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12月25日 クリスマス 第3夜
カチガラスは静まりかえった朝を迎えていました
ジャムさんは帰ってきませんでした
おばあさんの具合が悪かったのかも知れません
カチガラスは街に持って行くパンの注文票を見ていました
ジャムさん どうしよう 店は今日は開けなくてもいいんだけど
街の人が待ってるよ‥
カチガラスは窓の外を見て驚きました
窓の外は銀世界でした
わあ やっぱり積ったんだ ジャムさん これなら街は無理だね
カチガラスはジャムさんに向って言いました
みゃあーん
ミュウがジャムさんの代わりに答えます
ドンドン ドンドン
ジャムさん ジャムさん
女の人の声がします
カチガラスは慌てて扉を開けました
目の前に立っていたのは、若い熊のお姉さんでした
あらっ ジャムさんは?
ジャムさんは、おばあさんの所に行ったきりでまだ帰っていません
おばあさんの所に‥ ありがとう‥
そのお姉さんは涙を浮かべて、走って森へ入って行きました
雪にお姉さんの足跡が残っていました
あのお姉さんは、おばあさんの親戚なんだ‥
アッ傘!!それにこれは‥。
扉の横に赤い傘が置いてありました。
その横には白い小さな花をつけた鉢植えが置いてありました
お姉さん。慌ててたから忘れて行ったんだ
カチガラスはその花がおばあさんのために持って来た花だと分かりました
ミュウ。留守番頼んだよ
カチガラスは帽子とコートを着込んで出掛けました。
扉には、ジャムさんが一度だけ使った事のある
『用があるので休みます ごめんなさい ジャムのパンや』
の札が掛っていました
小鳥達も今朝はまだやってきていませんでした
ミュウが窓からカチガラスを見送りました
雪は森の奥へ行くほど深くなっていました
お姉さんの足跡が残っています。その足跡はずいぶんあちこちに散らばっていました
倒れたような跡もありました
おばあさんの家が見えます
カチガラスは一度深呼吸をするとドアをノックします
トントン
はい
ジャムさんの声でした
おや カチガラス君 今朝はすまなかったね おや それは‥
顔を覗かせたお姉さんが、赤い目をまん丸にします
まあ わざわざ届けてくれたのね ありがとう
お姉さんは優しく微笑むとカチガラスから、傘と鉢植えを受け取りました
さあ 中へ入ってちょうだい 今暖かいミルクを持ってくるわ
お姉さんに言われてジャムさんを見ると、ジャムさんも手招きします
お邪魔します
中に入ったカチガラスは、おばあさんの傍にヤギのお医者さんと看護師をしている奥さんがいたのでぺこりと挨拶をして、ジャムさんに勧められて暖炉の傍の椅子に座りました
カチガラス君。ごめんよ 心配しただろうね。街のみんなも待っているだろう‥
ジャムさんの目も赤くなっていました
今日は雪が積もったから、街のみんなも分かってくれるよ‥
はい。どうぞ 熱いから気をつけてね
お姉さんがカップを渡してくれたので、カチガラスはフーフーとミルクを冷ましてから飲みました
どう 温まったかしら!
ニッコリ笑って言うと、奥の方へ行って、お姉さんは濡れた髪をタオルで拭いていました。
でもそのタオルを口にあてて泣いている様子を見たジャムさんが、傍に行って、そっと、抱きよせます。お姉さんは、ジャムさんの腕の中で、声を押し殺して泣いていました
ヤギの奥さんがお姉さんに何か言います
慌てて涙をふくとおばあさんの傍に駆け寄りました
おばあさんの口元に耳を寄せて、何度もうなずきました
お姉さんは、おばあさんの細くなった手を握り締めています
ジャムさんがお姉さんの傍でおばあさんとお姉さんを見守っていました
おばあさんは、その時、鼻をヒクヒクさせて何かを探すような仕草をしました
もしかして!
カチガラスはカップを置くと、さっきの鉢植えを持ってお姉さんに差し出します
お姉さんは思い出したようにハッとしました。
カチガラスから鉢植えを受け取ると、おばあさんに花が見えるように目の高さに持って、おばあさんに話しかけました。
おばあさんの目から涙がこぼれます
手を伸ばしてその白い花の花弁に触れました
おばあさんの目はあまりよく見えなくなっていました。その白い花の香りと花弁でその花がおばあさんがずっと待っていた花だと分かったようでした。
おばあさんの目から涙が溢れて流れます。
手を伝った涙がその白い花びらに伝うと、不思議な事が起きました
白い花びらが水色に変わって、綺麗な青い花びらへと変わったのです
おお この花は‥
ヤギのお医者さんが驚いてその花を見ます
そこにいたみんなが驚いていると
ふふふ
おばあさんが微笑みます
あの人だわ あの人が悪戯してるの そうでしょ マリー花びらはブルーでしょ
また、みんなが驚きます
おばあさん見えたの!
