一誠館第弐〜日々の戯言〜

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天使と悪魔(小説2)

僕は二十歳になっていた。母の初恋の人に助けられてから、僕は一人で暮らしてきた。母は僕がこの世に誕生した時に、この世から去った。僕には父はいなかった。死んだのか、逃げたのか、それとも母が妊娠したことも知らないのか、僕には確かめようがなかった。

母は天涯孤独だった。祖父母は亡くなっていたし、親戚はいなかった。僕を育ててくれる血のつながった大人はいなかった。そして施設に行った。

施設で育った僕は高校卒業と共に働きに出た。職業は鍵屋。二十四時間どこにでも行く鍵屋。最近やっと一人立ちできるようになった。鍵は本当に色々な種類があって、ほとんどの鍵を開けられないと一人前とは認めてもらえなかった。今の僕には開けられない鍵はない。そんなことがちょっとした自慢だった。

そんなある日、僕は友達に誘われてコンサートに行った。その歌手は十八歳の女の子。僕がファンだと聞いた友達が、僕を誘ってくれたのだ。

コンサートが始まる。僕は初めて泣いた。悲しくて泣いたことはあった。しかしこの涙は悲しみの涙ではなかった。でも感動でもない。何か分からない涙が僕の頬をつたう。悲しくもない、嬉しくもない、感動でもない、自然とこぼれ落ちる涙。感情とは違うところで流れる本能の涙。僕は呆然と立っていた。三十分は涙を流し、少しも動かずただ立ち尽くしていたかもしれない。

彼女はステージ上で誰よりも小さかった。そして細かった。けれど一番輝いていた。僕にはあんなに小さな女の子がとても大きく遠い存在に思えた。でも彼女を見ていると何故か懐かしい感じもした。

彼女は歌っていた。「泣きたくない。でも逃げたくない。」彼女のダンスと歌声がステージ上で輝く。こちら側の人間は全て彼女に引きつけられる。僕の涙は止まらなかった。

彼女は天使に見えた。でも悪魔にも見えた。あそこで輝く女の子は天使なのか?それとも僕を泣かす彼女は悪魔なのか?僕にはどうでもよかった。あなたが存在してくれるだけで良かった。

彼女は僕の人生に影響を与える、血のつながらない人間の二人目にだった。

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