* 安住 千聖 お気楽生活 *

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スピンオフ・タケ

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登場人物

武田 俊明・・・ティアーズのドラム担当 
本間 由梨・・・タケの高校時代の同級生 タケが好きだった

須崎 基夫・・・由梨の元彼 ワケあり
二宮 雄章・・・タケが依頼した弁護士

「ブレイク スルー」の 後半頃のお話
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タケの悔悟(終)

 ある日 移動の車で 昌也といっしょになった。
テレビ局を出る時、トラブルがあって 小島さんが 席を外した。

「昌也、ちょっと 聞いていい? 」
「 …… 何? 」
 『 ZONE 』 の件があってから、昌也はずっと 不機嫌な顔をしてる。

「えーっと、彼女の過去ってさ、気になる? 」
「過去? 」
「うん …… たとえば 高野さん、前に 結婚してたよね」
「ああ、そっか。考えた事なかったな、オレ。七海と出会ってから まだ2か月 経ってないし」
「すっげぇ、濃い 2か月だよな」
「ん。少し 頭を冷やせってことか …… 」

 そう言うと昌也は 窓を少し開けた。排気ガスのにおいが 入りこんできた。
「好きな人がいるんだ、タケ」
「好きなのかな、やっぱり。だけど、彼女の過去が ちょっとハードで …… 正直 ビビってたんだ。
オレに 何ができるんだろう、ってさ」
「何も できないのかもな。…… 過去なんて 誰にもあるし」
 
 昌也は 窓の外を見ながら言った。
「好きなんやから、しゃあないやんけ ―― 才三だったら、そう言うだろうな」
「ははは、言いそう。そうだよな、しゃあないよな。…… 彼女の全部を 受け止める覚悟が
できてなかったんだ、オレは」

 小島さんが、ハンカチで 汗を拭きながら 戻って来た。
「良かった、昌也と話せて」
「こっちこそ、ちょっと 吹っ切れた気がする」
「オレ、もう迷わない。もう一度会って 話してみる」



 高校のグランドの横に 車を止めた。家の近くで 待ち伏せして、やっと由梨を 連れて来た。
「この前言った事、オレ、本気だから」
 由梨は ぼんやりグランドを見ていた。
「もうオレの事 嫌いだったら、それでもいい。でもオレは そばにいたい、由梨が前みたいに
笑えるようになるまで。泣きたい時は、いくらでも泣いていいから …… 」

 ずっと黙ったままの由梨に、かまわず続けた。
「ティアーズさ、解散するかもしれないんだ」
 由梨が 初めてオレを見た。
「 …… どうして? 」
「ん、色々あってね。前みたいな バンドとしての活動が できなくなったし、この前才三が
ぶっ倒れちまったし」
「解散て、そしたらみんな どうなるの? 」
「まだそこまでは 考えてないけど、契約やら色々あって、早くても 来年末になるかな」


 おれは車を降りて、夜中のグランドに 忍び込んだ。初冬の冷たい風が 心地良かった。
「タケ、いいの? ドラムが 叩けなくなっても。ティアーズだって こんなに売れてるのに」
「売れるのは 最初の目標だったけど、大事なものを 無くしそうだって、みんな気付いてた」
 オレは フェンスの向こうの 由梨に言った。
「ホントはさ、由梨にそばにいて欲しいのは オレの方なんだ。不安なんだ、解散するの。
オレ、ドラムしか叩けないし」

 ほとんど灯りのないグランドを 走りはじめた。こんな風に 無心に走るのは 久しぶりだった。
高校の頃は ラグビー部だったのに、2周走った頃には汗が吹き出し、4周目には地面に倒れ込んだ。
星がいくつも キラキラ光ってる。
 
 オレの顔を 由梨がのぞき込んだ。
「フェンスよじ登ったのなんて、高校以来だわ。はい」
 差し出したハンカチで 汗を拭いた。
「やっべー。たった3周で ダウンだ」
「運動不足と、タバコの吸いすぎね」

 由梨の腕を引き寄せ、キスした。
「オレは 由梨が好きだ。これからはさ、ふたりで歩いて行く事を 考えないか? 」
「私 …… 汚い …… こんな身体」
「すぐにじゃなくていいから、ゆっくりさ」
「 …… 」
「オレの事、まだ好き? 」