お姉さんはマリーという名前でした
ああ マリー見たよ ずっと昔にね
おばあさんの声は、カチガラスにも聞こえるくらい大きくなりました
あの人。マリーのおじいちゃんは悪戯がとっても好きだったのよ
おばあちゃん‥知ってるわ。おじいちゃんは植物を研究する科学者だったんでしょ
マリーさんは、泣き顔を、無理に笑顔にして言いました
おじいちゃんが、病気になった頃にあなたが生まれたのよ。あなたに逢える時間が、あまり残されていない事を知っていたの。
ハアー
深いため息をして目を閉じます
マリーにずっと逢っていたかったのね。その花を創りだしたのよ。
えっ!この花はおじいちゃんが私の為に作ってくれた花だったの!
ジャムさんがマリーさんの肩に手を置きます
おばあさんはニッコリ笑いました。
その花の球根の中に一つだけ、私に宛てたラブレターを入れておいたよって、あの人が言ったわ。
あの人が亡くなって、何年してもその意味がわからなかったの。
マリーたちが街で暮らすことになった時に、球根をあなたのお母さんに全部渡したわ。だって、この花はマリーの為におじいちゃんが育てたのだから‥
フー
また深く息を吐きました
ヤギのお医者さんがおばあさんに休むように言いましたが、おばあさんは首を横に振ります
この花の香りを嗅いでるととっても、気分がいいんだよ。話をさせとくれ。
おばあさんは、ヤギの奥さんに勧められて、水を一口飲みました
フー久しぶりに水が美味しいこと。ありがとう。
マリーあなたの花の中に本当に私宛のラブレターがあったのね
おばあさんは青くなった花びらを優しく撫でました
あの人は青い目をしていたのよ
おじいちゃんの目って青かったの・・だから私の目も青かったんだ‥
マリーさんは、ジャムさんの手に自分の手を乗せました
ああ そうなんだよ お母さんも綺麗なブルーだろう おじいちゃんからもらったんだよ
おばあさんは話しているうちに顔色も良くなってきていました
ヤギのお医者さんがおばあさんの胸の音を聴きます
不思議だ!あんなに弱っていたのに‥おばあさん 気分はどうです?
ああ とってもいいよ。この香りを嗅いでいたらとても楽になってきたよ
ヤギのお医者さんは驚いて、奥さんと顔を見合せます
マリーさんは安心したのかまた、涙をぬぐっていました
ジャムさんはそんなマリーさんに優しく微笑みかけます
カチガラスはとっても心がポカポカしてきました
おばあさんがニッコリ笑ってメガネを取ってと言います
ありがとう。これでよく見えるよ。
おばあさんはみんなを見ました
この花には、私が大好きなラベンダーの香りがするんだよ
胸の痛みも無くなったし、とても楽になったよ
おじいさん ありがとう
マリーはそっと呟きました
ヤギのお医者さんと奥さんは昨日の夜から寝ていなかったので挨拶すると帰っていきました
もし、また具合が悪くなったら直ぐに呼んでくれよ
ジャムさんにそう言うとジャムさんもうなずきました
先生。御苦労さまでした。
ああジャムさんも疲れただろう じゃあ また
マリーさんとおばあさんは手を取り合っていました
おばあさんはジャムさんを手招きします
ジャムさん。一体いつまでマリーを待たせるんだい!
おばあちゃん!!
マリーさんの顔が真っ赤になります
カチガラスは、ジャムさんとマリーさんを交互に見て、目をパチクリさせました
ジャムさんが赤くなった顔で、頭を掻いています
早くしておくれ でなきゃ また 具合悪くなってやるからね!!
参ったなあ‥ マリー。
ジャムさんがマリーさんの手を握りました
結婚してください!!
マリーさんの瞳から大粒の涙が零れます
ジャムさん ありがとう
おばあさんが二人の手を上から握ると、カチガラスに向ってウインクしました
キラキラ輝く雪の中
鐘の音が聞こえてみんな驚きました
あの人だわ!! きっと、お祝いの鐘よ!!
銀世界の、森の中で鐘の音がずっと続いていました
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