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病院の建物に入った私は赤いランプの灯った処置室の壁をすり抜けて中に入った
慌ただしく動きまわる看護師さんや緑色の服を着けた先生がいた。
ベットに横たわっているのは
「お母さん・・・。」
お母さんだった。
青白い顔には苦しいのか汗がにじんでいる
お母さんの傍にいたかった。例え見えなくたってイイ。
でも、聡の演奏会の時間も迫っていた
お母さんはずっと、聡のピアノを聴いて元気になっていたんだ
どうにかして、この部屋に聡のピアノの演奏を流したい。そして、お母さんに一日でも長く生きていて欲しい
私は考えた。生まれて初めて考えていた
ピピピ ピピピ
「はい。輸血の準備お願いします。」
看護師さんがスピーカに応える。
スピーカー・・・スピーカー。
そうだ!!
私は妖精。魔法が使えるはず。このスピーカーを使って聡のピアノを届けられる
確か、小さな電話がどこかにあるはずだよね
私はナースステーションに行ってみた。
看護師さんたちが使ってる携帯電話は〜〜あった!!
これって ちょっとお借りしますね〜〜ごめん!!
いそげ〜〜メイは天使 飛べるんだよ〜〜!!
っと飛んでるんだけど・・それでこの携帯とどうやってスピーカーを繋ぐんだっけ?
マッいいか 今はとにかく聡の所に急ごう!!
ホールが見えてきた
あっあれはあの時の・・。
ホールの横の公園を走っていたのはあのボクサーの歩だった!
「歩!!ねえねえ歩!!」聞こえる訳ないか。
でも、歩は止まった。そして振り向いた。
「よ!!また会ったな。」
「なんで!なんで歩にはメイが見えるの?」
「黙ってて悪かった。俺、実は昔から見えなくていいもん見えちゃう人なんだ」
「何!!じゃあ、最初かっら見えてたの?メイの事!!」
「ああ、メイだったね。すまない。あんまり人に知られたくなくって黙ってたんだ」
「なんだ、歩むにはメイが見えるんだ」
何だか力が抜けてへなへなと座り込んだ
「おいおいどうした。この間の勢いは!!俺にベンチ飛ばして、威勢良かったじゃないか」
「うわあああん 歩助けてくれる?」
わたしったら泣いちゃってた。
「お前天使だって思ってたけど、天使でも出来ない事俺に出来るのか!」
「これ。。電話」
歩は携帯電話を受け取った
「へえ、いまどきの天使ってのは携帯までつかってんのか!」
「違うよ!分からないから助けて欲しいの・・」
歩は、泣いてる私の横に座り込んで話しを聞いてくれた
「そうか。じゃあ、メイの弟の演奏をお母さんに聞かせてやりたいんだな」
「うん。どうやったらイイの?」
「普通に携帯から病院の電話に送ってそれをスピーカーから流せば。」
「歩〜〜手伝ってじゅれる?」
「任せな。メイは俺達親子の守護神だからな!先ずはその弟の聡さんに説明しよう」
歩むの行動は素早かった
お母さんの状況を聞いて聡の表情は暗かったけど、傍にいた彼女が励ましてくれて、聡は演奏会を予定通りにすることになった。
「歩 ありがとう。じゃあ宜しくお願いね。メイは病院に行って準備するから」
「おお!!しっかりな!!」
「めい姉さん!いるんだよね・・。もうめい姉さんの事見えないし、声だって聞こえないけど、ありがとう姉さん。僕嬉しかったよ。会いに来てくれた事。それから、母さんの事。お願いするよ」
見えないけど、聡はちゃんと私に向かって言っていた。
「歩、伝えて。聡に会えて幸せだったって。それから後でそこの彼女に伝えて。聡を好きならよろしくってね」
聡はニッと笑うと、親指を立てていた。
私は直ぐに病院へ向かった
4時55分
もうすぐだ
病院の電話とスピーカーを繋ぐ作業は案外簡単だった。病院全部に流せる放送を使うんだ。
ただ、あの部屋には普通流されていなかった。でも、あの部屋にもちゃんとスピーカーはあったから操作できるはずだよね
5時だ!!電話が鳴る私はありったけの念力を使ってその電話を放送用のスピーカーに繋いだ
ピンポンパンポン
看護師さんたちが驚いていた。
「誰なの?誰か触った?」
スイッチへ向かう一人の看護師さんのナースキャップを念力で外した
キャッー何これー!!勝手に飛んでった!
