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 新ちゃんは先にきていた。
 男の隠れ家なる雑誌を立ち読みしている。
 
 「おぅ、来たか」
 「ありがとね、お昼はわたしがおごる」
 パシッとその立ち読みしていた雑誌で頭をはたかれた。
 「ば〜か、そんなもの俺に払わせろ」顔は笑っている。
 
 わたし達は近くの小さな和食屋へ入った。
 夜は飲み屋だがランチタイムは定食をやっている。
 メインも美味しいが、小鉢から味噌汁まで味も量も満足出来る。
 
 「さて、一体何を買うんだ?」
 「全部」
 「全部って全部・・・えっ?全部?」
 「そう全部、この間恵美ちゃんが言ってたイクヤと家電のオオシマ行きたい」
 「どうした、ドロボーにでも入られたのか?」
 ドロボーは入っても何も取らずにすぐ退散するだろう、しかしそんなことは言えない。
 「何もかも全て新しいわたしになりたいの」
 「・・・・・・」新ちゃんはジッとわたしの顔を見ている。
 「深くは聞かないで・・・」
 
 バンと勢いよくテーブルを両手でたたくと彼は立ち上がった。
 「よぉ〜〜し!俺に任せておけ、少し位なら貯金だってあるんだ」
 なぜか嬉しそうな新ちゃん。
 「あ・・・新ちゃんお金は大丈夫あるから」
 「金はある?お前がか?」
 今度は新ちゃんは悲しそうな顔をしている。
 「何があった?妻子持ちにでも騙されてその手切れ金とか、そんなことか」
 「なに言ってんの?そんなことあるわけないじゃん」
 「じゃあ、何で金がある?」
 
 ああ、そうだ新ちゃんはわたしの貧乏を知り尽くしている。
 カーテンやカバー類を新調して壊れた家電を買い替えて位に考えていたんだろう。
 わたしの全部はきっとその程度にしか新ちゃんじゃなくたって思うはずだ。
 わたしが100万近い現金でガバガバと買い物をしようとしているなんて誰も思わない。
 
 さあ困った何と説明したら納得してもらえるか、いや何を言っても信じてもらえないかもしれない。
 あの紙切れには誰かに話すなとは書いていなかった・・・はずだ。
 話すしかないか・・。
 
 「新ちゃん・・・実は今日起きたらドアのポストから100万円が投げ入れられていて・・・」
 紙切れの脅迫文の内容を仕方なく白状した。
 そしてなんでも屋に払った残りの手の切れそうなピン札の残りを見せた。
 「・・・」
 新ちゃんはお札に目を落とすと今度はわたしの目をじっと見たまま腕組みをして黙っている。
 
 「なあ、里央」
 「なに」
 「あのなあ、里央」
 「だから、なに」
 今度は新ちゃんが逡巡している。
 わたしと同じくキッパリとした性格の新ちゃんには珍しい。
 「今日一日だ」
 「うん・・・」
 「日付が変わるまで」
 「・・・?」
 「俺が」
 「この俺が」
 
 「命かけてお前を守るっ!」最後は大声だった。
 
 少し離れた席の年配のご夫婦らしき二人がこちらを見て微笑んで拍手している、口元は「おめでとう」と。
 新ちゃんはそれに気づいて真っ赤になって
 「あ、え、いや、そのプ・プロポーズじゃないっすから、あ、でも、あれ、それでもいい・・・・・・か」
 
 余りの想定外な展開にわたしは飲んでいた食後のお茶の湯呑みが傾いているのさえわからずしばらく
 呆然としていた。
 「おい、里央大丈夫か?」
 その声で我にかえる。
 駆け寄った新ちゃんの顔がすぐ目の前にあって思わずうつむいておしぼりで必死に拭く。
 「平気、平気」顔を見られない。
 「里央・・・、順序ってもんがある」
 バカ、突然プロポーズで順序もへったくれも・・・。
 「とにかくお前は俺にとって大事な存在なんだ、その変な脅迫者に指1本触れさせないから。ずっとお前の
 そばにいる。だからそんな金は使うな」
 「新ちゃん・・・」
 このようなシュチュエーション慣れしてないのでどんな反応をしていいのかわからないが泣きたい位嬉しい
 のだけは確かだ。
 「大事に思ってくれてたんだ」
 「ああ、もうずっと前からな」
 「ホントに・・・涙」
 「お〜〜し!今夜はお前の所に泊まる!安心しろ!俺はお前のボディガードだ!今日は何もしない!
 イチャツイテル場合ではない!お前は安心して眠れ!俺は一睡もせず見張ってる!」
 「新ちゃん・・・ありがと」

 ・・・と、ここでわたしは少しだけ現実を思い出した。
 幸せに浸っていたが思い出した。
 「新ちゃん、わたしの部屋全て処分して何もないの。布団さえ。」
 事実クローゼットまがいの中に段ボールに入った下着とタオル、化粧品&道具しか残してない。
 新ちゃんは顔をくしゃくしゃにして笑うとわたしの頭を撫でまわした。
 「らしいって言えばらしいがそこまで徹底してるとはな」
 「バカだよね、だって100万円ってあの狭いアパートに入るものだったら全部買えそうだし」
 ロクな家具などなかった酷い部屋だったとはさすがに言えなかった。
 