 由梨は 黙ってうなずいた。
「それで充分だ」
 立ち上がって あちこちの砂を払った。
「ああー、腹減ったー」
「ご飯、食べてないの? 」
「うん、打ち上げの途中で 抜け出して来たから。ヨシギュウ行こう」

 由梨が ふっと笑った。
「久しぶりに見た。笑顔の方が ずっといいって」
 オレは 由梨の手をつないで、フェンスの方へ 歩き出した。

 冷たい風が吹いていても、そこだけほんわか温かかった。

                                           END

タケの悔悟(4)

 突然 エイジが抜けたため、所属していたレコード会社から 契約を打ち切られ、
高い違約金を 払ったみたいだった。
 レコーディングしたCDも 発売中止で、ティアーズの存続自体が 危うかった。
新しい会社を探しても、ヴォーカルが抜けた、それも ほとんど売れていないバンドと
契約してくれるところなど 無かった。
 小島さんは 毎日走りまわっていたけど、ティアーズは 活動停止。再開するメドもたたず
時間だけが 過ぎて行った。


 麻希とも なかなか会えず、電話やメールも少なくなり、気が付けば 夏も終わりかけていた。
やっと電話がつながったと思ったら、麻希の後ろに 男の声がした。
「誰かいるの? 」 
「えっ、…… ちょっとね」
「男? 」
 麻希はため息をつくと、話し出した。

「タケが悪いのよ。私の事 ずっとほったらかしにして。電話にも 出てくれなかったじゃない」
「それは、ティアーズが 大変だったんだ。エイジが抜けて …… 」
「言い訳は たくさんっ。私、もう、付き合ってる人がいるから。2度と電話しないで」
「待てよ、会ってちゃんと話そう」
「もういいっ。会いたい時に 会えない男は嫌なの。じゃあ」

 それが麻希との終わりだった。あっけないもんだ。


 仕事もプライベートも うまくいかない ―― オレは荒れた、すごく。 
うまくいきかけると ダメになる。意味ねえ! 何のために ここまでやって来たんだよ。
 そしてある日、心配して 訪ねて来てくれた由梨を抱いた、無理やり。
由梨は何も言わず ただ泣き続けた。


 それっきり会う事もなく、2年が過ぎた。

 高野先生との 打ち合わせの日。あの朝、駅に行く途中で 偶然に再会したのだ。
「タケ …… 」
 誰だか分らないくらい、由梨は変わっていた。ガリガリに痩せて、髪は金髪に近く、不自然なメイクが
いっそう 不健康に見せていた。
 由梨の目から ボロボロ涙がこぼれた。それが …… あの日、うさ晴らしに抱いた 由梨の泣き顔と
重なった。胸が痛かった。

 そのまま 中絶の手術に付き添った。
 そして 弁護士の二宮先生に 相談に行って、色々手を打ってもらった。

 この1か月、仕事の合間を縫って 由梨と過ごした、密度の高い時間。
 放っておけなかった。傷つけた由梨を、なんとか支えたかった。
 それで口から出た言葉が「 結婚しよう 」だもんな。もっと他に 言い方がなかったもんか。

 キッパリ断られたけど、逆にもっと由梨を 傷つけてしまったのかもしれない。

タケの悔悟(3)

 高3の春、由梨に告白された。
「私ね、あの ……、タケの事が好きだったの。1年生の時、タケの隣の席になった時から」
「ごめん、オレ …… 」
「ん、分かってる。タケと麻希が 付き合ってるの。もう、公認の仲だもんね」

 由梨はうつむいたまま続けた。
「私の気持ち、タケに知ってて欲しかったんだ。…… クラスが別々になって、あんまり会えなくなったから」
「 …… 」
「ごめんね、急に。じゃ、ドラム頑張ってね。応援してる」
 ニッコリ笑って 由梨は歩き出した。
 
 
 その頃オレは 麻希と付き合っていた。麻希も由梨も、1、2年の時のクラスメートで、
いつも何人かでつるんで遊んでた。
 麻希は バレー部のキャプテンで、先生や生徒達から人気があった。明るくて華やかな
麻希に、オレはどんどん惹かれていった。

「由梨にキッチリ言っておいたわ。私とタケの邪魔しないでねって」
「そんな事、わざわざ言わなくても」
「だって由梨は、ずっとタケの事好きなのよ。気付かなかった? 」
「いや、別に …… 」
「タケも、あんまり由梨とは 仲良くしないでね」
 オレは麻希に夢中で、彼女の独占欲やワガママが 可愛く思えた、その頃は。