もう一人がスイッチに手を伸ばす
その時だった
聡のピアノの音が病院中に響き始めた
「アラッイイ曲ね。もしかして医院長が夕方の合図にでも使ったのかしらねえ 誰か聞いてる?」
その場にいた誰もが知らないと言った
「それいしても綺麗な曲。」
「きっと、医院長先生ですよ。切って怒られたら私嫌です」
「それもそうね。ピアノだったら暫くはイイかもね。このままにしておきましょう」
やったー!!これで大丈夫。次は肝心のお母さんには届いてるのかな
また、壁をすり抜けて入って行った
その部屋の中にもちゃんとピアノの曲が流れていて、みんなは驚いていた。
看護師さん先生をちらっと見て、スピーカーの電源を切ろうと動いた
「先生!!意識が戻りました。目が開いています。」
お母さんはベットの上で、にっこり微笑んでいた。そうしてピアノの曲に合わせて指を動かせていたの。
「メイなんだろう。ありがとう。聡のピアノ聴かせてくれてるんだね」
「分かりますか!佐藤さんご自宅で倒れていらしたんですよ」
「アラッ先生。心配おかけしました。お料理を作り終えて暫くうとうとしてたんです。誰かが来たって思って、慌てて玄関に向かったらフラフラしっちゃったみたい」
「お気分は?」
「気持ちいいですよ。とっても。長い夢を見ていました。最初はとっても辛い夢でした。でも途中からはまるで天国にいるみたいな気持よさでしたよ。もしかして、此処は天国?」
「佐藤さん。大丈夫まだちゃんと生きていらっしゃいますよ!」
「だって、先生。こんな素敵な曲の中で目覚めたら誰だって天国かと思ってしまいますよ!」
「佐藤さんの血圧正常に戻りました。心拍も良好です」
看護師さんの声
「佐藤さん。実は一部食道からの出血が見られて貧血になっていたようですが、自覚症状があったんじゃないですか?」
「ああ そうねえ時たまふらついてたかしらね。今はなんともないみたい。」
「はい。内視鏡でその部分を焼いて閉じています。でも、やはり手術は駄目ですか!今ならまだ、助かる命なんですよ!佐藤さん。新しい命を取り出すのがあなたの役目なら、僕達医者は癌という出来物を取り除いてその大切な命を守る事に全てを掛けているんです。同じ医者なら、何故分かっていただけないんですか!」
お母さん?なんで・・助かる命を諦めてしまうの?