 「っで、里央順序ってもんがある・・・が、、、一緒に暮らそう」
 「へ?」
 「お前、へはないだろ」
 「慣れてないんだよ〜」
 「俺もだけどな、俺のアパートも狭いし今度の休みに二人で住む部屋探そう。今日はお前が使った分を
 銀行でおろしてまずキッカリ100万円に戻す。布団買って・・・ダブルがいいな、あっ、今日はお前
 独りで寝るんだぞ!先を見越して必要なものだけ買おう。」
 新ちゃんは頼もしかった。
 「明日になればこのおかしなやつからまた何かあるかも知れない。何事もなければ警察に届けよう。
 そして新しい部屋に移るまで俺のところにこい。」
 最初こそ驚いたがすっかり使う気満々だった自分が恥ずかしいほど新ちゃんはちゃんと考えてくれている。
 
 布団とパジャマ代わりの部屋着を買い、少し不動産やを周り、晩ご飯を外で食べわたし達はわたしの
 アパートに向かった。
 どこでもトイレに行く時は女子トイレの前まで付いてきてくれた。
 アパートのそばの今は空き地が出来ると狭い建て売りかコレかのパーキングに車をとめ、昔ながらの
 外付けの階段を上がり部屋の前に行くと誰かが居る。
 「あ〜里央・・・もう、どこ行っていたのよ〜、晃から聞いてないの?」
 後ろで布団を頭に担いだ新ちゃんがわたしの顔を見て誰という顔をしている。
 母だった。
 「何で?晃から?何も・・・、あっうちの母」
 新ちゃんは途端に背筋に1本つっかえ棒がされたかのように直立不動になると布団やらの大荷物をわたしに
 押しつける。
 「あ、あの古沢新冶といいます。え、里央と、あ、いや里央さんとは結婚を前提にお付き合いさせて・・・」
 言っている新ちゃんも真剣だったが、隣のわたしもこそばがゆいほど恥ずかしい。
 そんなわたし達にお構いなしに母はわたしと新ちゃんを交互に何度も見ると
 「里央、お付き合いしてる人いたの?やだぁ〜〜!」と大笑い。
 今度は我が母ながら新ちゃんと思わず顔を見合わせてしまった。
 「それで、今日はその大きな布団?でお泊りなのかしら。わたしは邪魔ものだわね、晃のとこでも
 泊めてもらおうかな。あの子今日わたしがこっちに用があってくるからって話もしてないのね」
 晃はわたしの3つ下の弟で姉を差し置き早々に結婚してもう3人の子供がいる。上は男の子でその次は
 双子の女の子が生まれたばかりだ。
 隣の市に住んでいる。
 
 「はは、おばあちゃんもまさかの結婚のお祝いとなってきっと喜ぶわ」
 「ちょっと待ってよ、何?さっきの晃からって」
 「この間ひ孫の顔を見せに長野に来た時、おばあちゃんもう畑も無理ってほとんどの土地手放した
 でしょ。晃にポンと100万お祝いにあげたの。その時にまだ彼氏もいない里央に結婚相談所?
 でも行って婚活に励みなさいって同額。晃に預けたのよ、持ってきてないの?」
 話が見えてきた。
 ポストに投げ入れられていた100万とあの脅迫者の正体が。
 「姉ちゃんに婚活で100万って無駄じゃないのなんて言ってたけど、いろいろな方と出逢ってみなきゃ
 なんておばあちゃんドラマで観たらしくて」
 おばあちゃんもおばあちゃんだが、新聞の活字切って貼った脅迫文付きでポストに投げ入れるとは
 悪戯にもほどがある。
 「でももういたなんてねぇ、どこでお知り合いに」
 「あっ!自分は里央さんがバイトをしている居酒屋の今は雇われ店長ですが将来は自分の店を持ちたい
 と資金を貯めているところで・・・おい、里央どうした?」
 「あいつ〜〜」
 「正体がわかって良かったじゃないか、しかし面白い弟さんだなぁ」
 「笑いごとじゃないっ」
 
 結局、わたし達3人は新ちゃんの車で弟のところに向かったのである。
 新ちゃんは母だけを送って来ると言ってくれたが強引にわたしも乗り込んだ。
 
 なぜって?
 
 

 シメテやるっ!!!
 
 
                                        おしまい

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そういう展開でしたか…!
てっきりどう100万円を使うのかという話かと素直に読んでました(笑)
それで100万円という金額だったのですね、納得しました。初回を読んだ時、1億円のほうがインパクトあるのに…と思ったんですが、この話なら100万円ですね。
いい話でした、とてもおもしろかったです(^-^)ポチ…!

2012/5/8(火) 午後 7:59 [ 清水しゅーまい ]

清水しゅーまいさん、こういう展開でした(笑)
わたしはひねくれてますので(爆)
1億円の壮大な物語でも書きたいですね。
しゅーまいさんは小説は書かないの?
地味に楽しんでいただけましたら幸いです、ありがとう。
ポチもいつもありがとうございます^^♪

2012/5/11(金) 午前 3:52 あみりん

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