 夏にティアーズが メジャーデビューして、キャンペーンで 地方へ行ったり、ライブハウスを
回ったりで、学校を休むこともあった。
「タケ、お早う。顔色悪いけど、またライブハウスから? 」
「ああ、名古屋からさっき着いたトコ。シンドイけど、なんか充実してる」
「デビューできてよかったね」

 由梨とは、校門を入った所で 偶然会った。こんな風に話すのは 久しぶりだ。
「お父さんが、また店に食べに来いって 言ってたよ」
「そうだ、由梨のオヤジさんには 世話になったよな。焼き肉、いっぱい食わせてもらったっけ」
「うん、たまには顔を見せて」
「サンキュー」

 それを麻希が見ていた。
「ねえ、由梨と 何しゃべってたの? 仲良くしないでって 言ったでしょ」
「門の所で会ったから、ちょっと話しただけだって」
「本当? 夕べは 電話もくれなかったわね」
「夕べはライブで、無理だよ」
「会えない時は電話するって、約束したじゃない」
「 …… 分かった、ごめん」
 麻希のワガママが シンドイなと感じ始めていたが、高校を卒業しても 付き合いは続いた。
 
 
 卒業してすぐ、2枚目のアルバムの レコーディングに入って、ものすごく忙しくなった。
 歌入れも終わって、これからって時に、ヴォーカルのエイジが 急に脱退して、とんでもない事になった。 

タケの悔悟(2)

「私、忘れられない、自分のしてきた事。忘れちゃいけないのよ」
「由梨、オレに何かできる事、ないかな? 」
 由梨は立ち上がって、スカートの砂を払った。

「会いたくなかった、タケには。…… こんな汚れた私なんか、見られたくなかった」
 夕日が 遠い波間に消えてゆく。由梨の頬を オレンジ色に染めている。
「でも、タケに会えたおかげだね。基夫 …… 須崎と別れられたの。あの弁護士の先生が
全部キレイにしてくれた。須崎は警察に捕まったし …… 私は 何のお咎めもなく、こうして
やっと自由になれた」
 そのままフラフラと 駅へ向かって歩き出した。


 オレは由梨を 引きとめられなかった。夕暮れの中を 歩いて行く背中は、
『 追いかけて来ないで 』 と言っているようだった。

 手術について行った時から、由梨に 色々な事があったんだろう とは思った。正直、ビビった。
 由梨の過去の重さが、オレにも重かった。―― オレに、何ができるんだろう。



 ――1か月前――

「小島さん、ちょっと …… 」
「おお、どうした、タケ」
「社長の友達の弁護士さん、何て言いましたっけ? 」
「ああ、二宮先生か? お前、何かしたのか。この前 行方不明になった時、何かあったのか? 」
「ち、違います。高校ん時の同級生が、ちょっと 面倒な事になってて、手に負えないから …… 」

 小島さんは ちらっと オレを見た。
「本当か? お前の事じゃないんだな。二宮先生は多忙だし、相談の内容にもよるが、
給料の2、3ヶ月分は軽く飛ぶぞ」
「いいです。…… 前に、才三の事も …… 」
「ああ、あいつの時は 本当に 大変だったんだ。色々裏に手を回してもらって ……。おっと、
なんにしろ、ティアーズの名前が出るような事はするなよ」
そう言って 小島さんは、二宮先生を 紹介してくれた。

 
 由梨とふたりで 相談に行って、1週間もした頃、電話がきた。
「武田俊明さんですね。二宮です、先日はどうも」
「はい、お世話さまです …… 」
「須崎基夫の件は、カタがつきました。お会いして お話したかったのですが、時間がありませんでね」
「あの、それで、本間由梨さんの事は …… 大丈夫ですよね? 」
「ええ、ご安心ください。ちょっと調べましたら、詐欺やら窃盗やら、余罪が出てきましてね。
近々、逮捕されるでしょう」

「それじゃあ …… 」
「あちらの件なら、ご心配なく。証拠は 完璧に処分いたしましたし、これ以上自分の罪が
重くなるような バカな真似は しないでしょう。一応 警察で余計な事を しゃべったら、
命の保証はないと 私の友人に 脅しをかけさせましたから。」
「ありがとうございました」
 オレは ホッとして 小さくため息をついた。