もしかして、まだ、私に悪かったからなんて思ってないよね・・。
ピアノの音が止まった
〜この曲を母に贈ります。僕の母は偉大な事を毎日しています。それは新しい命。大切な命をこの世に誕生させるお手伝いをしている医者です。僕は双子でした。姉は残念ながらこの世で産声を上げる事ができませんでした。僕も目が見えません。母は苦しみながら、産婦人科への道を歩みました。我が子を失う苦しさを知っているからこそ、母はその仕事を通して、まるで亡くなった姉に詫びるように出産が無事に終わった夜に必ず、姉の為に編んだ靴下を握りしめて寝ます。50年経った今でも。そんな母が、癌になりました。延命治療を受ける事を拒んでいます。何故・・・母さん。母さんは間違ってるよ。母さんが今、諦めて死んで姉さんが喜ぶと想うの?姉さんは母さんにまだ一杯生きて欲しい筈だよ。今、聞こえてるよね。これは姉さんがしてくれたんだよ。母さんに元気になって欲しいって。僕のピアノを聴いて頑張って勉強していたあの頃を思い出してほしいって。母さん。僕だって同じだよ。命を守る仕事をしている母さんが誇りなんだ。Dから僕だって頑張ってこれた。母さん、生きて!生きてよ!まだ、その希望を捨てないで。あの頃みたいにがんむしゃらに頑張って生きようよ!」
聡の声に変わってピアノの音色が響いてきた。
今度はバイオリンと一緒だった
「聡・・・なんて優しい曲なんでしょう」
そこにいた誰の目も赤くなっていた
緑の服の先生なんて鼻をかんでいた
「佐藤さん。良い息子さんですね」
まだ、かすれたような声で先生が言った
「はい、本当にあの子には、随分助けて貰いました。先生。今まで我がままでした。ごめんなさい。宜しくお願いします」
「佐藤さん。手術受けて頂けるんですね!!良かった」
ヤッター!!お母さん手術受けるんだね!!
お母さんより、その先生の方が泣いていた。
後で知ったんだけど、あの先生。実はお母さんが、取り上げた第1号だったんだって!
ホントに助けたかったんだね。感謝だよね。
その後 お母さんは手術が成功して癌の転移した部分の摘出も2回行われたんだ。
末期がんって言ったのは、自分が諦めてしまったからあの年配の看護師さんに言ってたんだけど、まだ、手術で治る段階だったんだって。
聡はもうすぐお父さんになるんだよ。
そうそうあの時の響子さんと結婚したんだ
なんと双子!!
メイはどうしてるのかって?
メイはずっと旅を続けていたよ
日本中を飛び回ってた。もうそろそろ赤ちゃんが生まれるかも知れないから戻って来たんだ
弟子と一緒にね!!
アレ!知らなかった?天使になったら、先輩として後輩の天使を一人面倒みるの
なんでメイにはそんな先輩いなかったのって!
いたよ!でも、どの先輩もメイの面倒見れないからってりタイヤしたの!一人が楽じゃん。
その頃私って飛べなかったからね。
で、その弟子ってのがまた困った食いしん坊なのよ〜子ブタちゃんみたいに太ってるから羽があるのに飛べないの!!もう、どうにかして〜〜面倒見きれないよ!!
ああ お母さんだ!やっぱり白衣が似合うねえ♪
あれはっ!!響さんだ!!生まれるんだね
「メイ先輩。あのお腹には私、負けてますよね」
「はいはい そうだね。でもあれって赤ちゃん産んだらぺちゃんこになるんだよ」
「いいなあ ねえ先輩この中に赤ちゃんいないですよね?いるんだったらよかったなあ」
「プーミン置いて行くよ!」
「あーん メイ先輩置いてかないで下さいよ!」
おぎゃあ おぎゃああ
おぎゃああ おぎゃあ
双子ちゃん 無事生まれたんだ 良かった
聡おめでとう。
お母さん。おばあちゃんだね。
「アレ先輩!もう行くんですか?来たばかりなのに、少し休ませて下さいよ」
「しょうがないなあ ホラックッキー食べないの!!」
「だって随分歩いたからお腹空いて、背中がくっつきますよ」
「あんた、背中見えないでしょ。分かるの?」
「いやだな〜例えですったら!!」
キャキャ
キャキャ
「笑ってる・お母様。この子達今、笑いましたよね!」
「ああ笑ったね。大かた天使でも見えたんだろうよ。おお可愛いでちゅねえ」
ばればれやん
ほな またな
ん・・前んとこの訛りが・・・ほな さいなら みなさん おおきに
また 何処かであいまひょ
コホン また 何処かでお会いしましょうね。
いつか その日まで さようなら
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