」
「俊一に聞ければ、こんなに悩まないわよ。ふんっ、玲になんか 話すんじゃなかった」
 
 萌は 部屋を出て行こうとした。
「ちょっと待ってよ。このまま結婚して、例えば俊一さんがEDとか ワケありだったら、
後々めんどうじゃない? 」
「だから、結婚する前に 確かめなきゃ、って思ったの。でもどうしていいか分からなくて …… 」
「んーーー、本人に 直接聞こう」
「えっ、聞けないよ、私」
「そんな事言ってないで、オレが 付いて行ってやるよ」

 とは言ったものの、内心ヤバイなと思った。こんなプライベートな事、
弟のオレが出て行って 何て言えばいいのさ。
 俊一さんにだって 3回しか会った事ない。でも姉ちゃんが こんな相談するなんて、よほどの事だ。


「玲、何ぼーっとしてんねん、行くで」
「ああ、ごめん。…… 才三でもいいか」
「何が オレでもええのや? 」
「まあまあ。あのさあ、付き合って1年以上になるのに、セックスしない男って どう思う? 」
「何やお前、インポかいな」
「オレじゃねーよっ! ちょっと相談されたんだ。何もしないまま結婚するのって、どうかと思うよね」

 才三は タバコに火を点けながら言った。
「せやなー。1年以上付き合ってるんやったら、何度も チャンスはあったやろうし、
しないんやなくて、できないんちゃうか? 」
「 …… できない理由が あるんだろうね、何か」
「萌さんか? 」
「 …… 」
「玲が ほんな相談されるなんて、そうあらへんやろ」

「まあね。結婚式は10日後だっていうのに、今頃相談されても 困るってーの」
「その話聞いた時、お前はどう思ったんや? 」
「うーん、相手の男は ゲイなのかな、って思った。何となくだけどね」
 才三は タバコの箱を 探しながら言った。

「玲のカンは、けっこう当たるやん。結婚前に 何とかした方がいいんとちゃう? 」
「今日会うんだ、その相手と。うちの母親やばあちゃんは、見栄や世間体のかたまりだから、
破談なんて言ったら、大騒ぎになるだろうな。それで姉ちゃんも 今まで言い出せなかったんだ」
「あっちに問題があれば、何とかなるやろ。萌さんは傷つくけどな」

 オレはため息をついて 立ち上がった。

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