「それで、今回は大至急と言う事で、色々人の手を借りました。秘書の方から 請求書を
送らせますので 後日、銀行振り込みで お願いします」
「分かりました。どうもありがとうございました」
「いえ。この件で 何か不都合な事が起きましたら、ご連絡ください」
 二宮はそう言って 電話を切った。
 安心して 身体の力が 抜けた。裏から 手を回したんだろうな、きっと。

 そのまま 由梨に電話した。
「由梨、今二宮先生から 電話がきて、この前の事、カタがついたから、もう心配ないって」
「タケ …… ありがとう。私 …… 」
 ケータイのの向こう側で 由梨が泣いている。
「もう大丈夫だから。ね、会えないかな? 」
「ごめん …… 私、会えない、今は」

 それから由梨とは 連絡が取れなくなった。オレも忙しくて、会いに行く時間すら なくなってしまった。

 そして 数週間ぶりに やっと会えたのに この結果だもんな。落ち込む……。

タケの悔悟(1)

「由梨、結婚しよう」
 オレは振り向きながら言った。由梨はポカンとしたままだ。
「それって、同情? 」
「違う。ずっと考えてた。オレは由梨の笑った顔が、昔から好きだったなって」
「私 …… 私なんか、結婚できるワケ、ないじゃない」

 由梨は波打ち際を スタスタ歩き出した。
「待てよ」
 肩をつかんだ。
「離して。…… この前、中絶の手術について来てくれたでしょ。あれ、3度目なの」
「そんな事 …… 」
「関係ない? 私がどんな事をしてきたか、知らないから ……。タケと結婚できるような
女じゃないの」

「過去は、終わった事は しょうがねーじゃん。嫌な事は忘れよう、時間が かかるだろうけど。
オレが 付いててやるよ」
「お断りしますっ。帰るわ」
「待てってばっ」
 由梨を抱きしめた。
「オレがいいって言ってんだから、いいんだ」

「私、須崎にね、ウリやらされてたの。中絶した子、3人とも 誰の子か分からないのよ」
 吐き捨てるように言うと、由梨は身体を離した。
「須崎とは、バイト先で知り合ったの。すごく優しくて、遊び慣れてて、カッコ良く見えた。
私は高校の時から、ずっとタケの事が 好きだったけど、タケは麻希が好きで ……
忘れたかったの。新しい恋がしたかった …… 」

 由梨の瞳から ハラハラ涙がこぼれた。
「須崎が優しかったのは、ほんの半年位だった。私に飽きてくると …… 友達に抱かせた
…… お金を取って」
「由梨、もういい」
「嫌だって、何度も拒んだけど、指の爪はがされて …… お前のオヤジの店に 火を点けて
やるって 脅かされて …… 」
 しゃがみ込んだ由梨の背中を、オレは黙って見ていた。
「恐くて、どうしていいか分からなくて、須崎のいいなりになってた」


「もう嫌、こんな事。基夫とも別れるっ」
「由梨、ちょっとぐらい ガマンしろよ。月に4、50万も稼げるんだぞ」
「ヒモ …… あんたみたいな男、ヒモって言うのよね? 」
「ごちゃごちゃうるせえ。たった2時間 男の相手してればいいんだ、文句言うな。
いいよなー女は。自分の身体で いくらでも稼げるんだから」

「 …… 私だけじゃないよね、同じ事させてる女の子」
「6時にセンチュリーだ。用意しろよ」
「行かない。基夫の言う事なんか、2度と聞かない」
 マンションから出ようとしたら、基夫に押し倒された。

「お前、今さら逃げられると 思ってんのかよ。裸の写真 ばら撒くぞ」
「やればいい。基夫が何やってるか、警察で 全部しゃべってやるから」
 突然左手に 激痛が走った。あまりの痛さに、床の上を転げ回った。
左手を見ると、小指から 血があふれ出している。爪をはがされたのだ。

 私の髪をつかむと 基夫が言った。
「痛ぇか? 痛ぇだろ。言う事を聞かないと、毎日1枚ずつはがしてやる。足の爪も入れると
あと19枚だな。全部はがし終わったら、お前のオヤジの店に 火ぃでも点けるか? 」
「やめてぇ、お願い …… 」
 恐怖と痛さで、身体が震えた。

「言う事を聞きゃあいいんだ、分かったな? 」
 泣きながら黙ってうなずくと、基夫は1万円札を1枚 投げ捨てた。
「そこの外科で 手当てしてもらえ。6時、忘れるなよっ」

 それから 何人の男と寝ただろう。そんな生活が、1年も続いたのだ。

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